ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

令和前夜のチェコスロヴァキア

 チェコ共和国にいて、地方の飲み屋で令和を迎えることになった。明くる5月1日はメーデーの祝日である。

 平成が最後の数分をむかえるころ──といっても、むろん日本時間ではない。日本ではとっくに令和になっていて、宮内庁職員がおそらく徹夜で準備した儀式がそろそろ始まらんとしているのだろう──とにかく、そのころには、もうだいぶ酔っていた。

  

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Bad Flash Prostě ležák

 そういうていで、こちらの出身を問うているとわかるまで、その男にはなんども訊き返した。
 日本人だよ、というと、男の背後からブロンドの女が顔を出して、エンペラーが交代したんでしょ、おめでとう、といった。「10連休」の話題も知っていた。

 外資系の銀行に勤務しているとかで、男よりもましな英語を喋ったが、母語だというチェコ語で話してもらった。

 男のほうはしかし、情報学の学生でスロヴァキア人。しかも、かなり東のほうの出だった。

 ──すまないけれど、スロヴァキア語はよくわからないんだ、といってやった。チェコ語なら問題ないんだけれども。実際そうなんだから、仕方がない。多少は学習してみたが、元気いっぱいの男子学生が呂律も廻らないのに酒の勢いで早口でまくしたてるのを、酔った頭で一字一句ききとるのは面倒にすぎるのだ。同じ職場にスロヴァキア人がいた場合には、頑張るしかないのだが……。

 ──10年も暮らしているのに、こいつチェコ語を話さないの、と女は愚痴った。

 いかんね。グスターウ・フサークの昔ならいざ知らず、最近じゃ、アンドレイ・バビシュだってチェコ語で話すのに。

   ともに西スラヴ語群などと分類されるチェコ語とスロヴァキア語は、ひじょうに似ているが別個の言語──ということになっている。じっさい、チェコ語者にとっては、まず問題なく会話が成立する言語で、それだからこそチェコスロヴァキアという国も成立していたともおもえる。

 東京でも標準語を話さない関西弁話者もおおいが、それでも日本語母語話者のあいだでは問題なく意思疎通が可能だ。が、東京のひとが真似をしようとしても、にわかには無理である。似非関西弁は必ずばれるものと認識せねばなるまい。チェコ語話者にしても、スロヴァキア語の会話内容が理解できるからといって、しぜんに話せるわけではない。

 19世紀にリュドヴィート・シュトゥールらがスロヴァキア語の文語を確立していなければ、あるいは、いまごろはチェコ語の一方言と認識されていたにちがいない。つまり、東京における関西弁と同様の扱いだった。国はハンガリーの一地方にとどまっていたかもしれない。

   多少チェコ語がわかる日本人がスロヴァキア語を聴くと、「懸命にチェコ語を話そうとしているが滑舌が悪すぎて発音しきれていない子ども」という感じにきこえる。それがまた可愛いと感じることもあるが、スロヴァキア人というのは、一般に直情的といわれていて、それにどういうわけか態度が横柄なやつもおおいから、いつも好ましく思えるわけではないのだ。酔っていればなおさら、平たく言えば──むかつくことがある。

  1993年の「ビロード離婚」でチェコスロヴァキアは解体されたが、チェコ共和国内のスロヴァキア人は以前とほとんどかわらない権利を有しつづけた。たとえば現在では両国政府間の協定によって、各々の職場においてはどちらの言語とも使用する権利が確認されている。かくして、国家としては消滅したにも拘わらず、社会としてのチェコスロヴァキアはいまも存続している。これは、人権やら経済やら外交やらを考慮すれば、当たり前の政策だろう。

 しかし庶民の視点からみれば、当たり前とはいかない。とくにチェコスロヴァキア時代を知らない若者層にとっては……。なかんづく地方の情報学部となると、科目によっては教室の8割9割がスロヴァキア人学生ということもあると聞いた。「もう別の国なんだから、おまえら帰れよ」という声も聞かれるが、ふしぎなことではないのだ。とはいえ、合法的に滞在している人間が「帰れ」といわれれば、いまの御時世「ヘイト・スピーチ」のそしりは免れない。

