チェコのクラフトビールの水準も上がったとはいえ、ブリュードッグ、ソーンブリッジ、ミッケラー等々といった、すでに世界的なブランドと化した業者の製品と飲み比べてしまうと、やはりまだ劣っている観もまた否めない。
世界的なトップ・ブランドと同様に、米国産や豪州産をはじめ、各地の名だたるホップを使用してはいたとしても、麦芽由来の甘みとホップ由来の苦みのバランスや微妙な雑味など、そんなところにどうも差異があるような気がするのだ。そう感じる製品が、以前は今よりも多かった。
そんななか、チェコのクラフトビールを見直すきっかけになった、マトゥシュカの〈アポロ・ギャラクシー〉がまた飲みたいものだと思ってはいたが、最近はどういうわけか、よく行く店には入荷することがなかった。昨年から今年にかけて、アポロだったか、ギャラクシーだったかが不作で品薄状態だという噂もきいたから、そのせいかなとも思ってはいた。
だが──どうして願望というのは、忘れた頃に叶うことが多いのか──とうとう入荷があって、ありつくことができた。最後に口にしたのはいつのことだろう。ほんとうに忘れた。もれなく記入できているのかと問われれば心許ないが、テイスティングの記録によると、2018年の4月が最後だったようだ。
──5年前に話はさかのぼる。ビアテイスター資格を取得した年だったがため、忘れもしない2014年9月のことである。横浜で開催された「インターナショナル・ビア・カップ 2014」 において、このマトゥシュカ〈アポロ・ギャラクシー〉が、アメリカンスタイル・ストロングペールエールのBottle/ Can部門で、金賞を受賞した。いまや「世界5大ビール審査会」のひとつを自認するこの大会だが、チェコのクラフトビールが出品されることも当時めずらしく、この年も、すくなくとも上掲リンクの受賞リストには、ほかに記載がない。このことからも、この〈アポロ・ギャラクシー〉は、2014年の時点でではあるが、日本で公けに認知されているかぎりにおいて、チェコ製ペイル・エイルの最高峰といえよう。
あのときは、翌日の恒例「ビアフェス」でとうぜん飲めるものと思っていたのだが、そこにマトゥシュカの姿はなかった。がっかりはしたが、チェコに来たらば、行きつけのピヴニツェで注がれてた。以前とおなじように。なにごともなかったかのように……
マトゥシュカ父子は、バランスというものがわかっている。それを、この〈アポロ・ギャラクシー〉で表現しようとしたのではないか。すでに自社のラインナップにあった〈ズラター・ラケタ〉(以前の記事参照)のフルーティなアロマと、〈カリフォルニア〉のドリンカビリティを併せもった、より低アルコールの製品を企画した──という開発秘話がそれを裏づけている。そこでホップには、定番のシトラにくわえて、主に苦みのために米国のアポロを、さらに柑橘とトロピカル・フルーツの香りを増すために豪州のギャラクシーを採用した。そして、そうした意図はぞんぶんに実現されている。
というわけで、マトゥシュカ社以外のチェコのクラフトビールなんぞ、じつはとるに足らないものだ。飲む価値もない。敢えて言おう、カスであると。──チェコの小規模醸造所は、悔しかったら、マトゥシュカのように横浜・大桟橋ホールの鑑評会に出品して金賞を受賞せよ。
- 名称:Apollo Galaxy
- ビアスタイル:アメリカン・ペイル・エイル
- 麦汁初期比重:13°
- アルコール(ABV):5.5%
- 醸造所:Pivovar Matuška
- 原産地:ブロウミ、チェコ共和国