ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

グラマンがきたぞー!【麦酒】

 3月10日は、東京大空襲の平和祈念日であった。その頃のんだ麦酒。

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Matuška Hellcat──低温白濁は無い

 「グラマン」の通称で、戦中は一般庶民にも恐れられた米海軍の艦上戦闘機、F6F ヘルキャット──それに由来する名の製品である。

 

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 もともと醸造所では、ノース・アメリカン製の米陸軍の傑作戦闘機、P-51マスタングにちなんで、仮称として「マスタング」と呼ばれていたそうであるが、ジーンズの商標として「マスタング」を有する企業が、ビール用にも登録を済ませており、じっさい製品も存在する。いずれにせよ、マトゥシュカ社は商品名に使用できなかった。それで「ヘルキャット」に変更されたそうである。

 醸造家の創造性や霊感にケチをつける意図は毛頭ないが……。そういえば、かつて「ミッドウェイ」という屋号の飲み屋もあったが、無事に廃業したようである。そんな店はつぶれて当然である。日本で「ビーラー・ホラ」とでも名づけた店なんぞ始めて意趣返しする必要はなくなった。

 ちなみに、ものの辞書によれば、“hellcat”とはそもそも、"an ugly old woman, hag" または、"a violently temperamental person, especially : an ill-tempered woman"を意味する。これらの定義をむりやり総合してみると──機嫌が悪く、そもそも暴力的に怒りっぽい人柄で、薹が立っており、そのうえ醜女である……

  

 名称:Matuška Hellcat

 ビールやエイルについて「ストロング」といえば、「酒精強化ワイン」のような意味合いとはちがって、とくにリキュールを添加されていなくとも、ばくぜんとアルコールの高い製品を形容するときに用いる。

 このマトゥシュカ・ヘルキャット(Matuška Hellcat)は、現在チェコ共和国で生産されているIPAのうち、もっとも「ストロングな」IPAである。といっても、本製品にも、砂糖や麦芽糖などは一切使用されていない。

  松のような香りがある。それも含めて、全体の香味の根幹をなすのは、唯一の使用ホップ、Simcoeということになる。あかるい琥珀色の液色は、ピルゼン・タイプの麦芽に由来する。これも単一の使用麦芽となっている。──計算に裏打ちされた単純な設計。それにもとづく、シンプルでなめらかなのみ心地。だからこそ、アルコール度数が高いのに、のめてしまうわけだ。

 それで、知らずしらず杯を重ね、気がつくと"a violently temperamental person"になってしまっているのだろう。殴り合いも絶えない当地の酒場であった。

 

www.youtube.com

 

参)HELLCATの語義:

www.merriam-webster.com

祈りの燻色、春のルビー色。【麦酒】

 このところ、まいとしこの時期にいただいている旬のもの。ファッシングFasching(謝肉祭)、ファストナハトFastnacht(断食の夜、懺悔の火曜日)などとよばれる火曜日がすぎたらば、ファステンビーアだ。

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世界一のラオホ、とも。

 

 じつのところ、燻煙の香りが馥郁としすぎて、はじめは苦手だった。しかし慣れてしまえば、世界一との誉れも高いラオホビーア(燻煙ビール)は、この季節には欠かせなくなる。といっても、香りがそれほど鼻についたわけでもない。むしろ、絶妙なバランスで香りは抑制されている。いぶりがっこや鰹出汁のような風味を連想してしまうから、抵抗感があっただけなのだろう。要は、先入観のようなもの。

  ビールの都、バンベルク。知る人ぞ知る、ヘラー= ブロイ・トゥルム社のシュレンケルラ醸造所が醸す、名物の燻煙麦酒(ラオホビーア)。

 地元では、灰の水曜日から復活祭まで、つまり四旬節の約40日間のみ、樽出しで提供される。「ファステンビーア」たる所以である。

  ブナ材で燻煙された麦芽と、燻煙していない麦芽ブレンド。ダブル・デコクション。一週間の発酵ののち、2か月ほど低温で熟成させている。ホップは、Spalt SpalterとHallertauer Magnumの二種。