 それはそうなのだが、「謝ってばかり」ともいわれている日本人からみると、スロヴァキア人にも、すこしはホスト国に恭順の意を示すようなポーズがあってもよいのでは、と思ってしまう。ポーズというのは、生存に直接は関わりそうもない行動で、様式化された不自然な行為である。一種の儀式ないし儀礼であり、つまりは礼儀に通ずる。剣や勾玉をもってこい、って話じゃない。些細なことでいい──たとえば、「チェコ語を話す」とか。

 だから、むかしから一定の程度いたのであろう、知り合いのなかにもいた、チェコ語を話すスロヴァキア人には、敬意がしぜん湧く。そうでない連中のなかには、とうぜん傲岸な輩も多い──という印象になる。

  ちなみに、スロヴァキア語にももちろん方言があって、チェコ共和国の国境に近い地方のひとの会話は、ほとんどチェコ語と区別がつかない。だが、東にゆくと、すっかりスロヴァキア語だ。幼児のチェコ語のような、呂律が廻らないひとのチェコ語のような。

スロヴァキア語文法

スロヴァキア語文法

まずはこれだけスロヴァキア語 (CDブック)

まずはこれだけスロヴァキア語 (CDブック)

スロヴァキア語会話練習帳

スロヴァキア語会話練習帳

 

ブルーブラックのゲル

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 日本では「ゲルペン」などと呼ばれているポールペンがある。英語でいえば「ジェル」だろうが、あえてドイツ語風に「ゲル」とした、最初のメイカーはどこなのだろう。──そのゲルペンが取り上げられた動画をみて、思い出した。

 三菱ユニボール・シグノ(Uni-Ball Signo)を長く愛用している。残りわずかとなった平成の、そのはじめのころからだから、もう30年以上ということになるわけだ。ひゃー。

 書き味もそうだが、色がいい。もっぱらブルーブラックを使用している。いまでこそ、他社の類似した商品にもブルーブラックというラインナップがみられるが、当時はあまりなかったようにおもう。万年筆のインクのような色が気にいったわけだが、実用的にもすぐれている。

 ヨーロッパでは、学校のノートから役所の書類への記入まで、青いボールペンがつかわれることが多いが、場合によってはこれが読みにくい。インクの色に決まりがあるわけでもないらしく、とくにメイカーによっては、極端に明るい発色のインクだったりして、閉口することがある。が、そこでブルーブラックを使うと、青いインクと異なって、光のかげんで読みにくくなることもすくない。もともと万年筆を用いる習慣だったのだろうし、そもそも青色じたい製造者によってばらつきがあるわけだから、ブルーブラックも青として許容される。

 とはいえ、青いインクを用いる習慣には合理的な利点がある。契約書類のタイプされた文字列や、フォームの枠が黒色で印刷されているばあい、こうした印字と手で筆記された文字が色でも区別されるために、視覚的には瞬時に認識できるので、脳の負担が軽いようで、楽なのだ。だから、これを見慣れてしまうと、こんどは日本の役所の黒いインクのボールペンに違和感がでてくる。

 そういうわけで、ブルーブラックという色は、青文字記入文化圏にも黒文字記入文化圏にも対応できるすぐれものでもあって、ひじょうに都合がよかった。

 この30年で、軸のデザインは何度か変更をみたが、基本的にインクにはおそらく変更がなかったことはありがたい(社内のインク・ソムリエが、ひとしれずレシピを変えつづけている可能性は排除できないが……)。

 といっても、このシリーズに不満がないわけではない。ペン先のメカニズムがデリケートすぎるのか、インクが残っているのに書けなくなってしまうことが多い。ボールペンじたい、意外にデリケートなものだから仕方がないが。これは、しかし個体差も激しいようだ。

 その点、ゼブラ社のサラサという商品のほうが故障がすくないようにおもう。が、サラサのブルーブラックのインクは、濃く書ける印象はよいのだが、粘度が低いのか、べたーっと滲むような書き心地があって、苦手である。水性インクのようで、「あれがいい」という向きもあるだろうが……

  

 

*参照:

www.youtube.com

 

 

 

 

 

 

