ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

抗体検査とガタカな未来

まっさらな新型のウイルスには、真の専門家が存在しない。日々あらたな経験知を蓄積しつつある、というのが世界の現状だろう。それでも、この数か月にわたる闘争から得られた人類の知見というのがあって、それを簡潔にまとめた記事というのが、このほど『ニ…

モラヴィアのワイン酒場 (2)

photo by LEEROY 承前。中高年は昔話ばかりするからきらわれるのだ──といわれても、書くねたに窮すれば致し方ない。だが、個人的には年寄りの話もさほど苦痛に感じないたちだから、聴くのを厭うひとの気持ちはよくわからない。内容にもよるか。いずれにせよ…

モラヴィアのワイン酒場 (1)

photo by Jindra Jindrich くだものの果汁は、それじたい単糖類を含んでいるから、抛っておけばアルコール発酵がすすんでしまう。それが、おなじ醸造酒といってもビールや日本酒とは異なる点で、そういう意味でワインというのは、もっとも原始的な酒に属して…

復活祭、スリヴォヴィツェ、ホロコースト

photo by Marcela Lukášíková 不安が人びとにとり憑くいっぽう、特定の商品の需給が逼迫している。それで、ドラッグストアの棚から衛生スプレーが消えてしまうと、どうにか安手の蒸留酒のたぐいで賄えないものかと考えてしまった。かといって、もっとも…

消えゆく赤軍顕彰の像

承前。ポール・ウェラーがワルシャワのジャズ・クラブで「壁は崩れる」と呪いのことばを吟じてから4年後、はしなくも「壁」が崩れ去ったことは、周知のとおり。労働者独裁をやっている国はなくなった。アジアで僭称している政権などは除いて。 友人のさそい…

スタイル・カウンシルのワルシャワ

photo by Charlie Galant 春の陽気とコロナの憂鬱のなか、イースターがちかづいている。しかし、謎のウイルスに完膚なきまでに打ちのめされた人類に「復活の日」などやってくるのだろうか。 ところで、最初にワルシャワを訪れたのが十何年かまえではあったの…

インフォデミックの果て

グテーレス国連事務総長をして、第二次世界大戦以来「最大の試練」と評せしめたコロナウイルスの大流行。いまやメディアの注意を引く世界の中心は、大陸欧州から北米にシフトした観がある。アメリカ合衆国の感染者数は、イタリアのそれの、ざっと倍に達して…

エドワード・ホッパーの距離感としじま

志村けんも命を落とした。幅広い年齢層によく知られた「国民的コメディアンの死」と報じられている。ニュースなど耳にはいらず遊び歩いている層も「バラエティ番組」の変化には気づくかもしれない。変わってしまった街の風景に気づいたときには、もう遅すぎ…

オヴ・ザ・コンプレックス

photo by Lisa scott あのね、フジナミがね…… ──などといわれても、何のことだか、ぴんとこないほどの野球音痴である。昔日の新日本プロレスにおける藤波辰爾の勇姿しか、思い浮かばなかった。とほほ。 しかし、ニュースを検索すると、おおよそ把握できた。…

ビハインド・ザ・マスク・2020

photo by Juraj Varga 世界中で一斉におなじことを体験する機会というのはめずらしい。延期になったオリンピックなど、スポーツ観戦ならあり得るが、それだって興味のない者は観ない。 こうなってみると、各国で焦眉の課題にのぼったのは、石油でも天然ガス…

チェコ語におけるドイツ語からの借用語

さいきん、Kurzarbeitというドイツ語がスラヴ語圏のメディアにあらわれるようになった。直訳すれば「短い労働」ではあるが、コロナ禍の影響で、賃金労働者の勤務時間が短縮されて稼ぎが減った分を、雇用主が解雇しないことを条件に国が補填するような仕組み…

カレル・チャペクとフゴ・ハースの『白い病』

感染予防のため、集会をとりやめ、人びとにお互いの距離を保つようにと、ときには政府首脳までもが直に呼びかけるなか、馬耳東風のていで遊び歩くひともいる。ドイツでは「コローナパーティ」なる語もできたそうだ。そういえば、若年層は罹りにくく、高齢者…

疫病神の正体

人間が右往左往していても、花は咲く。春である。もう春分か。夜桜をあてに暗くなってから散歩に出るのもわるくはないが──暗がりで疫病神に遭った人もいた。 『今昔物語集』に「或る所の膳部、善雄伴の大納言の霊を見たる語」というのがある。そこで疫病神の…

疫病神の道行き

WHOは、もはや事実を追認するだけの機関になりさがってしまったが、それでも認めるだけましだろう。コロナウイルスによるパンデミックの中心が大陸欧州に移ったことは、つとに明白であった。 学校の閉鎖は、日本政府が打ち出したときは批判の声もあがったが…

スペイン風邪と比べるなかれ……?

