ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

灰の水曜日とコロナ禍

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 ことしは2月26日が「灰の水曜日」であった。イースターから46日前の水曜日を指している。ブラジルなどをのぞけば、公休日になっている国はあまりないが、カルネヴァルの終わりも意味するなど、文化的にはなかなか大きな節目ではある。

 ふるくは灰をかぶる習慣があったというが、現在でもカトリックや多くの宗派で、前年に祝福されたシュロを灰にしたもので額に十字の印を描いてもらったりする。悔い改めた証しとされる。

 ドイツ語のAschermittwochは、そのまま直訳すれば灰の水曜日となる。すぐに思いつくところで同じく「灰」を伴った語彙には、例えばAschenbrödel、あるいはAschenputtelがある。いずれも、グリム兄弟の「灰かぶり姫」を意味すると辞書にはあるが、「シンデレラ」といったほうが通りが良い。

 チェコ語では「sypat si popel na hlavu(頭に灰を撒く)」という慣用表現が思い浮かぶところで、俗世間ではこの日の風習に由来する表現ということになっているが、あるオンラインの記事などは直接の関係はないと主張している。とまれ、辞書的な意味合いとしては、ちょっとした失敗や軽微な過失について激しく自分自身を批判すること、過去の振る舞いについて悔恨の情を示すこと、といったところか。

 ちなみに参照した記事には、このpopel(灰)に関連した形態素をもつ語彙が挙げられているが、とりわけpopelník(灰皿)やPopelka(灰かぶり姫)などは日常でも意外に有用である。popelářといえばゴミ収集業の従事者を意味するが、むかしからチェコスロヴァキアではどういうわけか、子どもが憧れる職業ランキングの常連となっている職種である。また、大文字で書き起こしてPopel, Popelaなどとすると、よくある苗字となり、記事ではロプコヴィツ家の君主ズデニェク・ヴォイティェフ・ポペル・ス・ロプコヴィツ(1568-1628)が代表格として挙がっている。また、灰かぶり姫のPopelkaも苗字のひとつではあるが、分布をみると南モラヴィアのウヘルスキー・ブロトに集中しているのだという。まさか、シンデレラの……。

 さて、この日以降、6回の日曜日を除いたイースター前日の土曜日までの40日間が、四旬節である。英語でLentないしLenten、ドイツ語にFastenzeit、チェコ語でpostní dobaという。日本語でも、四十日間を意味する四旬節のほか、聖公会で大斎節、ルター派を除く主要プロテスタントでは受難節と呼ばれている。

 この時期における断食の風習は、イエスが荒野で過ごした40日の苦難を分かち合う意味合いがある。最近では肉食のほか、インターネット接続やSNSの利用を断つという習慣も広がってきているというが、いまだそういう人にお会いしたことはない。──過熱気味の報道から距離を置くのもわるくない気もするが、このご時世だからこそ世界の情報はますます気にはなるところではある。

 というのは、折しもこの26日、ついにケルンテン州で新型肺炎による死者が出たというニュースもあったからだ。56歳のイタリアからの行楽客と報じられている。ついにコロナ禍が本格的にアルプスを越えたのだと、心穏やかでない欧州である。宰相セバスティアン・クルツは「準備はできている」とコメントしているが……。

 

*参考:  

orf.at