ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

タリアーンの謎──知られざるプラハ名物?

むかし、ある友人がプラハで雑誌の編集者として勤めはじめたころ、見つけたばかりだという酒場に招いてくれた。といっても、はなやかな表通りから脇へはいった路地裏の地味な店で、メニューの内容のほうも、建物の内装におとらず簡素なものだった。 どうやら…

モラヴィアとモラビア

photo by Vladimír Ješko ある日、グレート・ブリテン島の方言の分布をしめす地図がSNSで出回っていた。そこで示されていたのは、川を意味する"river"のことを、もっともふつうの口語において"water"と呼ぶ地域だった。けれども、全島でそう呼ばれるというわ…

カレル・クラマーシュ──ある親露派の末つ方

この5月下旬で没後85周年をむかえたとのことで、チェコ語メディアがカレル・クラマーシュについてとりあげていた。 クラマーシュについては、以前このブログでもアロイス・ラシーンの記事のなかで、すこし触れた。チェコスロヴァキア初代首相とはいえ、ちょ…

鷲は舞い降りた──ハイドリヒ、チャーチル、プーチン……?

photo by Untitled Photo ハイドリヒ プーチン チャーチル ハイドリヒ この週末のはじめ、5月27日は、アントロポイド作戦の決行から80周年という節目だった。 第三帝国の保護領時代のプラハにおいて、ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ(1904-…

婆やにでも言ってろ──荒唐無稽のファシズム

photo by Николай Иванов ロシア軍によるウクライナへの侵攻開始からはや、三か月が経とうとしている。 屋外ではすでに蒲公英が、さわやかな風に綿毛を飛ばしている。戦争が始まったときは、まだ雪すら舞っていたのに。現地の天候にしろ、戦況にしろ、はたま…

史劇におけるヨーゼフ2世

プーチンの為人が、急に注目されるようになった。それについての記事も急激にふえたが、読んでいるうちに「デプリヴァント」の概念を思い起こさせた。 それは最近、ヨーゼフ2世の人物像を造形するうえで、脚本家のミルカ・ズラトニーコヴァーが採用したもの…

イラーセク史観?

ことしの3月13日は、ヨーゼフ2世の生誕281周年にあたっており、前日の3月12日は、アロイス・イラーセクが没してから92周年ということになっていた。それぞれ、皇帝と劇作家というふたりであったが…… 1)脚本家の罵倒 2)シバシカン? 3)フィクションの政治…

プーチニズムとチェコ共和国

photo by Nati Melnychuk 現代ロシアの統治体制を指して、プーチニズムなる術語も出来して久しい。定義によっては、スターリニズムとの類比もあるのかもしれないが、このところのプーチン大統領といえば、スターリンよりも、むしろヒトラーと対比されるのが…

ウクライナ侵略

photo by Austrian National Library 24日の朝、ブースター接種を受けてから丸一日以上すぎたというのに、倦怠感がつづいていた。 すでにロシア軍はウクライナへの侵攻を開始していた。 おおかたの政治学者たちの予測は外れた。 アメリカ合衆国政府の情報筋…

バンデーラ賊がやってくる

近年のウクライナの政権は、ステパーン・バンデーラら民族主義者の名誉回復や顕彰を推進してきた。それでウクライナのナショナリズムといえば、まずバンデーラ賊を連想してしまう。そして、それについて報告したミハル・マレシュの短い記事を思い出す。 1)…

チェコスロヴァキアの「北方領土」と境界のアイデンティティ

Cieszyn ... photo by Aisuma K 国境の町は、大陸欧州に数知れない。訪れてみると興味ぶかい体験がある。 チェスキー・ティェシーンČeský Těšínは、そのひとつ。片割れの名は、チェシンCieszyn。かつてテシェン公国Herzogtum Teschenの都だった。 ティェシー…

去年、チェコ共和国の銀行で

photo by Hello I'm Nik 銀行ATMのトラブル これまでの銀行体験から クレームのゆくえ 銀行ATMのトラブル ある夕刻、ATMで4000コルナ(KčもしくはCZK)を入金しようとしていた。物理的には、2000コルナ紙幣を2枚だ。 ところが、紙幣をいれて扉が閉まったあと…

ラム酒でつくる〈グロク〉と〈ヤーガーテー〉

photo by Maximalfocus ラム酒が、大陸ヨーロッパの内陸部で何世紀も愛飲されている──というと、奇妙に聞こえるかもしれない。 ラムは廃糖蜜から作られ、その原料となるサトウキビは暖かい地方でのみ栽培が可能なのだから。日本では沖縄地方が産地として知ら…

シンデレラたちと成長の神話

photo by Alain Audet 2019年末に目を瞑って、ふたたび目を開けたら、2022年元旦だった──というインターネット・ミームがある。まさにそれ。ここ2年間の記憶が、なんだか曖昧な感じだ。 それだから、おおくのひとが節目を実感できる行事や娯楽を欲したのでは…

クリスマスには鯉(2)

クリスマスは、異教の冬至の祭りに由来する。ジェイムズ・フレイザーなどを読むと、そういうことが延々と論証されている。のち、それをキリスト教会が採り込んだものであると。 中部ヨーロッパにおいて、クリスマス・ディナーのさいに鯉をたべる慣らいがある…

