ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

トロピカル・ロケット【麦酒】

 トロピカルtropicalといえば、「熱帯の」「酷暑の」「回帰線の」「隠喩的な」といった意味であることは間違いない。が、麦酒においては、もっぱら、比喩的に「トロピカル・フルーツ」を意味している。むろんこれは、じっさいにその種の果実をぶち込んでいるわけではなく、北米産や豪州産のホップの一部に、そうしたアロマをつよく有する品種があって、それをもって香りづけが行われる。

 

 スラヴ語で「ラケタ」とか「ラケータ」というと、漠然とロケットrocketを指すが、これは日本語の「ロケット」よりも意味がひろい。
 JAXAがいうところの「ロケット」のほかに、自衛隊でいう「ロケット」ないし旧日本軍でいうところの「噴進弾」を指していることはいうまでもないが、自衛隊でいう「誘導弾」つまり「ミサイル」も指しているのだ。
 ──というよりも、これは、自衛隊防衛省の慣習として、誘導装置つきの弾薬と無誘導の弾薬が峻別されていることによるわけだ。こういう分類魔の傾向は、ヨーロッパ諸語と比較した際の日本語の特徴ともなっている。すなわち、日本人は複雑な生活をしているから、複雑で多様な語彙をつかいわけている──云々(さしあたり参照:金田一春彦『日本語』〈岩波新書〉)。が、日本人が永きにわたって、オッカムの剃刀をもたなかったことの結果に過ぎぬのかもしれない。

 

  話がずれた……

 

 言語学のはなしは、麦酒をのみながらするものではない。IPAって、どっちの意味のIPA?──などということになる。

 

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トロピカル・ロケット発射w

 

 結論からいえば、トロピカル・フルーツの香味をフィーチャーした力強いIPAである。フルボディ。

 

 いってみれば、《トロピカル・ロケット》は《黄金のロケット》の発展型にあたる機種だ。ブースター強化型。

 トロピカル・フルーツの風味をもたせるべく、使用ホップの構成が変更されている。〈Amarillo〉と〈Citra〉はそのまま、〈Columbus〉の代わりに、〈Comet〉と〈El Dorado〉が使用されている。

 〈Comet〉の来歴は現代クラフト・ビールにとって、復古的なホップといっていいかもしれない。野性種にちかいなどという輩もいるが、よくわからない。が、「草の香り」ときくと、セパージュ・ワインならソーヴィニヨン・ブランがまず思いうかぶところで、わるい印象はない。

 もういっぽうの〈El Dorado〉が本命だろう。マンゴー、パイナップルなど、トロピカルフルーツの香味とともに、アプリコットのような核果の類の複雑なアロマが持ち味で、苦味もある。

 とはいえ、アロマだけに終わらない。二種の麦芽により、しっかりしたボディがつくられている。重量級の強力なロケットだ。

 

参)

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