 液色はふすべ色。または濃い鳶色といえるも、この時期ようやく冬を脱しつつある日差しにかざせば、ルビー色にかがやく。 

文句たれず、神に感謝せよ

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  3・11に事故の報がはいってしまった。

 半年のあいだに2度もの大規模事故を起こしてしまったのは、ボーイング737MAX8という、鳴り物入りで登場した新型機。週明けのニューヨーク市場では、ボーイング社の株価が、開始直後に13%ちかく下落したという。

 記憶にあたらしい、インドネシアでのライオンエア便の事故では、同型機のセンサーに不具合があった旨、事故原因が推測されている。にも拘らず、またもや今回の破滅的な事故だ。事故調査委員会の報告を待つしかない。

 しかしながら、この救いのない事故にあって、棚ぼた式の僥倖で、生命を救われたひともいたわけだ。

 けだし、誰もがそうなのだ。種々の偶然が重なった結果、たまたま生きているにすぎない。生きているだけで丸儲けとか、人生そのものがギフトなのだ──とも、ひとはいう。

 だから、文句はあとまわしだ。呪詛を吐くまえに、それぞれの神に祈るべし。

www.afpbb.com

www.bbc.com

 

 

トロピカル・ロケット【麦酒】

 トロピカルtropicalといえば、「熱帯の」「酷暑の」「回帰線の」「隠喩的な」といった意味であることは間違いない。が、麦酒においては、もっぱら、比喩的に「トロピカル・フルーツ」を意味している。むろんこれは、じっさいにその種の果実をぶち込んでいるわけではなく、北米産や豪州産のホップの一部に、そうしたアロマをつよく有する品種があって、それをもって香りづけが行われる。

 

 スラヴ語で「ラケタ」とか「ラケータ」というと、漠然とロケットrocketを指すが、これは日本語の「ロケット」よりも意味がひろい。
 JAXAがいうところの「ロケット」のほかに、自衛隊でいう「ロケット」ないし旧日本軍でいうところの「噴進弾」を指していることはいうまでもないが、自衛隊でいう「誘導弾」つまり「ミサイル」も指しているのだ。
 ──というよりも、これは、自衛隊防衛省の慣習として、誘導装置つきの弾薬と無誘導の弾薬が峻別されていることによるわけだ。こういう分類魔の傾向は、ヨーロッパ諸語と比較した際の日本語の特徴ともなっている。すなわち、日本人は複雑な生活をしているから、複雑で多様な語彙をつかいわけている──云々(さしあたり参照:金田一春彦『日本語』〈岩波新書〉)。が、日本人が永きにわたって、オッカムの剃刀をもたなかったことの結果に過ぎぬのかもしれない。

 

  話がずれた……

 

 言語学のはなしは、麦酒をのみながらするものではない。IPAって、どっちの意味のIPA?──などということになる。

 

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トロピカル・ロケット発射w

 

 結論からいえば、トロピカル・フルーツの香味をフィーチャーした力強いIPAである。フルボディ。

 

 いってみれば、《トロピカル・ロケット》は《黄金のロケット》の発展型にあたる機種だ。ブースター強化型。

 トロピカル・フルーツの風味をもたせるべく、使用ホップの構成が変更されている。〈Amarillo〉と〈Citra〉はそのまま、〈Columbus〉の代わりに、〈Comet〉と〈El Dorado〉が使用されている。

 〈Comet〉の来歴は現代クラフト・ビールにとって、復古的なホップといっていいかもしれない。野性種にちかいなどという輩もいるが、よくわからない。が、「草の香り」ときくと、セパージュ・ワインならソーヴィニヨン・ブランがまず思いうかぶところで、わるい印象はない。

 もういっぽうの〈El Dorado〉が本命だろう。マンゴー、パイナップルなど、トロピカルフルーツの香味とともに、アプリコットのような核果の類の複雑なアロマが持ち味で、苦味もある。

 とはいえ、アロマだけに終わらない。二種の麦芽により、しっかりしたボディがつくられている。重量級の強力なロケットだ。

 

参)

kotobank.jp

物書堂のすごいワープロ【APP】

 数年まえ、縦書き原稿作成の必要が生じたとき、気づいた。──手もとのMacBookには、旧いMS-Wordがはいっていたが、あいにく英語版で、縦書きに対応していなかった。

 そもそも、MS-Word自体、好きではなかった。とくにMac版が。デファクトスタンダードだったから、しぶしぶ使用していただけだ。これは英語を喋ることに似ている

 けっきょく、Macで作成したテクストを、老朽して動作の緩慢なWindowsマシンに転送して、そこで同じく旧版のWord上にて縦書きになおす──という作業を、こまかな修正や訂正をするたびに繰り返す羽目になった。

