ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

「ヴ」は世界から消えない

 政治部の記者がNHKの名の下に、こういう挑発的な見出しで記事を書くのはやめてほしい。──「はてなブログ」とかで書いたらいいのに。

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NHK、小泉知世氏のミスリーディングな記事。

 日本語の表記は、外務省が決めているわけではない。

 国名であっても同様である。そんな権利も権限も法的根拠もない。だれもしたがう義務などない。報道機関であっても。むろん記事に、そんなことが書いてあるわけではない。記事の内容は、外務省が業務で用いる語についてのたわい無い話題だ。だが、なにかが過大評価されて、それが日本語にないはずの「正書法」を規定するかのような見出しになってはいまいか。

 たとえば、英語でGreeceと呼ばれている国がある。現地語では、Ελλάδαである。ドイツ語ならGriechenland、ロシア語ならГреция、チェコ語ならŘeckoである。日本語では、グリースともエラーダともグリーヒェンラントともグリアツィヤともジェツコとも呼ばれず、もっぱら、ギリシャと呼ばれる。これを言語学では「ギリシャ」と表記し、歴史学では「ギリシア」と書く。かつては「希臘」とも。そこに外務省はまったく関係しない。

  1991年の国語審議会の答申は、外来語に関するものであったが、固有名詞たる地名も対象に含まれている。そこでは、外国起源の語を日本語で表記する種々の試みについて、「否定しようとするものではない」とくりかえし述べるなど、しごく慎重な態度がみられる。だが、NHKの記事にはそのような態度がみられない。文化の画一化、グライヒシャルトゥングこそが正義とでもいわんばかりで、外務省が決めたから世界はこうなります、ぼくたちわたしたちも明日からそうしましょう、はい、レキシをふりかえりましょう、そもそも「ヴ」という表記は福澤諭吉のおもいつきで、いまではすっかり廃れたのです、ほらほら、スマートフォンフリック入力の時代に「ヴ」は可笑しいでしょう、皆さまのNHKはそのように認定します──というような印象を与えかねない。

 くわえて、当該記事では、英語による国名と、もともと「v」を「ヴ」と表記するのが必然でもないスペイン語等による国名とが同列に論じられてもいる。

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