ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

ベーアボックの「気候保護」

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 ドイツ連邦共和国で、緑の党のアナレーナ・ベーアボック共同代表が次期連邦宰相候補に選出されたことは、この4月、おおいに報じられた。アンゲラ・メルケル宰相の後継として、行政の長のポストに就く可能性も取り沙汰されている。といっても、すでに正月に、秋までの展開を予言したかのような記事を書いていたひともあった。

 ベーアボックもまた、今どきの政治家らしく、政策についてツイートするなどして発信をしている。たとえば「温暖化防止プログラムを直ちに開始しよう」として、(1)温暖化防止目標、2030年:マイナス70%、(2)再生可能エネルギーの急速な使用拡大、(3)環境負荷の高い補助金の削減、(4)石炭利用廃止の前倒し、(5)2030年以降:新規登録はエミッションフリー車のみ、(6)産業構造改革のための気候変動にかんする協定、というのを掲げている。

 さらに、口を開けばくりかえされる語「気候保護(クリーマシュッツ)」が、政策の鍵となっている。それはベーアボックらにとっては単なる環境政策ではなく、もっと大局的な観点なのだとされ、気候保護をすべての政治活動の中心にすえる政策政策が必要である、としている。具体的にはどういうことであろうか。

 5月にはいって、公共放送ZDFのインタヴュー番組に出演し、論争的なテーマについて質疑に応じたようだ。それがたまたまTwitterに流れてきて、たとえば空の旅について議論している部分の抜粋を見かけた。交通手段のうちでもとりわけ二酸化炭素排出量が高く、議論が過熱しやすい航空機となると、視聴者の注目も集まったであろう一方、このひとのいう「気候保護を中核にすえる政策」というのが端的に示されていた箇所でもあった。曰く、気候保護とは、社会政策、産業政策、そして自由政策でもある、と。

 男の司会者が訊く──しかし、「断念」も意味するはずですね。私たちは何を断念することになるんでしょうか。たとえば、自動車を運転するひとにとって、あるいは旅行者にとって。将来においても、好きなだけ飛行機で旅ができるのでしょうか。

 ベーアボックはこたえる──つまるところ、私たちすべてにとっての豊かさに、よい影響をあたえるものではなく、害を及ぼすものを「放棄」するということなんです(Verzicht:断念、放棄)……

 もうひとりの女の進行役が割ってはいる──はあ、しかしそれというのはけっきょく、ベーアボックさん、旅行やフライトがふたたび富裕層だけに可能なものになって、いま休暇に格安航空の便を利用している人たちが、もはやできなくなるということでしょうか。

 ──いえ、私たちは、あらたな社会の分断を望んでいるわけではないんです。くりかえしますが、気候保護なんです。気候保護は、社会正義を増進します。というのも、現在、気候変動によってもっとも苦しんでいるのは貧困層だからです。でも今回は、飛行機のことに話題を戻しましょう。みなさんが望むテーマでしょうから。

 ──簡潔におこたえください。フライトの回数に制限が設けられるんですか。年にいちどのマヨルカ旅行はオッケーとしても、10回行くことはまかりならんと、こう仰るわけですか。

 ──いいえ、めいめい休暇旅行にゆくさきに制限をかけるわけではないんです。だれがどこで休暇をすごしてもかまわないのです。しかし、これが大事なことですが、抑制が必要なのは、地球上の航空輸送量の総体です。というのは、私たちがこれまでみてきたのは、成長過程にあった航空輸送だったからです。それにははっきりノーと言います。このさき航空輸送がさらに増加するのであれば、それはもう破綻せざるを得ないのです。これをいま否定するというのはつまり、航空輸送じたい、これまでの国際的な気候保護の対象にはまったく含まれていませんでしたが、パリで私たちが今回、航空輸送をとりあげたのは、それが今後も増大しつづけるはずだからです。それに、私ははっきりとノーと言います。それは通らない。それにコロナで明らかになったように、航空輸送が増加せずとも、私たちは今後とも世界規模で交流をつづけてゆくことができるんです……

 さて、日本の某環境大臣はいつも、くるくるパーのようなコメントを発して、SNSがお祭り状態になる。けっきょく日本人は、環境政策に通じた政治家を育ててこなかった。結果として、みな官僚まかせで、ご都合主義的に降って湧いた数値目標がどのように決定されたのかという問いに、身も蓋もない内実なんぞ口にするわけにいかない事情は汲むとしても、その代わりに自身のことばでみずからの環境観を朗々とやってお茶を濁すくらいの芸当すら、誰もできない。堂々たる態度で侃々諤々と議論するベーアボックと、われらが日本の政治家と比較するにおよんで、さびしい気分になった。

 

*参照:

www3.nhk.or.jp

www.nikkei.com

www.bloomberg.co.jp

www.reuters.com

jp.reuters.com

www.dir.co.jp

 

*上掲画像はWikimedia