 〆切りは過ぎたが、その後も縦書きテクスト作成環境の模索はつづいた。

 そんなある日、出くわしたのである。株式会社物書堂が、ながらく絶版になっていたワープロソフトのソースコードを取得し、リニューアルしてリリースするという報に。 

 すぐにα版が公開された。さっそくダウンロードして使ってみた。すごくよかった。書き始めると間もなく、それがβ版になった。更新されるたびに、あらたなヴァージョンをダウンロードして使ってみた。1日になんどもファイルがさし替えられることもあった。物書堂さんの仕事が速かったのだ。

 Macという枠を越えて、いままで使ってきたワープロソフトのなかで、だんトツの出来のよさだとおもった。動作などは、エディターのような軽快さだった。

 製品版がApp Storeに登場したときに、さっそく導入したことはいうまでもない。

 それが、〈egword Universal 2〉である。しかし、ネーミングだけはよくないとおもう。旧版へのリスペクトや開発者の思い入れもあるだろうし、従来のユーザーやアプリの来歴への配慮も要るのだろうが……

 

www.monokakido.jp

 

参)

www.monokakido.jp

ビールの都の完璧なピルス【麦酒】

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 バンベルクは「ビールの都」としてつとに名高い。

 日本では、たとえば香川県が「うどん県」を名乗るが、バンベルクは「ビールの首都」を高らかに自称している。

 "ビーアシュタット"(ビール都市)のインターネット・ドメインも、バンベルクの団体がおさえている(だれかWHOIS検索してみて)。

 

www.bierstadt.de

 

 

 「首都」の老舗の同業者のうちにあっては、ケースマンは比較的あたらしい醸造所といえる。もともと家業は、宿泊施設も提供している肉屋であった(大陸には、しばしばある業態)。思うところあってか、ゲオルク・ケースマンは51歳にして醸造学の修士号を取得。現在も創業家の所有となっている醸造所は、その年、1867年に開設されたものである。

 しかし、その主力商品、Herren Pilsの風味は、ジャーマン・ピルスナーのうち、もっとも古典的な範疇に属する。スパイシーなアロマ、ホップの香味が最大限に効きながらも、モルトの風味によって、苦味は中程度、昨今のBrut IPAではないが、ドライでさっぱりとしたフィニッシュ。綺麗。淡麗。清澄さは、ブリリアントの域。泡もちがいいのもジャーマン・ピルス。フランケンビーアの典型にして、ひとつの完成されたバランス。

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Bamberger Herren Pils


 

 

パンドゥーアII

「武器輸出禁止三原則」が見直され、2014年に「防衛装備移転三原則」があらたに閣議決定されてから、日本でも兵器の輸出が構想されるようになった。しかし、日本の防衛産業に成功らしい成功はいまだにない。

 川崎重工が、C-2輸送機をオセアニアに輸出しようと尽力している旨の報道があった。

 輸送機といえば、現在生産されているものだけで考えると勝機はあるのかもしれない。C-17はもう生産されておらず、大ベストセラーのC-130シリーズ、エアバスのA400Mや、エンブラエルKC-390あたりがライヴァルとなろう。製品特性やスペック上の類似性からいえば、エンブラエルがもっとも手強い相手となろう。

www.defensenews.com

 

 いっぽう、コマツが防衛装備部門から事実上、撤退する旨の報道もあった。陸自の要求が特殊すぎて製品たる装甲車は、各種の性能が「独特」であったらしいことが各種の記事から知れるが、すくなくとも輸出に向かないのだろうとはわかる。

toyokeizai.net

 そうなると、自衛隊としては、96式装輪装甲車の代替装備の選定が喫緊の課題となろう。三菱重工が何年も前に発表していたMAVを除けば、国産の実現可能性はまずない。

trafficnews.jp

 

 現時点で蓋然性は低そうだが、もしも輸入するとなれば、どうなるか。──本命は、米軍とのインターオペラビリティの観点からも、ストライカーの採用か、ピラーニャ・シリーズからの独自開発というのが妥当なところか。