聖金曜日をめぐって

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 大革命で第三身分が躍進した結果、フランスの政教分離は既定路線になった。だから、火災に遭ったノートル=ダムは人類の宝といえども、国が音頭を取る再建に富者が大枚を寄付するのを、だれもがだまって是認するということはあり得まい。ジレ・ジョーヌたちもここにきて、再び勢いづく気配を見せている。

 折しも復活祭である。イースター、オーステルン、パーク、パースクワ、パースハ、ヴェリコノツェ……などと呼ばれるが、本来はゲルマン人の素朴な春のお祝いで、ユダヤの過ぎ越しにあたり、キリスト教にとりこまれてからはキリストの復活を祝うことになっている。「春分がすぎてから直近の満月につづく日曜日」がこの祝日となるため、3月 21日から4月 25日のあいだで、年によって移動する。ことしはかなり遅い年で、4月21日となった。

 この土日の前後、つまり金曜日と月曜日は、ヨーロッパでは、国の祝日となっていることが多いのだが──

 

 問題は、この「聖金曜日」のほうの扱いで、平日としているのか、休日としているのか、各国の対応がわかれている。端的には宗派による差異があるからで、そもそも一大勢力のローマ・カトリックこれを祝日と認めていないことがおおきい。

 オーストリア共和国はかつて、カトリックの守護者たるハプスブルク君主国のお膝元であったので、この金曜日はもともと平日の扱いであった。とはいっても、そこは宗教的寛容の国でもあって、たとえば同じ会社で同じ仕事をするひとでも、プロテスタントの従業員などには休む権利が認められていた。じっさいに休みはしなくとも、休日出勤の特別な手当てを請求する権利を有した。となると、多数派のカトリックを信仰する賃金労働者から不満が噴出するのも、無理からぬことであった。

 それが法律によって正式に「休日ではない」ことが定まり、ことし、2019年の聖金曜日(4月19日)から発効した。公共放送のORFでも、たんたん粛々と報じられた。

 ──プロテスタントメソジスト派復古カトリック教会の人びとにとっても、聖金曜日は休日ではなくなりました。休みたいというばあいは、割り当てられた有給休暇の範囲で申請する必要があります……

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Karfreitagsregelung tritt erstmals ein

orf.at

 

 いっぽう、ハプスブルク君主国の継承国家のうち、現在のチェコ共和国といえば旧共産圏で、名うての無神論者の国だが、聖金曜日は国の休日なのである(2016年から)。

 現代の統計を無視し、後進国にありがちなファンタジー的な歴史解釈に依拠して、ボヘミアを新教の国とみる者もいる。そこは、旧宗主国と逆のことをすることが、ナショナル・アイデンティティに照らして正しい──と主張しているかのようでもあって、興味ぶかい。とはいっても、2015年当時の議会での議論を思いかえすと、表面上は、それほど復古主義的な話というわけでもなかった。けっきょくは「どうでもいいけど休みが増えるなら賛成」というような按配の世論で、共産主義者を除く賛成多数で可決されたのだった。

www.idnes.cz

ct24.ceskatelevize.cz

 

 おなじ旧共産圏でも、ヨハネ・パウロ2世を輩出したカトリックの大国、ポーランドでは、オーストリア同様、平日扱いである。ヴァティカンを抱えるイタリアでもむろん、平日扱い。だが、ルターを産み、プロテスタンティズムの精神で経済大国に躍り出たドイツ連邦共和国では休日──とでも考えれば、記憶しやすい。

 ところが、オランダでは休日だが、ちょっとした所用で国境を越えたベルギーでは平日、という例もあるし、スペインにいたっては、カトリックの印象がつよいにも拘わらず、聖金曜日はむろんのこと、おおくの州で前日の「聖木曜日」までもが休日となっている。

  とまれ、日本などから観光目的で旅する向きなどは知らずに訪ねてしまうと、地域によっては店が軒並み閉まっているなど、ともすれば昼食を喰いっぱぐれたりし、影響も甚大となる。この日にかぎらず、現地のカレンダーには気をつけたい。

 

参)オーストリアのケースについては、こちらの記事がよくまとまっている:

agora-web.jp

 

