ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

岸田ショック下の繰り言。

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photo by Joshua Woroniecki

 岸田政権が成立した。とはいえ、月末に投開票日をさだめた選挙までの、さしあたってひと月ほどの暫定政権である。

 支持率は低い。日経平均もおおきく下げた。株価が下がるというのは、経済政策が市場に評価されていないということで、こうした政権はながくつづかないといわれるが、はたして来月以降はどうなるか。

 コロナ疫禍で困窮のあえぎがひろがり、いまや世界中で左派がつよくなっている。たとえば、米国ではバイデン・民主党政権が成立し、ドイツでも先日の選挙で社民(SPD)が第一党におどりでた。しかし日本には、まともな社会民主主義政党はなくなってしまっている。看板は残っているとはいえ、風前の灯火……。

 国民なんとか党などは、党名こそ右翼的ではあるが、元官僚だという代表はけっこうバランスよく、まともなことを言っていると、最近はSNS等で評価されることも多い。しかし如何せん支持がひろがらない。それをのぞけば、反戦仏教政党か、週刊誌拡販政党か、時代遅れの革命政党、あるいは「是々非々」といえば聞こえはいいが、もろもろの政策には無定見なだけの胡乱なシングルイシュー政党しか、選択肢がない。

 そこで、さしあたって「宏池会系」の出番というわけだ。「何々会系」というと、やばい特定団体みたいだが、宏池会とそこから枝分かれした亜流の諸派をさしている。

 岸田新総理は、派閥の創始者池田勇人にならって「所得倍増計画」を打ちだした。池田が当時の社会党の政策を封じたように、岸田もまた選挙での機先を制した。また、大平正芳内閣の「田園都市国家構想」に「デジタル」という枕を冠した「デジタル田園都市国家構想」も提唱している。これも宏池会にあって伝家の政策ということになる。

 くわえて「成長と分配」というスローガンもまた、いろいろに解釈されている。給付金ばらまきをいち早く宣言したのは、これも野党の批判に先んじた選挙対策だった。かえす刀で、これまでの新自由主義路線を撤回して「新しい資本主義」をめざすと大風呂敷をひろげた。とうぜんのように成長戦略会議は廃止されてしまった。成長戦略は誰がどこで練るのだろうか。さいきん流行りの経済学者たちの言にしたがって、はやばやと成長を放棄するのだろうか。「成長と分配」はどこへ。市場は心配したのだ。良いことは言っているんだけど……。

 もっとも株価のうごきに直に関連がありそうなのは、やはり富裕層増税の話だろう。宏池会は、大蔵官僚だった池田勇人の派閥で、いまでも財務省の人脈がつよいといわれる。それかあらぬか岸田総裁は、いち早く増税を宣言してしまった。選挙前なのに。なるほど「分配」と合わせて考えると、このコロナ対策「被災者」困窘の時世であるから、まっとうに聞こえることも確かだ。しかし冷静に考えれば、これもまた、共産党などの左派が言い出しそうな政策である。じっさい最近の諸外国の選挙を観察していてもそうである。

 この状況を要するに、有権者は前の選挙で、ブルジョワ政党・自由民主党に票を投じたつもりなのに、宏池会という「党内共産党」が勝手に社会主義をはじめてしまったかのようにも見える。投資家も逃げ出すはずだ。だから速やかに選挙を実施して信を問うって言ってるじゃないかと反論されるに決まっているが、それ以前に、こんなものがはたして代表制民主主義といえるのであろうか。──じつは、そういう恨み節をSNSに見かけた。選ぶプロセスに関わりたかった由と。

 むろん、自民党員になれば、総裁選挙に参加することもできた。ただし、党員費をはらう余裕と意思のある者のみである。つまりは大昔の財産資格による制限選挙の一種だ。そこで、リベラル宏池会系か、保守の清和会系か、もしくはほかの派閥か、無所属の候補かを選ぶのである。

 しかし本来的に、そういうのは別々の党にしていただきませんと。つまり、自由民主党が分裂して、二大政党になったらいいと思うんだけど。たとえば仮に、自由党日本民主党とか。なんだ、もとに戻っただけか。

 自由民主党はながく一強政党で、それというのも一億総中流の時代の「中流」階層の利益を代表する政党であったためだ。ところが、ながびくデフレ不況のなかで国内に格差がひろがり貧困化がすすむと「中流」意識をもった階層が減少した。もしくは、「中流意識階層」じたいが解体された──このように仮定すれば、あたらしい政党システムの必要性は、ますます高まっているはずである。

 だが、そうはなっていない。現状もまた民意の反映であるとするならば、投票行動においては「中流」意識はまだ、根づよく残っているということなのではないだろうか。逆説的ながら。

 

*参考:

www.nikkei.com

jp.reuters.com

president.jp

toyokeizai.net

*追記:

www3.nhk.or.jp

*追記2(若干の軌道修正):

www.bloomberg.co.jp