2020年3月13日、日経平均株価は一時1800円を超える大幅な下落を記録した。取引時間中としては1990年4月以来、およそ30年ぶりの下げ幅だという。 このところ英語圏の記事で目立っていたのは「コロナウイルスはスペイン風邪とは違う」というような論旨である。…

シン・コロナ

photo by Jens Johnsson WHOがとうとうパンデミック宣言を発出した、と報じられた。「世界的大流行」と定義されたところで、流行が止まってくれるわけでなし、株価とて上昇しはじめるわけでもあるまいが。多くの識者は主観的には、パンデミックといってよい…

ブレナー峠

国境のブレナー峠では、オーストリアの連邦警察が、イタリアからの旅客に検問を実施している。どちらから来て、どちらに滞在しましたか。そして、どちらへ向かわれるのですか──と聞くと『クォ・ヴァディス』を思い出すけれども、そんなふうに警官が車の窓越…

悪疫と報道

週明け9日のニューヨーク株式市場では、サーキット・ブレイカーが発動して売買が一時停止されるほどの急落で、過去最大の下げ幅を記録した。OPEC交渉決裂の報もあり、いよいよコロナ相場もここに極まれりといった観があるが、まだ先が見えたわけでもない。…

ハムスター三点盛り

photo by bierfritze 1) 捨てハムスター 2) ハムスター買い 3) ハムスター氏、the オンブズマン 1) 捨てハムスター イングランド北部・ダーリントンで、ゴールデン・ハムスターが18匹、ロボロフスキー・ハムスターが2匹、散歩中の犬によって発見された。3月3…

スロヴァキアの弾丸

報道によると、「飛翔体」という語が、ぴんとこないからというような理由で政府の発表から除かれたそうである。 北朝鮮がさかんに試射しているものは「ミサイル」と推定されようところだが、これは自衛隊用語ではよく「誘導弾」と呼ばれる装備である。したが…

閏日と政治

閏日たる2月29日を指す英語の「leap day」はジャンプ、跳躍の日という語感があるが、ドイツ語の「Schalttag」ではシフトする、スイッチの日、切り替えの日という感じだ。チェコ語では同様に「přestupný den」という。さいきん報じられてきた懸案の数々も、あ…

イラーセクの風化

人間、意に反して何かをやらされたりすると、それに嫌悪感を抱くようになる。そこまでいかなくとも、飽きあきするようになる。──会社の仕事とか、学校の勉強とか、地域の活動とか、なんでもいい。それについて話題にするのはおろか、思い出したりもしたくな…

灰の水曜日とコロナ禍

ことしは2月26日が「灰の水曜日」であった。イースターから46日前の水曜日を指している。ブラジルなどをのぞけば、公休日になっている国はあまりないが、カルネヴァルの終わりも意味するなど、文化的にはなかなか大きな節目ではある。 ふるくは灰をかぶる習…

ハシェクと聖マティアの日

『兵士シュヴェイク』で知られるヤロスラフ・ハシェク(1883-1923)は、とくにポヴィートキとかフモレスキとか呼ばれたジャンルで掌篇の名手でもあった。生年がおなじで没年も近いからか、その生涯はカフカに似ているなどとWikipediaには説明がある。けれど…

トマーシュ・ガリグ・マサリク

2月23日は天皇誕生日であった。代替わりによって12月から祝日が移動し、令和のあたらしい歳時記が始まったことになるが、かつて昭和年間には4月であった。さかのぼれば文明開化の世に、さらなる国民の統合に資すべしなどという思いつきからはじまったもので…

病に効くスープとは

身内が入院することになり、欧州と日本を往来する生活にはいった頃の話である。当時「手術後に咀嚼できぬ者が、栄養を摂って次の手術に備えなければならない」という難問が持ち上がった。 何年も経ったいま現在でこそ、大手食品メイカーの多くが嚥下食と呼ば…

コンビニ考

photo by Duy Nguyen コンビニ大手・セブン&アイHDが、米石油精製会社マラソン・ペトロリアムとM&Aの交渉をしているという報道があった。何のことかと思ったけれど、ガソリンスタンド事業の買収というから合点がいった。 今は昔、20世紀の終わりの頃、ドイツ…

癲狂院のヨーゼフ2世

photo by urashima-e 承前。2020年2月20日は、1790年のヨーゼフ2世崩御からちょうど230年に当たっている。最期は肺病であったというから、だいぶ衰弱していたことだろう。耳ざわりのよいおべんちゃらでお茶を濁すことなく、「快復の見込みはない」と直言した…

ヨーゼフ帝の鋤車

プラハの旧市街広場に、1918年に破壊された聖マリア柱が戻ってくるらしい。再建のための予備的な発掘調査が始まったという報道があった。チェコスロヴァキア建国当時、軍団あがりなどという輩を中心とした群衆によって「愛国無罪」的な破壊行為が横行し、貴…

パンデミックと相場

2014年の「NISAの大号令」によって日本国の国策が示された。すなわち、国民一億すべからく投資家たるべし── 東日本大震災と福島原発事故の直後、お見舞いめいた口上を述べながらも、しれっと暴落した東電株を買い込んでいたチェコ人の友人らには参ったものだ…