 

ノートル=ダムの火災

 2019年4月15日、パリの中心「ポワン・ゼロ」の正面にたつ、ノートル=ダム大聖堂で火災が発生した。

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 大勢が詰めかけた現場付近では、燃え盛る炎をみながら泣き崩れるひともあった。

ct24.ceskatelevize.cz


 屋根全体の3分の2が焼失し、およそ90メートルの高さを誇ったという尖塔も崩落した。

 が、そもそもその尖塔が火元ではないか、という見解が有力になっている。一年ほどまえから、600万ユーロを投じた尖塔の修復プロジェクトが進行していたためで、足場からの失火の疑いで調査が行われているという。

www.bbc.com

courrier.jp

www3.nhk.or.jp

 

 地元の人びとにとっての存在の大きさはいわずもがな、近年ではディズニーが作品化したことで、ユゴーの『ノートルダムの鐘』に脚光が集まるなど、世界中の人に近しく思われるようになっていたようだ。各国首脳の声明をみるにつけても、なにか文明世界のシンボルの喪失のようなニュアンスを、この突発的で不幸な事故に見いだし、共有しているかのようにも読めた。

 そんな世界で共有された喪失感とは別に、このショッキングで、悲しいできごとから、むしろ直接の関係がないミシェル・ウエルベックの小説を思い出してしまった。集団的アイデンティティの喪失と、不吉な未来の予感……。

服従 (河出文庫 ウ 6-3)

服従 (河出文庫 ウ 6-3)

 

  

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在りし日のノートル=ダム

natgeo.nikkeibp.co.jp

 

参)

 

 

 

ジューシーな反逆児(7歳)【麦酒】

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Tiny Rebel and DEYA NEIPA

 Tiny Rebelは、2012年、ウェイルズはニューポートに、祖父から醸造の手ほどきを受けたというギャレス・ウィリアムズが、ブラドリー・カミングスとともに立ち上げたマイクロブルワリー。その後の快進撃は、周知のとおり。やはり「HADOUKEN Amplified IPA」の衝撃が、とくに記憶に新しい。「波動拳!」だけに……

  その「ちっちゃな反逆児」が早くも7周年を迎えるにあたって、記念となる製品群をリリースしている。本品は、Deya Breweryとのコラボ。その名も「Tiny Rebel and DEYA」。

 

  • 名称:Tiny Rebel and DEYA NEIPA
  • スタイル:アメリカンスタイル・インディア・ペイル・エイル(ニューイングランドIPA
  • アルコール(ABV):6.8%
  • 醸造者:Tiny Rebel Brewing
  • 生産地:ニューポート、ウェイルズ、UK

 

 自社のサイトでは、"juice bomb"ということばで推している。使用ホップをみるとその意図が推測できる── "HOPS: CITRA CRYO, SIMCOE CRYO & AMARILLO CRYO"

 ──どれもクラフトビールではお馴染みの品種のホップだが、それぞれの「Cryo(クライオウ)」版がもちいられているとわかる。

 これは、Yakima Chief-Hopunion有限責任会社の有する新しい技術を適用した製品のシリーズ。公式サイトによると、ホップの鞠花を液体窒素によって凍らせた状態でルプリン腺を苞葉から分離して、パウダー状にしてしまう。流行りのニューイングランドIPAなどの醸造にはとくに、すくなくない量のホップが必要になるが、おおくのばあいユーザーは渋みを感じてしまう。このDenny Connというひとの説明によれば、同社のCryoシリーズの製品を用いれば、この手の収斂味や草臭さという問題を完全に解決できるうえに、同製品は苦味を供給するアルファ酸も、従来のペレット型の製品に比べると極端に多く含有している、という。

 「ジューシー」といえば──外交に長け、支持率や人気は高いが、語彙だけは貧弱である、わが国のお茶目な内閣総理大臣が、ものを試食するとカメラの前でかならず発する語だが──ほんらいは、こうした革新的なホップ製品が駆使された、まさにこの一杯のためのためにこそ存在することばなのであった。

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参考)

www.j-cast.com

 