 だが、世界に目を転ずれば、この8輪装甲車のカテゴリーは選択肢が豊富で、陸自としても、よりどりみどりの状況がある。ドイツ=オランダ共同開発のボクサーは、欧州のリトアニアだけでなく、遠く豪州軍でも採用が決定しているし、フィンランドパトリアAMVなどは、クロアチアスロヴェニアポーランドのほか、南アフリカでも大規模に採用され、かつては発展型が米海兵隊でも採用されるという観測もあった。

 

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 そこで、《パンドゥーアII》という選択肢はいかがであろう。

 オーストリアのシュタイアー=ダイムラー=プフ社で開発され、ポルトガルチェコがすでに運用。インドネシア軍にも導入される予定だという。

 インドネシアへの輸出に際しては、どうやら開発元ではなく、チェコスロヴァク・グループなる製造者から行われるようだ。といっても、同社はジェネラル・ダイナミックスの傘下にあり、開発したシュタイアー社も現在は同じ傘下にはいっている。要は、オーストリアで生産するよりも、チェコ人やスロヴァキア人をつかったほうが、人件費が安くあがるというわけなのだろう。──そもそもコマツには分が悪い戦いだったのだ。

 ちなみに「パンドゥール」というのは、ハプスブルク君主国におけるクロアチア貴族の近衛散兵部隊の呼称で、17、18世紀、たとえばシュレーズィエン戦役などで活躍した。「パンデュール」という表記を散見するが、ちょっと違うとおもう。

 

www.youtube.com

 

 参)陸自・水陸機動団にかぎっては、近年もうひとつ選択肢がふえている:

otakei.otakuma.net

 

チーズはどこへ

 スペンサー・ジョンソンのベストセラー『チーズはどこへ消えた?』では、チーズは、シンボル化された「ひとが人生において追い求めるもの」だった。

 迷路のなかに住む、2匹のネズミは、チーズが入手できる場所を発見して、その恩恵に浴していた。が、ある日とつぜん、チーズは出現しなくなる。ネズミらはチーズを求めて、別の場所へ捜索の旅にでる。いっぽう、同じ迷路には小人もふたり住んでおり、同様にチーズを得ていた。ところが、そのふたりはチーズが出なくなっても腰を上げず、チーズのほうが勝手に戻ってくるかもしれないと期待しながら待っているのだった──

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スペンサー・ジョンソンチーズはどこへ消えた?

 

 先日、4年ぶりで会った旧友のことでおもいだした。

 以前はよくSMSで申し合わせて、近所の中華料理屋へ行くことがあった。といっても、日本の中華屋とは似つかない。「中国人がやっているレストラン」というほうが、正確なイメージだ。

 びみょうな差異になるけれども、チェコ語で「do Číny」といえば、初級の教科書どおり「中国へ」行くという意味になるいっぽう、「na čínu」というと、「中華をたべに」行くということになる。

 とにかく、その日も「中華に行こう」ということになって、まず欧州式にスープから平らげた。

 蛋花湯 [タンホヮタン] というのか、酸辣湯 [サンラータン] だったか、日本人にとってはお馴染みの、ふわふわした溶き卵がはいっているやつだった。

 ──なんだったんだ。あれ。

 ──なにが。
 ──スープのなかにふわふわ……
 ──ああ。卵だよ。
 ──卵か。チーズかとおもったぜ。

 斜め上の発想だ──と感じたのは、こちらが日本人だからか。ところかわれば、なんとやら。チーズはそれだけ身近な食材なのだ。

  あれから何年も経った。つぎのチーズをさがすのが億劫でしかたがない。しかし人生、つねにチーズを探しまわっているようでなければ……。やつのように。

チーズはどこへ消えた?

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ゴンゾウさん【麦酒】

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GONZO Imperial Porter, Flying Dog

 

 店の入り口には、飲み友達の死亡を伝えるA4版の紙が貼られている。音響監督として四半世紀にわたって勤務していた、となりの劇場に掲示されていたものだったのだろう。はやいもので、ことしの3月6日で2年になる。
 春の兆しがやってきたこの時期に、結氷下の池で寒中水泳中、事故で死んだ。──ゴンゾウすぎだ。

 

 ところで、アメリカ合衆国には、かつて「ゴンゾウ」つまり「気狂い」と呼ばれた国民的なジャーナリストがいた。ハンター・S・トンプソンのことだ。
 2005年2月20日の午後5時42分、コロラド州ウッディ・クリークにある自身の農場にて、銃で自殺した。

