ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

Entries from 2021-01-01 to 1 year

クリスマスには鯉(2)

クリスマスは、異教の冬至の祭りに由来する。ジェイムズ・フレイザーなどを読むと、そういうことが延々と論証されている。のち、それをキリスト教会が採り込んだものであると。 中部ヨーロッパにおいて、クリスマス・ディナーのさいに鯉をたべる慣らいがある…

犬かけて──チェコ共和国・ゼマン大統領と憲法論争

photo by Florian Olivo ソクラテスが「犬にかけて誓う」といったのは、正確には「エジプトの犬」、つまりアヌビス神を引き合いに出して、みずからの言の真実を約したのだ──という話がある。 絶対的な存在を挙げて誓う習慣は、洋の東西を問わずひろく見うけ…

ペトル・フィアラ──チェコ共和国の新首相

photo by Richard Ley 11月28日の日曜日、市民民主党のペトル・フィアラ党首が、チェコ共和国首相に任命された。同党は政党連合SPOLUとして先日の選挙を制していた。 ミロシュ・ゼマン共和国大統領は、選挙に先だつ10月10日から集中治療室で加療中で、ようや…

不平等条約と斜陽の帝国

photo by AG-Pics 前まえから予定されていた、気候変動枠組条約締約国会議「COP26」も、気がつけばとっくに閉幕していた。石炭火力の廃絶をめぐって紛糾したが、ついに当たり障りのない形だけの「合意」を結ぶにとどまった。いずれにせよ、茶番だと言われて…

暗い血の旋舞

photo by Marie Schneider 承前。クーデンホーフ=カレルギー光子の話がでてきた。 まず思い出されるのは、松本清張『暗い血の旋舞』ではないだろうか。「香典なんとかミツコなんか知らない、聞いたこともない」とおっしゃる向きは、読んでおいて損はない。け…

学び直しとアップデートの語学

photo by Leonhard Niederwimmer NHKラジオ「まいにちドイツ語・応用編」が、この10月から「記憶に残る近現代の女性たち」と題したコースを放送している。じつはSNSで紹介されていたのだ。 各課でひとりづつ、ドイツ語圏にゆかりのある女性について書かれた…

バックスライディングのゆくえ──チェコ共和国の「選挙2021」

photo by Denis Poltoradnev 選挙の秋である。チェコ共和国では、10月8日の午後と翌日の午前に投票がおこなわれた。 開票の結果、中道右派連合・SPOLUが得票率27.79%を獲得し、第一党におどりでた。第二党が政権与党のポピュリスト政党・ANO(ANO_2011)で…

アロイス・ラシーン(2)──暗殺者・ショウパルの謎

「FN・ベイビー・ブラウニング」というのは、.25ACP弾を使用する小型拳銃である。 ブラウニングといっても、サライェヴォで帝位継承者フランツ・フェルディナントを屠って世界大戦への道をひらいた「M1910」でもなければ、諸国の軍隊で採用されるほど火力に…

アロイス・ラシーン(1)──『滅亡した帝国』

アロイス・ラシーンの名は、経済学に明るい向きなら、あるいはご記憶のことだろう。来たる10月18日は、生誕154周年という計算になる。 ラシーンは、第一次大戦時のボヘミアにおいて、カレル・クラマーシュらとともに、反ハプスブルク「抵抗運動」を指導した…

岸田ショック下の繰り言。

photo by Joshua Woroniecki 岸田政権が成立した。とはいえ、月末に投開票日をさだめた選挙までの、さしあたってひと月ほどの暫定政権である。 支持率は低い。日経平均もおおきく下げた。株価が下がるというのは、経済政策が市場に評価されていないというこ…

メタノール──モラヴィアの暗い影

photo by Migawka 2012年の「メタノール事件」とは、その名にあるメタノールが混入されたアルコール飲料によって引き起こされた惨劇であった。チェコスロヴァキアが民主化されて以降、もっとも多くの被害者と被疑者を記録した、チェコ共和国史上最大の刑事事…

アウトポスト──米国流の荒事

財貨と航空戦力にものを言わせ、アメリカがいかにでたらめな戦争をやっていたか、よくわかる。 ロッド・ルーリー監督の映画『アウトポスト』は、端的にいえば、そういう劇映画である。そのあたりは、ドキュメンタリーよりよっぽどわかりやすく焦点が整理、調…

敵のイコンと「オクタヴィア側」の人間

photo by Arno Senoner ふた昔まえに住んでいたアパートの階上には、白髪の婦人がひとり暮らしていた。 さいしょに顔を合わせたとき、「シュプレッヒェン・ズィー・ドイチュ?(ドイツ語わかりますか)」と訊いてくるので、「ヤー、アイン・ビスヒェン(ええ…

フサークの子ら

photo by Marko Grothe その頃、おなじみの理容師は、タトゥーをいっぱい入れた兄ちゃんで、まいど上手にやってくれるから満足していた。いや、かなり腕がよい。髪の将来的な絶滅が危惧される情況にあっては、奇跡的といっていい仕上がりだった。──チェコ共…

ヒルスネル事件(2)──衆愚の世界

1)反ユダヤ政治の季節 2)儀式殺人の迷信 3)アウジェドニーチェクのその後 4)『無実の男』と現在 1)反ユダヤ政治の季節 (承前)ポルナーは、がんらいボヘミア王国の町で、モラヴィアとの辺境に位置している。現行の、チェコ共和国の行政区画ではヴィソ…

