ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

フリチンを待ちながら

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photo by Marisol Benitez

 反ワクチン派?

 ときおり街で顔見知りにでくわすと、時候の挨拶がわり、COVID-19ワクチンの接種について訊くようになった。

 すると意外にも、大のおとなが「接種はしない」などと胸をはる。「気がすすまなかったけれど、しぶしぶ接種を受けた」というやつもいた。つまり温度差はあるものの、なべて「ワクチン懐疑派」というわけである。

 詳しい事情までは尋ねない。ただ、呆気にとられたのは、反ワクチンなんて子どものファッション的な流行りだと思っていたからだ。ヴィーガニズムとか、反グローバリズムとか同様の、若者が感染する麻疹、ないしは通過儀礼的な何か。

 一国の行政府が市民にあまねくワクチンを行き渡らせるために、さまざまな障害を乗り越えてきたことは、昨年来の報道によってつたえられてきた。売買契約にはじまり、ワクチン供給の数量と時期の調整、輸送に管理体制に供給網の構築、冷凍や冷蔵にかかわる機材の調達、接種を実施する場所や人員の確保……。最後のハードルは、予期せぬ供給の遅滞と、反ワクチン派の抵抗というところではあるまいか。さきごろから東京や大阪など各地で発覚している、アンプルへの異物混入とならんで、おもわぬ伏兵の存在感がある。

 また、訃報がつたえられた千葉真一のように、「俺は大丈夫だから」というような、正常性バイアスにもとづく未接種というケースも多いかもしれない。積極的な反ワクチン論を主張しない、消極的反ワクチン派というわけだ。いずれにせよ、世界は偉大なアクション俳優をうしなってしまった。

 もうひとつ思い出したのは、チェコやスロヴァキアの人びとにみられる、特殊な個人主義についてである。共産党体制下の全体主義への嫌悪感に由来する、皆が全員で一斉におこなう行動に対する反感、とでもいおうか。「赤信号、みんなで渡れば」式に、全体志向のつよい日本人とは対照的にもおもえる傾向である。要は、他人とおなじ行為をするのは悪だ、という条件反射的で単純な行動原理であった。反ワクチン感情の理由のひとつとして、挙げられるかもしれない。

 

 フリチン状態とは

 さて、そんな価値観を持ち合わせぬ身としては、そうそうに2回のワクチン接種を終えた。ファイザー製だった。

 副反応については、発熱はなかったものの、インフルエンザのときのような倦怠感がひどかった。数日にわたってつづいたように感じたけれど、風邪にも似て、平熱だと長引くものなのだろうか。とまれ体感的には、1回目も2回目も、接種の翌日が副反応のピークだったようにおもう。つらかった。人体が抗体をつくるのも、そうとう大変なことらしいと実感した。

 米CDCは、2回目を接種してから2週間が経過したとき、そのひとは「完全にワクチン化された」状態になると考えられている、としている。抗体が十全に準備された状態となるのだ。そうなったら、以前の活動を再開できますよ、と(When You’ve Been Fully Vaccinated)。

 この“fully vaccinated”を、日本語でなんと言うのか。──いぜんSNS上では、これを「フルチン」というか「フリチン」と呼ぶかで、ちょっとした論争があったみたいだ。かなりどうでもよい議論ではある。

 かくして接種ののち、件のフリチン状態になるのを待つあいだ、オリンピックの中継を観るようになり、けっきょく肝心のフリチンについては忘れてしまっていた。なにかをしているうちに、なんのためにそれをしているのか失念してしまう……。なんだか、サミュエル・ベケットの不条理劇のようではないか。

 昨夏はロックダウンの狭間で、まだジムに通うことができた。が、ことしはワクチンの副反応が延々つづいているような心地で、ぼんやりした頭のまま、すべてが億劫になった。気がつくと、夏も終わろうとしている。まるで不条理な人生そのものだ。

 

接種間隔についての諸説

 ところで、BBCによると、この2回接種するタイプのうち、ファイザー製のワクチンでは、8週間の間隔を空けることがデルタ株に対してもっとも有効である、という研究が出たとのこと。じっさい、英国政府は2020年末に、接種間隔を最大12週間とする方針を示していたところが、さっそく今年7月からこの間隔を8週間に短縮した(ファイザー製ワクチン、間隔を4週以上空けると抗体増える=英研究)。

 もともとメイカー側では、3週か4週の間隔というのを推奨していて、日本の厚労省は3週間の間隔を「標準」として説明している(新型コロナワクチンQ&A|厚生労働省)。

 変異株の流行を受けて、地元の保健当局がそのあたりをどう考えていたのか、あるいは考えもしなかったのか、それはわからない。1回目のオンライン予約の際、同時に2回目の期日も自動的に予約される仕組みで、それは6週間という間隔で指定された。このあたりは各国とも、当初の接種計画によらなければ、ワクチンの供給や在庫の状況に応じて決まってくるはずで、受ける側としてはどうしようもない。それよりも、「接種後2週間」という前述の「フリチン」について、とくだんの説明がなかったのが気になった。


 ──インフォデミックに加担したくはないから、この話題は書くまいとしていたけれど、なにかの参考になるということもあるかもしれないと思い直した。ワクチン接種にかんしては、お住まいの地域を管轄する保健機関の情報を参照されたい。

 

 *参照:

www.cdc.gov

www.bbc.com

www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp

www.mhlw.go.jp

www.fda.gov