ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

チェコスロヴァキア

チェコ共和国の「無神論」

photo by Darya Tryfanava 折に触れ、宗教やカルト信仰といった話題がもりあがる。目下の議論のきっかけとなったのは、安倍氏暗殺の被疑者の生い立ちが注目をあつめたためであることは言うまでもない。 ところで、チェコ共和国という国にながく居ると、近年…

カレル・クラマーシュ──ある親露派の末つ方

この5月下旬で没後85周年をむかえたとのことで、チェコ語メディアがカレル・クラマーシュについてとりあげていた。 クラマーシュについては、以前このブログでもアロイス・ラシーンの記事のなかで、すこし触れた。チェコスロヴァキア初代首相とはいえ、ちょ…

クリスマスには鯉(2)

クリスマスは、異教の冬至の祭りに由来する。ジェイムズ・フレイザーなどを読むと、そういうことが延々と論証されている。のち、それをキリスト教会が採り込んだものであると。 中部ヨーロッパにおいて、クリスマス・ディナーのさいに鯉をたべる慣らいがある…

アロイス・ラシーン(2)──暗殺者・ショウパルの謎

「FN・ベイビー・ブラウニング」というのは、.25ACP弾を使用する小型拳銃である。 ブラウニングといっても、サライェヴォで帝位継承者フランツ・フェルディナントを屠って世界大戦への道をひらいた「M1910」でもなければ、諸国の軍隊で採用されるほど火力に…

アロイス・ラシーン(1)──『滅亡した帝国』

アロイス・ラシーンの名は、経済学に明るい向きなら、あるいはご記憶のことだろう。来たる10月18日は、生誕154周年という計算になる。 ラシーンは、第一次大戦時のボヘミアにおいて、カレル・クラマーシュらとともに、反ハプスブルク「抵抗運動」を指導した…

フサークの子ら

photo by Marko Grothe その頃、おなじみの理容師は、タトゥーをいっぱい入れた兄ちゃんで、まいど上手にやってくれるから満足していた。いや、かなり腕がよい。髪の将来的な絶滅が危惧される情況にあっては、奇跡的といっていい仕上がりだった。──チェコ共…

チェコスロヴァキアの将星

〈Hoi4〉というゲーム セルゲイ・ヴォイツェホフスキー(1883-1951) リハルト・テサジーク(1915-1967) ヨゼフ・シュネイダーレク(1875-1945) ヴォイティェフ・ルジャ(1891-1944) 疫禍の春も3月にはいって早々、100万人あたりの死者数がベルギーを追い…

チェコ共和国と比例代表選挙

イタリアではひとあし早く「スーパーマリオ」政権が成立したけれど、今年はおおくの国で選挙を控えており、いっせいに国政の顔ぶれが様変わりすることもありうる。 ひと月ほどまえ、チェコ共和国の憲法裁判所が、平等な投票権と立候補の機会に反するとして、…

西ボヘミアの醜聞──サッカー協会の腐敗

photo by Daniel Kirsch 亡くなったマラドーナは、ピッチにあがるたびに十字を切っていた姿が印象に残っている。ほんの思いつきの乱暴な仮説だが、カトリック諸国のサッカーは、ドイツやイングランドとはやはり一味ちがうのかもしれない。おしなべて「母ちゃ…

ビロード革命の記念日

photo by S. Hermann & F. Richter 今年の記念日 「マルタの祈り」 そもそも──1939年と1989年 今年の記念日 チェコ語の11月、"listopad"とは「落葉月」である旨、まえに書いたが、現代では文脈によって「ビロード革命」を意味することがある。典型的には、"p…

マサリク・サーキットの危機?

photo by Jiří Rotrekl エリシュカ・ユンコヴァー(1900-1994)といえば、初期モータースポーツにおいて名を残した、チェコスロヴァキアの女性ドライヴァーであった。2020年11月16日にGoogleの記念のロゴ“Doodle”に採用されたらしく、生誕120周年を迎えたこ…

死者の日と晩秋の祝日

photo by Adam Nieścioruk 早いもので霜月、11月である。ローマ起源のNovemberは、かつての暦で「九番目の月」を意味するが、チェコ語やポーランド語のlistopadとは、形態素をもとに訳せば「落葉月」とでもなろうか。月がかわったとたん、紅葉した木々の葉が…

イジー・メンツルによる架空の村

アカデミー賞監督、イジー・メンツルが亡くなった。享年82。数年前に、髄膜炎の手術がかなり大がかりだったと伝えられていたから、その後の容態が案じられてはいた。 1938年プラハ生まれ。1962年にアカデミーの映画学部"FAMU"を卒えると、やがてチェコスロヴ…

プルゼニュのパットン記念館

photo by Ye R プルゼニュ市の〈パットン記念館〉を訪ねたのは、もう何年も前である。2005年に複合施設「ペクロ(地獄)」内に開設された資料展示館であった。ことし6月の報道によると、その古びた「地獄」とは仮の住まいであった由で、もとより本来の物件の…

マター=オヴ=ファクト

photo by Carina Chen 夏のある日。翌日にはダブリンを発つ予定だった。ファーストフードの昼食を終えようというとき、にこにこしながらそいつはやってきた。──チャイニーズかい、とはまたご挨拶だ。そう訊かれると、心外だな、と感ずるのがわれら日本人の心…

