ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

閏日と政治

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 閏日たる2月29日を指す英語の「leap day」はジャンプ、跳躍の日という語感があるが、ドイツ語の「Schalttag」ではシフトする、スイッチの日、切り替えの日という感じだ。チェコ語では同様に「přestupný den」という。さいきん報じられてきた懸案の数々も、あらたな局面に切り替わりつつある。といっても日本の報道は、いよいよコロナウイルス一色といった観もある。中国では終息に向かうという観測が出た一方、警戒されているのは、韓国、イランとイタリア──そして日本である。 

コロナウイルス

 政治という仕事では、ときには国民にむけたアピールも必要らしく、わかり易いパーフォーマンスの形をとることが多い。コロナウイルス禍における総理大臣自らによる「小中高の臨時休校要請」などは、その最たるものであった。放送系メディアでは、コメンテイターの医師が「何もしないよりはよい」と控えめに賛意を表明したりしているが、ウェブ上では、医学的にも法的にも「根拠を欠く決定」「撤回せよ」とけちょんけちょんの様相を呈している。

 週末のウィーンでは、政党のリーダーたちがカメラの前に集って、コロナ対策について討議する機会がもたれた。おなじパーフォーマンスとはいえ、パニックにならぬよう訴えるには効果的にもみえた。まともな野党の不在から、与野党一致してこういうアピールができないところに日本政治の弱さがある。国民の不安が内閣支持率の低下に結びついたところで、結果的に臨時休校という政権側によるパーフォーマンスが発動されるに至った。けっきょく、負担の伝票は社会にまわされることになるのだろう。

 おなじ週末に3人の感染者が発見されたチェコ共和国では、全員にイタリア滞在歴があったことから、ミラノ、ヴェネーツィア、ボローニャベルガモへと、ついでに韓国への航空便の運行を一時停止する決定が発表された。地続きのイタリアなど陸路でいくらでも移動できることを思えば、これもパーフォーマンスでしかないが、素早い対応は住民にいくらか安心感をあたえる効果が期待できる。

 上述のうち2名の男性は、どちらもイタリア旅行帰りの由で、症状は今のところ出ていない。問題は、ミラノに留学中という1999年生まれのアメリカ人女性で、プラハ観光にくり出したところで新型肺炎の症状が出た。プラハ以外にも、28日の金曜から翌土曜日にかけてブルノにも足を伸ばしたことが判明しており、ブルノが属する南モラヴィア県でも協議が始まると報じられた。旅行に同行したエクアドル人の友人も同様の症状があったものの、コロナウイルスの検査に関してはこれまでのところ陰性の反応がでているようだ。

トルコとシリア

 北朝鮮から飛翔体がまたも発射され、報じられはしたが、日本ではだれも気に留める余裕もないようにみえる。ところが、コロナ禍の喧騒のなかで、中東にも目を配らなければならぬのが欧州である。

 昨年来の停戦合意も守られず、先週のシリア政府軍の攻撃ではイドリブ県でトルコ軍兵士33名が戦死した。ロシア国防省は「過激派への攻撃であった」といういつもの説明でシリア・アサド政権側の正当化と擁護に努めていた。これにはエルドアンの苛立ちを昂進する効果しかなく、トルコ軍はついに報復攻撃に出た。シリア側の兵士328人を殺害したと報じられている。またトルコのTRTによると、トルコ軍は「防空システム」2基とスホーイSu-24機2機を撃墜したと発表している。

 電話会談がもたれたという報道もあったから、米トランプ大統領は了承済みであるとは思われる。さらに欧州の積極的な関与をひき出すためであろう、トルコはシリア難民にヨーロッパへの越境を容認し、難民がギリシアに押し寄せる事態になっている。ギリシア側は、われ欧州の防波堤とならんとばかり、難民申請をひと月のあいだ拒絶する対応をとっているという。

イスラエルとイラン?

 2月末閏日の29日には、スロヴァキアで国政選挙もあった。イゴル・マトヴィチュ率いる「平民党」──と訳したくなるが、要はここでもまたぞろポピュリスト政党が25%以上の票を集め、第一党となったようである。与党は14年ぶりに下野することになる。

 だが、鋭い視線が注がれているのは、3月2日投開票となるイスラエルの選挙のほうだ。元国防軍参謀総長ベニー・ガンツ率いるイスラエル復元力党(ないし抵抗力党)への支持が、与党リクード(団結党)へのそれと拮抗していると伝えられている。2017年の「ユダヤ国民国家法」制定以来、右派ネタニヤフ政権もさすがに旗色がわるい。同法は実質的な憲法と目され、「ユダヤ人に唯一の民族自決権がある」というくだりは、民族浄化を経て建国に漕ぎ着けたイスラエルという国家の自己否定につながりかねないという曰くが付いている。とりわけ国内でこれまで権利を保障されていた、140万人以上のドゥルーズ派の動きが注目されている。

 隣接するレバノンではマロン派のキリスト教徒から大統領を選出する慣例とはいえ、ドゥルーズ派も勢力を伸ばしており、およそ25万人を数えるとされるが、さらにシリアにも60万ほどの人口を有する。このドゥルーズ派、始祖がイラン人でシーア派の一派と考えられていることから、イランの影響力がつとに指摘されている。

 2月発売の『文藝春秋』3月号でエマニュエル・トッドも言及していたが、イランというのは意外にも世俗的な国である。最近では反政府デモなども起こってもいた折り、今般のコロナウイルスの流行も相俟って、世論がどこへ転がるか知れたものではない。すると、ここでも指導層が危ういパーフォーマンスに走らないともかぎらない。

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