令和元年へ。

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 今月いっぱいで、とうとう平成が終わる。いろいろの手続きが進捗している。

kanpou.npb.go.jp

 

 新元号が「令和」に決まった。「りょう」とも「な」とも読みたくなる字面だけれども──「れいわ」。相変わらずおばかなIMEを搭載しているMacが、すぐに覚えてくれるはずもなく、すぐにユーザ辞書に登録してしまった。おなじApple一家でも、末っ子のiPhoneちゃんのほうが、そのあたりの語学に関しては一日の長がありそうだ。勝手に覚えてくれるだろう。

 「令」は初出だが、「和」のほうは約30年ぶり、歴史上20回目の採用ということで、違和感がない。平成よりもむしろ、元号らしいという印象を受ける。また、昭和が半分だけ戻ってきたような感じもある。

 

 初春の令月にして、気淑[よ]く風和らぎ、梅は鏡前の粉を披[ひら]き、蘭は珮後[はいご]の香を薫らす

 

 宴の歌からとったという号には、具体的なヴィジョンが伴っている。みやびである。令月に風は凪ぎ、梅、薫香──とくれば、やはり酒だろう。そもそも宴のくだりに典拠をもとめた、冷たい字面の背後に華やいだ雰囲気を感じさせようとした造語なのか。

 李白ならば、月下に孤独をかこちながら杯を呷っていたところだろうが、大伴旅人は、官舎に仲間を招いてのどんちゃんである。だれもかれも酔っていたのだろう。なにか幻想的なイメージもある。比喩とはいえ、実在しない鏡前の粉だ。そこから澁澤龍彦の耽美的な短篇も思い出す。商家のぼんぼんが梅林に迷い込むと、そこに謎めいた美女がいるのである。梅かおる季節の一夜の夢。すべてはまぼろしにおもえる。

 

 元号というより、読み下せる「文」になってしまっている欠陥がある──という指摘もあるが、ケチをつけだせば切りもない。詩的な曖昧さのいっぽう、やや含蓄に欠けるものの、きれいではある。これを要するに、きわめて「美しい国、日本」的な決定であったといえる。

 

参)

www.nikkei.com

note.mu

finalvent.cocolog-nifty.com

 

参)追加。

 

togetter.com

finalvent.cocolog-nifty.com

 

考案者とされる中西進氏による啓蒙書や入門書: 

万葉の秀歌 (ちくま学芸文庫)

万葉の秀歌 (ちくま学芸文庫)

 
中西進の万葉みらい塾 はじめての『万葉集』

中西進の万葉みらい塾 はじめての『万葉集』

 
中西進の万葉みらい塾

中西進の万葉みらい塾

 

 

  

中欧・鉄道テロ未遂犯の逮捕

 

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ドイツ鉄道が誇る高速列車・ICE(イメージ)

 

 シリアでは、イスラーム国(IS)の拠点がすべて制圧されたと伝わっている。BBCの記者は、これで終わりではない、と数日前、警告した。

www.bbc.com

 

 予言を裏づけるかのような、逮捕劇が中欧で起きている。

 ドイツにおいて鉄道をねらったテロに関わった咎で、ふたりの男がプラハで逮捕されたのだ。
 記事を読んでいるとこれが、映画か、刑事ドラマか、というような経緯だ。

 

 2019年3月27日水曜日、プラハ=ルズィニェのヴァーツラフ・ハヴェル国際空港に降りたった直後、ふたりは地元警察に拘束された。ドイツの高速列車、ICEへのテロ攻撃 に関与した疑い。オーストリア憲法擁護及びテロ対策庁から発給された、ヨーロッパ共通の逮捕状にもとづいた逮捕だった。

 2018年10月7日、ニュルンベルクミュンヒェンの間の線路上に、直径0.8センチの鋼鉄製のワイヤーを張った。ワイヤーが脆弱すぎたために、列車も乗客も影響を受けず、通過した。12月23日には、ベルリーンの線路上に、同様にワイヤーを仕掛けたが、これも失敗に終わった。現場で、ISの旗が描かれた犯行声明文が発見されている──と報じられている。