犬かけて──チェコ共和国・ゼマン大統領と憲法論争

photo by Florian Olivo ソクラテスが「犬にかけて誓う」といったのは、正確には「エジプトの犬」、つまりアヌビス神を引き合いに出して、みずからの言の真実を約したのだ──という話がある。 絶対的な存在を挙げて誓う習慣は、洋の東西を問わずひろく見うけ…

ペトル・フィアラ──チェコ共和国の新首相

photo by Richard Ley 11月28日の日曜日、市民民主党のペトル・フィアラ党首が、チェコ共和国首相に任命された。同党は政党連合SPOLUとして先日の選挙を制していた。 ミロシュ・ゼマン共和国大統領は、選挙に先だつ10月10日から集中治療室で加療中で、ようや…

不平等条約と斜陽の帝国

photo by AG-Pics 前まえから予定されていた、気候変動枠組条約締約国会議「COP26」も、気がつけばとっくに閉幕していた。石炭火力の廃絶をめぐって紛糾したが、ついに当たり障りのない形だけの「合意」を結ぶにとどまった。いずれにせよ、茶番だと言われて…

緑のパプリカ

photo by outside click 夏のウィーンだった。屋号に「台灣」の文字がはいった飲食店があった。けれども、お品書きの顔ぶれは台湾料理というのとは異なっていた。かわりに地方にかかわりのない、無難な中華風料理が並んでいた。 それで「台湾のかたですか」…

カラマーゾフと聖書と翻訳

photo by Evg Klimov はるか昔には生真面目な学生だったから、ある日の講義でも文献リストにあった聖書も、すぐに入手したものだった。翌週までに最低限「福音書」は読んでおくようにとの指示ではなかったか。書物全体に比べたらほんのわずかの部分にすぎな…

チェコスロヴァキアの皿と燻しボック

10月の28日は、チェコスロヴァキア成立の記念日。祝日のプラハでは、まいとしヴィートコフの丘で式典が執り行われる。 そんなとき、皿が割れてしまった。 頭上の戸棚から、ペッパーミルと胃腸薬の瓶が落下した。これまた意想外なカップルが心中したものだ。…

暗い血の旋舞

photo by Marie Schneider 承前。クーデンホーフ=カレルギー光子の話がでてきた。 まず思い出されるのは、松本清張『暗い血の旋舞』ではないだろうか。「香典なんとかミツコなんか知らない、聞いたこともない」とおっしゃる向きは、読んでおいて損はない。け…

学び直しとアップデートの語学

photo by Leonhard Niederwimmer NHKラジオ「まいにちドイツ語・応用編」が、この10月から「記憶に残る近現代の女性たち」と題したコースを放送している。じつはSNSで紹介されていたのだ。 各課でひとりづつ、ドイツ語圏にゆかりのある女性について書かれた…

バックスライディングのゆくえ──チェコ共和国の「選挙2021」

photo by Denis Poltoradnev 選挙の秋である。チェコ共和国では、10月8日の午後と翌日の午前に投票がおこなわれた。 開票の結果、中道右派連合・SPOLUが得票率27.79%を獲得し、第一党におどりでた。第二党が政権与党のポピュリスト政党・ANO(ANO_2011)で…

アロイス・ラシーン(2)──暗殺者・ショウパルの謎

「FN・ベイビー・ブラウニング」というのは、.25ACP弾を使用する小型拳銃である。 ブラウニングといっても、サライェヴォで帝位継承者フランツ・フェルディナントを屠って世界大戦への道をひらいた「M1910」でもなければ、諸国の軍隊で採用されるほど火力に…

アロイス・ラシーン(1)──『滅亡した帝国』

アロイス・ラシーンの名は、経済学に明るい向きなら、あるいはご記憶のことだろう。来たる10月18日は、生誕154周年という計算になる。 ラシーンは、第一次大戦時のボヘミアにおいて、カレル・クラマーシュらとともに、反ハプスブルク「抵抗運動」を指導した…

岸田ショック下の繰り言。

photo by Joshua Woroniecki 岸田政権が成立した。とはいえ、月末に投開票日をさだめた選挙までの、さしあたってひと月ほどの暫定政権である。 支持率は低い。日経平均もおおきく下げた。株価が下がるというのは、経済政策が市場に評価されていないというこ…

メタノール──モラヴィアの暗い影

photo by Migawka 2012年の「メタノール事件」とは、その名にあるメタノールが混入されたアルコール飲料によって引き起こされた惨劇であった。チェコスロヴァキアが民主化されて以降、もっとも多くの被害者と被疑者を記録した、チェコ共和国史上最大の刑事事…

研究者の異常な愛情

photo by nine koepfer ムスリム 異常な愛情 豚と暴力 ムスリム 欧州某国のとある町にて、学生寮から5分ほど歩いたところに、安手のレストランを兼ねた売店があった。 夕暮れどきに行ってみると、そこにビヤマグを片手に一杯やっている、顔見知りのカザフ人…

アウトポスト──米国流の荒事

財貨と航空戦力にものを言わせ、アメリカがいかにでたらめな戦争をやっていたか、よくわかる。 ロッド・ルーリー監督の映画『アウトポスト』は、端的にいえば、そういう劇映画である。そのあたりは、ドキュメンタリーよりよっぽどわかりやすく焦点が整理、調…