 日曜日だった。空はどんよりと曇っていた。あるいは晴れていたかもしれない。タイプライターには、一葉の紙が残されていた。そこには「2005年2月22日」という日付と、「カウンセラー」という一語だけが刻印されていた。

 

 この時期にかぎったことではないにしろ、たしかにカウンセラーは必要かもしれない。──などとおもいながら、そのゴンゾウに捧げられた麦酒をのむ。カウンセラー代わりになるとはおもわないが。

 

 

 使用モルトは"CARAMEL, BLACK, CHOCOLATE"とある。三種の調和。ホップはCascade と Northern Brewer。アメリカン・エイルとイングリッシュ・エイルの二種の酵母による上面発酵。

 ビアスタイルの定義に似つかわしく、黒い。ひたぶるに黒い。そのほかの点でも、現代のポーターの代表的なイメジに合致する。ボディはしっかりしすぎず、ロースト感も際立ってはいない。むしろ、フルーティなエステル香に満ちている。チョコレート香もほのかで、ホップも苦すぎず、モルト由来の甘みも……すべてがちょうどいい。漆黒の闇のなかにすべてが調和している。アルコールはしかし、9%を超えており、のちのち、がつんと効いてくる。

 あるいは、いっけん調和を保っているかのようにみえる、心の闇。どいつもこいつもゴンゾウだ。だとしたら、のまなきゃ損だ。

 

 

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参)映画『GONZO〜ならず者ジャーナリスト、ハンター・S・トンプソンのすべて〜』2008

www.youtube.com

 

 

 

 

コンコルドは駄目な飛行機だったのか

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photo by johnrp

 「夢の超音速旅客機」とよばれたコンコルドの初飛行から、人類はきょう、50周年をむかえた。

www.bbc.com

www.thelocal.fr

 1969年3月2日のことで、一説によると、近代の現代への移行がはじまっていたころだ。
 パンナムJALなど、おおくの航空会社から注文を受けていたが、オイル・ショック等の影響でキャンセルが相次ぎ、けっきょくエール・フランスとブリティッシュ・エアウェイズの二社のみによって運用された。1962年にはじまった、英仏両国の共同開発には、すでに巨額の資金が投じられていたために、止めるに止められなかった──という話も有名で、「コンコルド効果」という概念を産んだ。

 われわれ同時代人には記憶に新しい、2000年7月25日の離陸直後の墜落事故で強烈な印象を残したのち、航空需要の落ち込みによる収益の悪化などのため、2003年に全機の退役が確定した。

gigazine.net

 ところで──先月16日に芥川賞を受賞した、上田岳弘『ニムロッド』を、さいきん読んだ。つとに天才の呼び声のたかかった作家の作品も、着想や構成は上手だとわかっていても、どうも地の文章やなにかが退屈で、これまで読了したことすらなかった。だが、今作はちがった。いろいろのディテールがきちんと有機的に結びついて物語となっており、おもしろくて、ひと息に読んだ。
 作中、人類の営みを暗示するひとつの「パーツ」として、「駄目な飛行機」を紹介するウェブの記事がでてくる。

matome.naver.jp

 コンコルドの場合、空の安全にとっての教訓や人柱を生じたという意味で、この作品内にいうところの駄目な飛行機となってしまった観もある。あの事故調査の結果、不備も見つかり、さまざまな改良や安全対策が施されたが、としても、それはどんな機種の航空機でもあることで、それのみをもって欠陥機だと指弾することはできない(商業的な面にかぎっていえば、はっきり数字でダメということになってしまうが)。

 どんな革新的なテクノロジーも「駄目」の烙印を押されうる。だから読者としては、「駄目な飛行機」という概念そのものに異議を唱えたくなるわけだ。これもひとつの、あの作品の読み方であり、著者も意図した含意であろう。

 ちなみに、同作には、「ホーカー・ニムロッド」と「ホーカー・シドレー・ニムロッド」を混同したような記述がみられた。ひょっとすると、意図的なものかもしれないが。とまれ、このような重箱の隅をつつくような点以外には、不満の余地のない作品ではあった。

第160回芥川賞受賞 ニムロッド

第160回芥川賞受賞 ニムロッド