 じつは、月曜日にウィーンで別の男が、オーストリア共和国・対テロ特殊部隊コブラによって逮捕されていた。男がコピー店で手紙を複写した際、原本をコピー機上に忘れていった。ここから検出された指紋が、ドイツの警察のデータベースにあった現場に残された指紋と一致したことが決め手となった。この42歳のイラク人が、プラハで拘束されたふたりと共謀してテロ攻撃をおこなったとされているが、当人は否認している。

 男は、サッダーム・フセインの後継者と目されていた。バグダード生まれ。訓練を受け、15年ものあいだ軍に奉職。2012年、亡命をもとめてオーストリアに入国する。その後、民間の警備会社に勤務し、家族をもうけた。先日のクライストチャーチでの銃乱射事件の際には、武器をとって復讐するよう、Facebookをつうじて、ムスリムたちに呼びかけていたという。

 

参考)

kurier.at

www.krone.at

www.lidovky.cz

ピンクの都【麦酒】

 

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Jaipur IPA
  •  名称:Jaipur IPA
  • ビアスタイル:アメリカンスタイル・インディア・ペイル・エイル
  • 初期比重:14°
  • アルコール(ABV):5.9%
  • 醸造者:Thornbridge Brewery
  • 生産地:ベイクウェル、ダービシャー、UK

 

 ウェブサイトで高らかに述べられているが、「6次元的ホッピング経験から生み出された」と機械的に訳すも、クオリア次元論など解さぬ場合、「第六感的」と理解してしまってもよいものか──いずれにしても、経験則から、ひじょうに複雑にして適切な風味、香味を醸すことに成功している。使用ホップは、それかあらぬか6品種が挙げられている:Chinook, Centennial, Ahtanum, Simcoe, Columbus, Cascade.

 複合的な香りではあるが、柑橘類の香りがつよい点では、古典的なアメリカンIPAといえる。心地よい苦味の反面、モルトの味わいもあるいっぽう、液色の清澄さはしかしブリリアントの域で、低温白濁が許容されているこのビアスタイルにあって、印象的ではある。

 

 ソーンブリジは、もっとも成功しているクラフト・ブルワリーのひとつであるといわれている。

 じっさい、スコットランドの "BrewDog"、ウェイルズの "Tiny Rebel"と並ぶ、イングランドクラフトビールの雄という観がある。しかし、とくにBrewDogの過激さにくらべると、実直な印象しかない。

 2005年の創設、2009年の施設移転以来、すでに多くの人気銘柄を有するが、とりわけこの《Jaipur》といえば出世作にして、いまだに同社のフラグシップでありつづけている。公式サイトによれば、世界の100以上の賞を受賞している、という。

 主な受賞歴だけでも、以下のようになっている:

2016 – 4 Stars. International Wine and Spirits Competition
2016 – Bronze. International Beer Challenge
2016 – Gold, IPA United Kingdom. World Beer Awards
2015 – 3 Stars. Great Taste Awards
2015 – UK Top 50 Food and Drink. Great Taste Awards
2014 – 3 Stars. Great Taste Awards
2013 – Europe’s Best IPA. World Beer Awards
2013 – Gold, IPA. SIBA
2011 – World’s Best Keg Ale. Brewing Industry Awards

 

 「ジャイプル」とは、現在におけるラージャスターンの州都にして、18世紀のジャイ・スィング2世の遷都以来、ラージプートの歴史的王都である。アーメール城砦、風の宮殿、ジャンダル・マンタル(日照計測施設)など、かつての藩王国に由来する観光資源も豊富で、壁面のピンク色が支配的な景観が特徴的なことから、"Pink City" の異名もある。──この色彩は、ラベルのデザインにも採り入れられているのだろう。

 

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 INNOVATION, PASSION, KNOWLEDGE — Thornbridge... モットーがちゃんと脚韻を踏んでもいる。いろいろの美意識が素敵だ。

 

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時計じかけのAmarillo【麦酒】

 

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時計じかけのアマ……

 

 "Amarillo"といえば、Virgil Gamache Farms社の人気ブランドで、風味やアロマの点で"Cascade"を強化したようなホップであるとよくいわれている。

