ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

ドゥコヴァニの原発をめぐって

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 影響は許容できる──モラヴィアのドゥコヴァニ原発で計画されている新たなプラントの建設に関して、8月30日、チェコ共和国環境省は、最終的な環境アセスメントを公開した。直接の建設許可には当たらないが、建設に肯定的な内容であったため、事実上のゴーサインと受け取られ、ただちにオーストリアは抗議することになった。

 ドゥコヴァニ原発は、1978年に建設が開始され、1985年から1987年にかけて、ソ連式の加圧水型原子炉が4基完成した。今日でもチェコ共和国全体の1/5の電力をまかなっているといわれる。2030年代までは使用される方針が示されてはいるものの、一方でこれを置き換えるプラントも計画されている。同国南ボヘミアのテメリーン原発とともに、ČEZ社によって運用されているが、両方ともオーストリアとのあいだに外交的な軋轢を生じさせてきた。

 ドゥコヴァニに関して、問題とは端的にその立地である。チェコ共和国第二の都市にして最高裁判所も置かれるブルノ市までは、わずか35キロほど。国の南を接するオーストリア国境も、最短で同様に35キロほどしか離れていない。

 オーストリアでは、同国内ツヴェンテンドルフに建設された原発にからんで反対運動が起こり、結果として1978年、いわゆる「原子力禁止法」が制定されるに至った。これが1999年、「原子力のないオーストリアのための連邦憲法」として、憲法格を有する連邦法に発展した。世に言う「憲法原発を禁じる国」となったのである。

 いっぽう、チェコをはじめ旧共産圏では長らく、原子力は将来の「夢のエネルギー」と喧伝されたばかりか、共産党政権下では負の側面は一切ふれられなかった。むろん、チェルノブイリの件すら正確には伝えられなかった(例外は、反米宣伝のための「ヒロシマナガサキ」教育くらいか)。巷間では、「フクシマ」を揶揄する戯言が聞かれる一方、国内の原発については、おおかたは安全を疑ったことすらない様子である。──要するに、両国民の原子力に対する考え方はいわば180度、異なっているわけだ。

 アルザスのフェッセンアイム原発をめぐる、フランスとスイスやドイツとの関係が典型である。国境を隔てて、原発を国策として推進する国と、反核・反原発を国是とする国とで、半世紀ちかくにわたる対立や摩擦が各地にあった。フェッセンアイムに関しては、近年やっと、廃炉の方向で収束に向かっている。が、エネルギー政策とはいえ、チェコ政府はあえてそれを、あらたに始めようとしているのだ。

 とまれ、原子力問題、ひいては環境問題とは畢竟、政治の問題である。狭い意味での安全保障や経済学といかように折り合いをつけるのか。日本の再稼働問題にしても、すぐに解答はでそうにない。今後、すくなくとも数十年にわたってつきあっていかねばならない政治学上の難問である。

  

主要参考記事:

www.lidovky.cz

energetika.tzb-info.cz

www.afpbb.com

www.afpbb.com

www.nikkei.com

www.nikkei.com

 

 *ついでに、ドゥコヴァニに関しては、さらなる懸念がある。建設工事やその公共入札に関して、いまだなんらの決定もなされていないにも拘わらず、すでに韓国水力原子力社が受注に向けて動いているという記事である。これまで、同社にからんだネガティヴな報道はたびたび目にしてきたが、今年にはいってからも「安全軽視」の姿勢が批判されている。

www.lidovky.cz

www.tokyo-np.co.jp

www.sankei.com

 

 

反原発の思想史 ──冷戦からフクシマへ (筑摩選書)

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