ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

あいまいな私見の私

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photo by Henning Sørby

 各国でワクチンの接種も始まったというのに、終熄しそうでいてなかなかしないのが、パンデミックパンデミックたる所以というところか。おなじコロナウイルスといっても、SARSは2002年に最初の感染例が報告された翌年に終熄宣言がでたものの、2012年のMARSに至っては、いまだに終熄の目処はついていないそうな。

 たいていの国では、政策の音頭をとっているのが疫学や感染症学の専門家であるからして、社会活動には規制を課す方向に傾きがちである。しかも報道によると日本では、特措法による制限に従わない場合の罰則をもうける方向で議論がすすんでいる。なるほど、私権を制限し放題の体制である国は、封じ込めに「成功」しているとつたわっている。だが、日本でそれをするのは、どうなのだろう。

 先週のことである。新年の日曜日。昼ごろ、メールがはいった──

 先ごろ発足した新政権が、緊急トレーニング令を発出した。13:50より、いつもの場所で。

 そんなかんじの内容だった。

 むろん、冗談めかして書かれた告知である。要は、おっさんが五、六人で集まって、屋外の卓球台に陣取り、なにかをちびりちびり飲りながら汗をながすつもりであるから、かならず来るように……というメールなのだ。じつは初めてではない。秋口くらいから、ほぼ週末の恒例となっていた。それを毎回まいかい、のらりくらりと躱してきた。一度か二度、顔を出したていどだ。

 いや、じつのところ運動はしたい。こちとら昨夏からジムに行っていない。こころなしか、いや確実に、衣類のウエストがきつくなった。それでも、あえて「不要不急の外出」の禁を犯してまで、また職務質問に遭うリスクを冒してまで出かけるのも、しょうじき面倒くさい。どの国でも官憲が巡廻しているが、じっさい卓球をしているときにも警官がやってきて、注意を喚起していったことがあったと聞いた。

 忘年会やクリスマスや大晦日にきた招待やお誘いをうけながら、ていちょうに辞退した向きは多いのではないか。このご時世であるから、なにもわたくしだけ、というわけではあるまい。

 どうも世の常として、ふたつの種類の人間がいる。気にするひとと、気にしないひとの二種である。そのあいだで、コミューニケイション上の齟齬や困難が生じる。たとえば、自分は気にしないけれど、相手が気にしていたらどうするのか。あるいは逆に、自分は細心の注意を払っているのに、相手はまったく意に介さない。──これはもう、何につけてもそうなのだ。

 営業自粛を守れとか、外出を控えよとか、マスクをせよとか、声高にきれいごとをならべるだけならば簡単である。だが、われわれが生きているのは、もっとグレーで、あいまいな世界だ。現実的には、周囲にいるさまざまなひとと、うまく折り合いをつけねばならない。白黒つかない世界で、0か1かと迫られた帰結が、社会全体の分断であったのだとすれば、しごく当然の成り行きであった。それだから、白か黒かはひとまず保留して、その場その場で好手をさぐるしかない。

 こうしたばあい、どういう行動が最適解なのか。相手に合わせるのがよいのだろうけれども、蝙蝠のごとく、まいかい行動を変えつづけることは可能だろうか。そこまで器用にたちまわることも実際にはむずかしい。──けっきょく一律に断ってしまうのがたやすかろう、という結論にいたった。事なかれ主義だといわれたら、その通りである。一事が万事であるからして、いずれの国にせよ、国民全体での危機感の共有なんぞ、はなから無理な難題であった。

 日本語にいわれる「自粛要請」という変な表現にも、すでに慣れっこになってしまった。といっても、同調圧力になれている日本人にとっては、さほど奇妙なことではない。むかし学校では「自主練習に強制参加」させられたものだったし、会社では「自主退職を勧奨」されたりもする社会なのだ。

 ではそれで、上から下まで唯々諾々したがうかといえば、どうも様子がかわってきている。報道によれば、先週末に日本でおこなわれた各種行事も対応がわかれたらしい。成人式もオンラインに切り替えたところもあれば、入れ替え制にして挙行した自治体もあった。高校サッカーの決勝は急遽、無観客試合になったが、大学ラグビーのほうは、1万人以上の観衆がスタジアムをうめた。

 よその国はともかく、日本人の行動様式がかわってきているのだとすれば、私権の制限というのは自然な議論のゆくえなのかもしれない。だが、刑事罰をもともなう法律となるとどうであろう。癩予防法や優生保護法の教訓を無視した、むしろ時代錯誤の立法になりうるのではないか。

 

*参照:

www3.nhk.or.jp

www.newsweekjapan.jp