ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

夏の車内放置事故

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photo by Raban Haajik

 暑い。暑すぎる。気がつけばもう、夏至をすぎている。夏も折り返していたのだ。

 この時節によく報じられるいたたましい事故に、「車内放置死」というのがある。単に遺棄致死とか、置き去り、置き忘れ事故……などとも呼ばれる。

 せんじつ、あるセレブの女性が幼児を車内に数十分のあいだ放置していたとして、日本のメディアが批判的にとりあげ、SNSもその話題でだいぶ騒がしくなっていた。有名人の過失をあげつらうのを生業としているひともいるから、気の毒とはいえ世の常ではある。けれども、誰でもやりかねない失敗だからこそ、むしろ周辺にいて気がついた者の行動が、じつは事態の鍵をにぎっている。 

  というのも、ちょうどその頃、すなわち6月18日づけで、チェコ共和国の公共放送でも同種の事故について、こうした論調で報道されていたのである。北国とはいえ、このところの水無月といえば30度を超えることもめずらしくないから、いわば風物詩というくらいには近年よく起こる事故らしく、日本での議論にも参考になるかもしれない。

 レポートによると、条件によっては車中の気温は意外やすぐにも70度に達してしまうこともあるそうで、そうなると成人でも危険であるが、なかんづく体温調節の機能の未熟な乳幼児には致命的である。けれども、誰しもが過失によっておこしがちであるからこそ、事態に気がついた周囲のひとが行動を起こすことが重要となってくる。

 では、こうした状況にでくわしたときには、どうしたらよいのか。

 一般の市民が車内にのこされた乳幼児や、はたまた犬や猫を発見したばあい、まず電話で警察に「通報」すること。そのように、オストラヴァ市警の広報は奨めている。

 さらに通報後のつぎのステップとして、すみやかに「車の所有者をみつける」こと、と記事はつづく。おおきな商業施設であれば、ナンバープレートなどの情報を放送で告知してもらうこともできるであろうし、飲食店であれば、従業員が来店客に口頭でたずねることも期待できる。一刻も早く、車両のオーナーないし運転手を発見することが緊要である、とされている。

 とくに緊急とおもわれた場合には、自らの手で「窓を割って救出せよ」という意見も紹介されている。車内の子どもや動物が息をしていないとか、呼びかけにも反応しないとかいうばあい、スマートフォンで記録写真を撮ってのち、破片による負傷のリスクを最小にするため、いちばん遠い位置にある窓ガラスを割って、じかに救助する──という手順が示されている。

 これはしかし、あくまでも最終手段であって、乗用車という他者の財産を棄損する行為には、つうじょう慎重にならざるを得ないものだ。じっさい、車内の生命が危機に瀕しているかどうか、素人には判断がむずかしい。それにも拘わらず、他人の車両に損害をあたえたことが法的に適当であったか否かの判断を、行政や裁判所にゆだねることになる。そして、損害にたいする責任を負うことになることもありうるのだ。

 ブルノ市警のスポークスマンは、通報した相手、つまり緊急センターの「指示にしたがう」のが最善だとしている。日本でいえば、警察の通信司令室であろうか。無難であろう。

 そのブルノ市では、ことしも5月には早くも最初の救出事例があったばかりだそうだ。市内コマーロフ地区で乗用車のなかにいたハスキー犬が、2日目に救助された。これに従事した業者によると、じっさいに消耗していると判断がついたため、乗用車を開錠して、ハスキーを保護施設に送ったという。

 チェコ共和国のばあい、たとえば車内に動物を放置した側は、動物虐待の罪で最大2年の禁錮刑が科される可能性もある。ちょっとだけ車を離れると本人はおもっていても、時間の感覚に齟齬が生じることもあって、じっさいには数十分間もどれないこともある、とは警察も想定している。それでも禁錮ということもありうるのだとすれば、量刑としてかなり重い気はする。

 ただ、こうしたケースで危惧されるのは、熱中症だけではない。

 駐車場でのトラブルを好む人はいないから、不審な車両は意図的に避けられる傾向がある。そうすると、子どもが救護されないまま、そうとう長期にわたって置き去りになってしまうこともままある。

 さらに同国では、人や動物が乗っている状態で、当該の乗用車が盗難に遭うケースもよくあるようだ。放置事故ではなく、もはや車両の盗難および誘拐事件となる。いずれにせよ、こうした事件・事故にかぎった統計はとられておらず、具体的な数字はないとのことだが、年間でかなりの件数にのぼるとみられている。

 

*参照:

ct24.ceskatelevize.cz

www.nikkei.com