ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

コンコルドは駄目な飛行機だったのか

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photo by johnrp

 「夢の超音速旅客機」とよばれたコンコルドの初飛行から、人類はきょう、50周年をむかえた。

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 1969年3月2日のことで、一説によると、近代の現代への移行がはじまっていたころだ。
 パンナムJALなど、おおくの航空会社から注文を受けていたが、オイル・ショック等の影響でキャンセルが相次ぎ、けっきょくエール・フランスとブリティッシュ・エアウェイズの二社のみによって運用された。1962年にはじまった、英仏両国の共同開発には、すでに巨額の資金が投じられていたために、止めるに止められなかった──という話も有名で、「コンコルド効果」という概念を産んだ。

 われわれ同時代人には記憶に新しい、2000年7月25日の離陸直後の墜落事故で強烈な印象を残したのち、航空需要の落ち込みによる収益の悪化などのため、2003年に全機の退役が確定した。

gigazine.net

 ところで──先月16日に芥川賞を受賞した、上田岳弘『ニムロッド』を、さいきん読んだ。つとに天才の呼び声のたかかった作家の作品も、着想や構成は上手だとわかっていても、どうも地の文章やなにかが退屈で、これまで読了したことすらなかった。だが、今作はちがった。いろいろのディテールがきちんと有機的に結びついて物語となっており、おもしろくて、ひと息に読んだ。
 作中、人類の営みを暗示するひとつの「パーツ」として、「駄目な飛行機」を紹介するウェブの記事がでてくる。

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 コンコルドの場合、空の安全にとっての教訓や人柱を生じたという意味で、この作品内にいうところの駄目な飛行機となってしまった観もある。あの事故調査の結果、不備も見つかり、さまざまな改良や安全対策が施されたが、としても、それはどんな機種の航空機でもあることで、それのみをもって欠陥機だと指弾することはできない(商業的な面にかぎっていえば、はっきり数字でダメということになってしまうが)。

 どんな革新的なテクノロジーも「駄目」の烙印を押されうる。だから読者としては、「駄目な飛行機」という概念そのものに異議を唱えたくなるわけだ。これもひとつの、あの作品の読み方であり、著者も意図した含意であろう。

 ちなみに、同作には、「ホーカー・ニムロッド」と「ホーカー・シドレー・ニムロッド」を混同したような記述がみられた。ひょっとすると、意図的なものかもしれないが。とまれ、このような重箱の隅をつつくような点以外には、不満の余地のない作品ではあった。

第160回芥川賞受賞 ニムロッド

第160回芥川賞受賞 ニムロッド