 テキサス州には同名の都市もあり、米語の発音(/ˌæməˈrɪloʊ/)をカタカナで音訳するとしたら「エァーマリロウ」となろう。しかし、綴りをみれば、どうみてもスペイン語で、しかも、やっかいにも “ ll ” ──「ドブレ・エレ」を含んでいる。

 ドブレ・エレ──四半世紀まえにスペイン語の初級講座を学習した際は「南米ではジェイースモが普及しているよ」くらいの講師の説明だったが、時代とともに、そう単純な話でもなくなってきているらしい。アンダルシーアのパエーリャだって、パエージャともいえるし、アヒージョだって、アヒーリョとも、アヒーヨともいうことができる。世界は急激に複雑さを増している。──というのに、よくもまあ、天下のNHKが「世界からヴが消える」などと単純バカなことが書けるもんだ……。関係ないけど。

 というわけで、当該ホップの名前。リェイースモlleísmoの発音にしたがえば「アマリーリョ」となろう。ジェイースモないしイェイースモyeísmoと呼ばれる発音を採れば「アマリージョ」か「アマリーヨ」と表記できよう。ほんとうは……?

 

参)スペイン語圏における多様な"Amarillo"の発音:

forvo.com

 

 

 "Clockwork" シリーズは、流行りのニューイングランドIPAのシリーズで、それぞれ主役となるホップが決まっている。シリーズ第二作となるらしいのが本品で、"Clockwork Amarillo"。ご案内のとおり、オレンジや蜜柑を連想させるアロマが特徴的ではあるが、ほかのビタリング用のホップを用いなくともじゅうぶんな苦味をだしている。旨い。

 ──ああ、そうか。だから「時計じかけの……」なのか。手品のごとく、ホップだけで幻の柑橘をでっち上げ、爽やかな苦みとの絶妙なバランスを成してしまう。時計じかけのオレンジのように奇妙だ。

 

https://www.pivovarclock.cz/images/FB_preview.png

 

 

 

 

 

「ヴ」は世界から消えない

 政治部の記者がNHKの名の下に、こういう挑発的な見出しで記事を書くのはやめてほしい。──「はてなブログ」とかで書いたらいいのに。

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NHK、小泉知世氏のミスリーディングな記事。

 日本語の表記は、外務省が決めているわけではない。

 国名であっても同様である。そんな権利も権限も法的根拠もない。だれもしたがう義務などない。報道機関であっても。むろん記事に、そんなことが書いてあるわけではない。記事の内容は、外務省が業務で用いる語についてのたわい無い話題だ。だが、なにかが過大評価されて、それが日本語にないはずの「正書法」を規定するかのような見出しになってはいまいか。

 たとえば、英語でGreeceと呼ばれている国がある。現地語では、Ελλάδαである。ドイツ語ならGriechenland、ロシア語ならГреция、チェコ語ならŘeckoである。日本語では、グリースともエラーダともグリーヒェンラントともグリアツィヤともジェツコとも呼ばれず、もっぱら、ギリシャと呼ばれる。これを言語学では「ギリシャ」と表記し、歴史学では「ギリシア」と書く。かつては「希臘」とも。そこに外務省はまったく関係しない。

  1991年の国語審議会の答申は、外来語に関するものであったが、固有名詞たる地名も対象に含まれている。そこでは、外国起源の語を日本語で表記する種々の試みについて、「否定しようとするものではない」とくりかえし述べるなど、しごく慎重な態度がみられる。だが、NHKの記事にはそのような態度がみられない。文化の画一化、グライヒシャルトゥングこそが正義とでもいわんばかりで、外務省が決めたから世界はこうなります、ぼくたちわたしたちも明日からそうしましょう、はい、レキシをふりかえりましょう、そもそも「ヴ」という表記は福澤諭吉のおもいつきで、いまではすっかり廃れたのです、ほらほら、スマートフォンフリック入力の時代に「ヴ」は可笑しいでしょう、皆さまのNHKはそのように認定します──というような印象を与えかねない。

 くわえて、当該記事では、英語による国名と、もともと「v」を「ヴ」と表記するのが必然でもないスペイン語等による国名とが同列に論じられてもいる。

www.nhk.or.jp
www3.nhk.or.jp