大革命で第三身分が躍進した結果、フランスの政教分離は既定路線になった。だから、火災に遭ったノートル=ダムは人類の宝といえども、国が音頭を取る再建に富者が大枚を寄付するのを、だれもがだまって是認するということはあり得まい。ジレ・ジョーヌたちもここにきて、再び勢いづく気配を見せている。
折しも復活祭である。イースター、オーステルン、パーク、パースクワ、パースハ、ヴェリコノツェ……などと呼ばれるが、本来はゲルマン人の素朴な春のお祝いで、ユダヤの過ぎ越しにあたり、キリスト教にとりこまれてからはキリストの復活を祝うことになっている。「春分がすぎてから直近の満月につづく日曜日」がこの祝日となるため、3月 21日から4月 25日のあいだで、年によって移動する。ことしはかなり遅い年で、4月21日となった。
この土日の前後、つまり金曜日と月曜日は、ヨーロッパでは、国の祝日となっていることが多いのだが──
問題は、この「聖金曜日」のほうの扱いで、平日としているのか、休日としているのか、各国の対応がわかれている。端的には宗派による差異があるからで、そもそも一大勢力のローマ・カトリックがこれを祝日と認めていないことがおおきい。
オーストリア共和国はかつて、カトリックの守護者たるハプスブルク君主国のお膝元であったので、この金曜日はもともと平日の扱いであった。とはいっても、そこは宗教的寛容の国でもあって、たとえば同じ会社で同じ仕事をするひとでも、プロテスタントの従業員などには休む権利が認められていた。じっさいに休みはしなくとも、休日出勤の特別な手当てを請求する権利を有した。となると、多数派のカトリックを信仰する賃金労働者から不満が噴出するのも、無理からぬことであった。
それが法律によって正式に「休日ではない」ことが定まり、ことし、2019年の聖金曜日(4月19日)から発効した。公共放送のORFでも、たんたん粛々と報じられた。
──プロテスタント、メソジスト派、復古カトリック教会の人びとにとっても、聖金曜日は休日ではなくなりました。休みたいというばあいは、割り当てられた有給休暇の範囲で申請する必要があります……
Karfreitagsregelung tritt erstmals ein
いっぽう、ハプスブルク君主国の継承国家のうち、現在のチェコ共和国といえば旧共産圏で、名うての無神論者の国だが、聖金曜日は国の休日なのである(2016年から)。
現代の統計を無視し、後進国にありがちなファンタジー的な歴史解釈に依拠して、ボヘミアを新教の国とみる者もいる。そこは、旧宗主国と逆のことをすることが、ナショナル・アイデンティティに照らして正しい──と主張しているかのようでもあって、興味ぶかい。とはいっても、2015年当時の議会での議論を思いかえすと、表面上は、それほど復古主義的な話というわけでもなかった。けっきょくは「どうでもいいけど休みが増えるなら賛成」というような按配の世論で、共産主義者を除く賛成多数で可決されたのだった。
おなじ旧共産圏でも、ヨハネ・パウロ2世を輩出したカトリックの大国、ポーランドでは、オーストリア同様、平日扱いである。ヴァティカンを抱えるイタリアでもむろん、平日扱い。だが、ルターを産み、プロテスタンティズムの精神で経済大国に躍り出たドイツ連邦共和国では休日──とでも考えれば、記憶しやすい。
ところが、オランダでは休日だが、ちょっとした所用で国境を越えたベルギーでは平日、という例もあるし、スペインにいたっては、カトリックの印象がつよいにも拘わらず、聖金曜日はむろんのこと、おおくの州で前日の「聖木曜日」までもが休日となっている。
とまれ、日本などから観光目的で旅する向きなどは知らずに訪ねてしまうと、地域によっては店が軒並み閉まっているなど、ともすれば昼食を喰いっぱぐれたりし、影響も甚大となる。この日にかぎらず、現地のカレンダーには気をつけたい。
参)オーストリアのケースについては、こちらの記事がよくまとまっている:
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