ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

チェコ共和国の「無神論」

photo by Darya Tryfanava 折に触れ、宗教やカルト信仰といった話題がもりあがる。目下の議論のきっかけとなったのは、安倍氏暗殺の被疑者の生い立ちが注目をあつめたためであることは言うまでもない。 ところで、チェコ共和国という国にながく居ると、近年…

チェコ共和国軍、F-35導入へ

photo by MICHELLE HN チェコ共和国政府は、第五世代戦闘機・F-35導入の方針を決定した。 ペトル・フィアラ首相とヤナ・チェルノホヴァー国防大臣が、先日就任したばかりの参謀総長・カレル・ジェフカ少将をともなって、7月20日、閣議後の会見で発表した。 …

サライェヴォ事件とフランツ・フェルディナント大公の明治日本

第一次世界大戦は、一発の拳銃弾から始まった──と言われる。 6月28日は、その記念日。1914年、サライェヴォにて、帝位継承者フランツ・フェルディナント大公が殺害されたのである。 報復としてセルビアに対し宣戦布告したとき、当のフランツ・ヨーゼフ帝は、…

タリアーンの謎──知られざるプラハ名物?

むかし、ある友人がプラハで雑誌の編集者として勤めはじめたころ、見つけたばかりだという酒場に招いてくれた。といっても、はなやかな表通りから脇へはいった路地裏の地味な店で、メニューの内容のほうも、建物の内装におとらず簡素なものだった。 どうやら…

カレル・クラマーシュ──ある親露派の末つ方

この5月下旬で没後85周年をむかえたとのことで、チェコ語メディアがカレル・クラマーシュについてとりあげていた。 クラマーシュについては、以前このブログでもアロイス・ラシーンの記事のなかで、すこし触れた。チェコスロヴァキア初代首相とはいえ、ちょ…

鷲は舞い降りた──ハイドリヒ、チャーチル、プーチン……?

photo by Untitled Photo ハイドリヒ プーチン チャーチル ハイドリヒ この週末のはじめ、5月27日は、アントロポイド作戦の決行から80周年という節目だった。 第三帝国の保護領時代のプラハにおいて、ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ(1904-…

婆やにでも言ってろ──荒唐無稽のファシズム

photo by Николай Иванов ロシア軍によるウクライナへの侵攻開始からはや、三か月が経とうとしている。 屋外ではすでに蒲公英が、さわやかな風に綿毛を飛ばしている。戦争が始まったときは、まだ雪すら舞っていたのに。現地の天候にしろ、戦況にしろ、はたま…

史劇におけるヨーゼフ2世

プーチンの為人が、急に注目されるようになった。それについての記事も急激にふえたが、読んでいるうちに「デプリヴァント」の概念を思い起こさせた。 それは最近、ヨーゼフ2世の人物像を造形するうえで、脚本家のミルカ・ズラトニーコヴァーが採用したもの…

イラーセク史観?

アロイス・イラーセク博物館の開館式典の様子(1951年)。中央にイラーセク、左右にクレメント・ゴットヴァルト(ゴドヴァルト)とヨシフ・スターリンの肖像が掲げられている。 ことしの3月13日は、ヨーゼフ2世の生誕281周年にあたっており、前日の3月12日は…

プーチニズムとチェコ共和国

photo by Nati Melnychuk 現代ロシアの統治体制を指して、プーチニズムなる術語も出来して久しい。定義によっては、スターリニズムとの類比もあるのかもしれないが、このところのプーチン大統領といえば、スターリンよりも、むしろヒトラーと対比されるのが…

ウクライナ侵略

photo by Austrian National Library 24日の朝、ブースター接種を受けてから丸一日以上すぎたというのに、倦怠感がつづいていた。 すでにロシア軍はウクライナへの侵攻を開始していた。 メディアで自説を開陳していた、おおかたの政治学者たちの予測は外れた…

バンデーラ賊がやってくる

近年のウクライナの政権は、ステパーン・バンデーラら民族主義者の名誉回復や顕彰を推進してきた。それでウクライナのナショナリズムといえば、まずバンデーラ賊を連想してしまう。そして、それについて報告したミハル・マレシュの短い記事を思い出す。 1)…

ラム酒でつくる〈グロク〉と〈ヤーガーテー〉

photo by Maximalfocus ラム酒が、大陸ヨーロッパの内陸部で何世紀も愛飲されている──というと、奇妙に聞こえるかもしれない。 ラムは廃糖蜜から作られ、その原料となるサトウキビは、熱帯や亜熱帯、つまり欧州から遠く隔たった暖かい地方でのみ栽培が可能な…

クリスマスには鯉(2)

クリスマスは、異教の冬至の祭りに由来する。ジェイムズ・フレイザーなどを読むと、そういうことが延々と論証されている。のち、それをキリスト教会が採り込んだものであると。 中部ヨーロッパにおいて、クリスマス・ディナーのさいに鯉をたべる慣らいがある…

犬かけて──チェコ共和国・ゼマン大統領と憲法論争

photo by Florian Olivo ソクラテスが「犬にかけて誓う」といったのは、正確には「エジプトの犬」、つまりアヌビス神を引き合いに出して、みずからの言の真実を約したのだ──という話がある。 絶対的な存在を挙げて誓う習慣は、洋の東西を問わずひろく見うけ…