ヒルスネル事件(1)──衆愚の法廷

9月12日、悪名高いヒルスネル事件の公判がはじまった。ただし、1899年の9月12日であるから、122年前のことである。 2016年には、この事件をチェコ共和国の公共放送(ČT)がドラマ作品として映像化した。Amazonで視聴できる。前後半の2部構成で、各話50円とな…

フリチンを待ちながら

photo by Marisol Benitez 反ワクチン派? フリチン状態とは 接種間隔についての諸説 反ワクチン派? ときおり街で顔見知りにでくわすと、時候の挨拶がわり、COVID-19ワクチンの接種について訊くようになった。 すると意外にも、大のおとなが「接種はしない…

『アルゴ』──威信の失墜

photo by Mohammad Shahhosseini 大山鳴動して、邦人たった1名を救出……みたいに貶した野党議員もあったけれども、のちアフガン市民の移送にも自衛隊は成功していたことが伝えられた。カーブル脱出作戦である。 しかし、7月はじめの米軍のバグラム空軍基地撤…

マルヒフェルトの戦い

8月26日は、1278年にマルヒフェルトの戦いがあった日づけである。 マルヒフェルトとは「マルヒ川(モラヴァ川)のほとりに広がる草原」を意味する地名であって、ウィーンの郊外に位置している。これでは漠とした印象も否めないためか、「デュルンクルート=イ…

サイゴン陥落?

photo by Mohammad Rahmani 小林源文の劇画作品がAmazonにて、月末までのバーゲン価格になっている。Kindle版のみ一冊55円からあって、数十年来の名作がまた手軽に読めるのがうれしい。むかし夢中になって読んだ作品群も、その後まとめて知人に譲ってしまっ…

リオで見た夢が東京で醒めるまで

photo by Davi Costa 『いつか深い穴に落ちるまで』は、2018年の文藝賞を受賞した中篇小説である。著者の山野辺太郎は、リオ五輪の閉会式に着想を得て起筆したのではあるまいか。日本からブラジルにむけて、地球をつらぬく穴を穿つ事業にかかわることになっ…

胡瓜の季節

photo by Pavel Timanov ひとたび夏の天候が大暴れすると、甚大な被害をもたらすことがある。 チェコ共和国では6月24日、南モラヴィア県の南部に竜巻が発生した。同日の夜から全土で荒天に見舞われており、まいとし降雹の被害がでる季節ではあるものの、竜巻…

夏の車内放置事故

photo by Raban Haajik 暑い。暑すぎる。気がつけばもう、夏至をすぎている。夏も折り返していたのだ。 この時節によく報じられるいたたましい事故に、「車内放置死」というのがある。単に遺棄致死とか、置き去り、置き忘れ事故……などとも呼ばれる。 せんじ…

苗字の「男女差解消」がチェコ語を滅ぼす?

photo by Denis Vdovin 1) 身分証明書の仕様変更 2) チェコ語における女性の苗字 3) チェコ語学からの反発 4) 文法上の問題──例文による愚察 5) 女性は苗字を変えるか 6) 氏名は誰のものか 1) 身分証明書の仕様変更 チェコ共和国ではこのほど、身分証明カー…

ミッドウェイを抱きしめて

もうすぐ記念日だからというわけではないけれど、ようやく最近になって、ローランド・エメリヒの映画『ミッドウェイ』(2019)を観た。監督がシュトゥットガルトの出身だからか、ドイツ語圏のメディアにも一時期、さかんにインタヴューがでていたが、もうだ…

新欧州のポピュリスト枢軸?

photo by Drazen Bajer ブダペシュト=ワルシャワ枢軸? 除かれたチェコ共和国 オルバーン政権と対中協力 ポーランドの法と正義 チェコ共和国の懸念 希望の緑? ブダペシュト=ワルシャワ枢軸? チェコスロヴァキアは欧州中心部に巣食う癌であり、外科的に除か…

「緑の党」と欧州の東西

photo by Alexander Dietzel e. K. 緑の盛衰 反核と緑 東西の緑 「緑の党」ということば 緑の盛衰 5月6日に行われたスコットランド議会選挙では、独立を唱導するスコットランド民族党(SNP)が64議席を獲得したものの、過半数に1議席だけとどかなかった。そ…

ベーアボックの「気候保護」

ドイツ連邦共和国で、緑の党のアナレーナ・ベーアボック共同代表が次期連邦宰相候補に選出されたことは、この4月、おおいに報じられた。アンゲラ・メルケル宰相の後継として、行政の長のポストに就く可能性も取り沙汰されている。といっても、すでに正月に、…

アンドレイ・バビシュの壺皿(3)

photo by Miloslav Hamřík 利益相反 アグロフェルト社 メディアの帝国 利益相反 承前。アンドレイ・バビシュ・チェコ共和国首相が批難されているもうひとつの廉は、利益相反である。この件は、長年にわたってEUから追及を受けている。それが、この4月下旬と…

アンドレイ・バビシュの壺皿(2)

photo by Lubos Houska 不可解なタイミング アンドレイ・バビシュとは StBの協力者 不可解なタイミング 5月3日の月曜日に『ポリティコ』に掲載された記事は、スロヴァキアの議員で元NATO大使のトマーシュ・ヴァラーシェクによるもので、チェコ共和国の外交的…