アードルフ・ロース生誕150周年

当世の流行りとはいえ、銅像を打ち倒す運動には賛同しかねる。偉大な篤志家であったが奴隷も所有していた──ということになると、ヴァンダリズムの対象になるらしい。だが、200年も300年も遡及して往時の常識を今日の価値観で断罪することに、妥当性は微塵も…

チェコ軍の次期装輪式自走砲〈CAESAR〉

ことし令和2年度の富士総合火力演習は、疫禍の時世から招待客なしでとり行われ、かわりに5月23日、YouTubeでライヴ映像配信が実施された。そこには昨年につづいて、最新鋭〈19式装輪自走155mmりゅう弾砲〉の姿があった。国土の道路網の整備がすすんだ結果、…

ビハインド・ザ・マスク・2020

photo by Juraj Varga 世界中で一斉におなじことを体験する機会というのはめずらしい。延期になったオリンピックなど、スポーツ観戦ならあり得るが、それだって興味のない者は観ない。 こうなってみると、各国で焦眉の課題にのぼったのは、石油でも天然ガス…

カレル・チャペクとフゴ・ハースの『白い病』

感染予防のため、集会をとりやめ、人びとにお互いの距離を保つようにと、ときには政府首脳までもが直に呼びかけるなか、馬耳東風のていで遊び歩くひともいる。ドイツでは「コローナパーティ」なる語もできたそうだ。そういえば、若年層は罹りにくく、高齢者…

疫病神の道行き

WHOは、もはや事実を追認するだけの機関になりさがってしまったが、それでも認めるだけましだろう。コロナウイルスによるパンデミックの中心が大陸欧州に移ったことは、つとに明白であった。 学校の閉鎖は、日本政府が打ち出したときは批判の声もあがったが…

ハムスター三点盛り

photo by bierfritze 1) 捨てハムスター 2) ハムスター買い 3) ハムスター氏、the オンブズマン 1) 捨てハムスター イングランド北部・ダーリントンで、ゴールデン・ハムスターが18匹、ロボロフスキー・ハムスターが2匹、散歩中の犬によって発見された。3月3…

スロヴァキアの弾丸

報道によると、「飛翔体」という語が、ぴんとこないからというような理由で政府の発表から除かれたそうである。 北朝鮮がさかんに試射しているものは「ミサイル」と推定されようところだが、これは自衛隊用語ではよく「誘導弾」と呼ばれる装備である。したが…

イラーセクの風化

人間、意に反して何かをやらされたりすると、それに嫌悪感を抱くようになる。そこまでいかなくとも、飽きあきするようになる。──会社の仕事とか、学校の勉強とか、地域の活動とか、なんでもいい。それについて話題にするのはおろか、思い出したりもしたくな…

トマーシュ・ガリグ・マサリク

2月23日は天皇誕生日であった。代替わりによって12月から祝日が移動し、令和のあたらしい歳時記が始まったことになるが、かつて昭和年間には4月であった。さかのぼれば文明開化の世に、さらなる国民の統合に資すべしなどという思いつきからはじまったもので…

病に効くスープとは

身内が入院することになり、欧州と日本を往来する生活にはいった頃の話である。当時「手術後に咀嚼できぬ者が、栄養を摂って次の手術に備えなければならない」という難問が持ち上がった。 何年も経ったいま現在でこそ、大手食品メイカーの多くが嚥下食と呼ば…

癲狂院のヨーゼフ2世

photo by urashima-e 承前。2020年2月20日は、1790年のヨーゼフ2世崩御からちょうど230年に当たっている。最期は肺病であったというから、だいぶ衰弱していたことだろう。耳ざわりのよいおべんちゃらでお茶を濁すことなく、「快復の見込みはない」と直言した…

ヨーゼフ帝の鋤車

プラハの旧市街広場に、1918年に破壊された聖マリア柱が戻ってくるらしい。再建のための予備的な発掘調査が始まったという報道があった。チェコスロヴァキア建国当時、軍団あがりなどという輩を中心とした群衆によって「愛国無罪」的な破壊行為が横行し、貴…

ヴァーツラフ・ハヴェル小路

ヴァーツラフ・ハヴェル『力なき者たちの力』が、NHKの『100分de名著』に取り上げられ、第一回目が2020年2月3日に放送された。視聴率もなかなかよかったという噂で、意外にも日本人のハヴェルにたいする関心は高いものとみえる。2011年12月に逝去した直前に…

クリスマスには鯉

photo by Jiří Fröhlich 鯉をクリスマス・イヴの食卓に供する習慣は、戦間期に一般に普及した、というのが通説らしい。現在までその文化の広がる領域は、かつての大ドイツ主義を偲ばせる。すなわち現在のドイツ、オーストリア、チェコ、ポーランド、ハン…

オストラヴァにおける拳銃乱射事件

チェコ共和国第三の都市、オストラヴァで12月10日の朝7時すぎ、銃の乱射事件が発生した。現場となったのは日本でいうところの大学病院で、6人が死亡、3人が負傷した。被疑者の男も、のちに自ら頭を撃って死亡した。 警察が最初の通報を受けたのは7時19分。施…