ペトル・フィアラ──チェコ共和国の新首相

photo by Richard Ley 11月28日の日曜日、市民民主党のペトル・フィアラ党首が、チェコ共和国首相に任命された。同党は政党連合SPOLUとして先日の選挙を制していた。 ミロシュ・ゼマン共和国大統領は、選挙に先だつ10月10日から集中治療室で加療中で、ようや…

不平等条約と斜陽の帝国

photo by AG-Pics 前まえから予定されていた、気候変動枠組条約締約国会議「COP26」も、気がつけばとっくに閉幕していた。石炭火力の廃絶をめぐって紛糾したが、ついに当たり障りのない形だけの「合意」を結ぶにとどまった。いずれにせよ、茶番だと言われて…

暗い血の旋舞

photo by Marie Schneider 承前。クーデンホーフ=カレルギー光子の話がでてきた。 まず思い出されるのは、松本清張『暗い血の旋舞』ではないだろうか。「香典なんとかミツコなんか知らない、聞いたこともない」とおっしゃる向きは、読んでおいて損はない。け…

学び直しとアップデートの語学

photo by Leonhard Niederwimmer NHKラジオ「まいにちドイツ語・応用編」が、この10月から「記憶に残る近現代の女性たち」と題したコースを放送している。じつはSNSで紹介されていたのだ。 各課でひとりづつ、ドイツ語圏にゆかりのある女性について書かれた…

バックスライディングのゆくえ──チェコ共和国の「選挙2021」

photo by Denis Poltoradnev 選挙の秋である。チェコ共和国では、10月8日の午後と翌日の午前に投票がおこなわれた。 開票の結果、中道右派連合・SPOLUが得票率27.79%を獲得し、第一党におどりでた。第二党が政権与党のポピュリスト政党・ANO(ANO_2011)で…

アロイス・ラシーン(2)──暗殺者・ショウパルの謎

「FN・ベイビー・ブラウニング」というのは、.25ACP弾を使用する小型拳銃である。 ブラウニングといっても、サライェヴォで帝位継承者フランツ・フェルディナントを屠って世界大戦への道をひらいた「M1910」でもなければ、諸国の軍隊で採用されるほど火力に…

アロイス・ラシーン(1)──『滅亡した帝国』

アロイス・ラシーンの名は、経済学に明るい向きなら、あるいはご記憶のことだろう。来たる10月18日は、生誕154周年という計算になる。 ラシーンは、第一次大戦時のボヘミアにおいて、カレル・クラマーシュらとともに、反ハプスブルク「抵抗運動」を指導した…

岸田ショック下の繰り言。

photo by Joshua Woroniecki 岸田政権が成立した。とはいえ、月末に投開票日をさだめた選挙までの、さしあたってひと月ほどの暫定政権である。 支持率は低い。日経平均もおおきく下げた。株価が下がるというのは、経済政策が市場に評価されていないというこ…

メタノール──モラヴィアの暗い影

photo by Migawka 2012年の「メタノール事件」とは、その名にあるメタノールが混入されたアルコール飲料によって引き起こされた惨劇であった。チェコスロヴァキアが民主化されて以降、もっとも多くの被害者と被疑者を記録した、チェコ共和国史上最大の刑事事…

アウトポスト──米国流の荒事

財貨と航空戦力にものを言わせ、アメリカがいかにでたらめな戦争をやっていたか、よくわかる。 ロッド・ルーリー監督の映画『アウトポスト』は、端的にいえば、そういう劇映画である。そのあたりは、ドキュメンタリーよりよっぽどわかりやすく焦点が整理、調…

敵のイコンと「オクタヴィア側」の人間

photo by Arno Senoner ふた昔まえに住んでいたアパートの階上には、白髪の婦人がひとり暮らしていた。 さいしょに顔を合わせたとき、「シュプレッヒェン・ズィー・ドイチュ?(ドイツ語わかりますか)」と訊いてくるので、「ヤー、アイン・ビスヒェン(ええ…

フサークの子ら

photo by Marko Grothe その頃、おなじみの理容師は、タトゥーをいっぱい入れた兄ちゃんで、まいど上手にやってくれるから満足していた。いや、かなり腕がよい。髪の将来的な絶滅が危惧される情況にあっては、奇跡的といっていい仕上がりだった。──チェコ共…

ヒルスネル事件(2)──衆愚の世界

1)反ユダヤ政治の季節 2)儀式殺人の迷信 3)アウジェドニーチェクのその後 4)『無実の男』と現在 1)反ユダヤ政治の季節 (承前)ポルナーは、がんらいボヘミア王国の町で、モラヴィアとの辺境に位置している。現行の、チェコ共和国の行政区画ではヴィソ…

ヒルスネル事件(1)──衆愚の法廷

9月12日、悪名高いヒルスネル事件の公判がはじまった。ただし、1899年の9月12日であるから、122年前のことである。 2016年には、この事件をチェコ共和国の公共放送(ČT)がドラマ作品として映像化した。Amazonで視聴できる。前後半の2部構成で、各話50円とな…

フリチンを待ちながら

photo by Marisol Benitez 反ワクチン派? フリチン状態とは 接種間隔についての諸説 反ワクチン派? ときおり街で顔見知りにでくわすと、時候の挨拶がわり、COVID-19ワクチンの接種について訊くようになった。 すると意外にも、大のおとなが「接種はしない…