ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

MacBookの水死。

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photo by Andrian Valeanu

 水没というとさすがに誇張が過ぎるが、水でMacBook Proを壊してしまった。気をつけてはいたのだけれども、アウェイの環境では自分なりの「安全管理」のルーティーンを守りきることができず、やってしまった。

 これが水分を拭き取ってしまうと、しばらくは正常に動作していたものだから、気に留めることなく作業を続行してしまったのも、思えばよくなかった。数時間のち画面の表示が乱れはじめ、あわててシステムをシャットダウンするも、翌日ブートしてみるともう駄目だった。それでもログイン画面まではきちんと表示されているのである。なんと健気なわがMacBookのPro意識であろうか。しかし、キーボードが利かない。パスワードが入力できないので、なんど起動してもそれ以降には進めないのだった。

 もとより無償修理期間は切れてしまっている2017年のモデルだが、いずれにしても液体をこぼしてしまった場合は無償修理の対象外となるはずである。ウェブでユーザー諸氏の体験談を眺めると、修理費用が嵩むことになるのも必至と思われた。

 Appleのサイトに自分のApple IDでログインすると、所有して登録してあるハードウェアの一覧が出るので、問題のあるアイテムを選択する。それからApple Storeのうちでもっとも慣れた店舗を選択して、都合の良い日時でGenius Barを予約した。

  ウルトラ保守的な国の首都らしからぬ、Apple Storeにあふれるコスモポリタンな雰囲気は大好きだ。みな完璧な日本語で如才なく対応してくれる。10年前はまだこうではなかったが、もし南雲中将らがミッドウェイで米空母群をまぐれで壊滅させ、結果的に大東亜共栄圏が維持されていたならば、半世紀も前からずっと日本中の商業施設がこんな感じだったのかもしれない。とまれ、やがて土曜日のごった返したGenius Barの席が空いて、そこへ通される。と、どこの国のルーツをお持ちなのか知れぬが、聖書にも登場するカタカナの名を告げた“ジーニアス”が笑顔とともに慇懃に迎えてくれた。

 ただしジーニアスがどんなに愛想よく礼儀正しくあっても、修理代をまけてくれるわけではない。はたして、Apple側の定める最大枠の修理費が予めカードに請求された。その額、12万円超。税込みで14万なにがし。それだけあれば、最新のMacBook Airが買えるのである。キーボードの交換だけで足りた場合には、5万円強で済むかもしれないと宥めてくれたジーニアスだったが、送る渡世の浪花節で、それはないだろうことも重々承知している猜疑心のつよい消費者である。

  つぎの問題は納期だった。一週間後の飛行機に間に合うかは「微妙なところ」だとジーニアスは言った。

  そこで代替となるノートPCの購入を検討しはじめる。その足で秋葉原へ向かった。最新のOSが載るMacであれば、Time Machineからバックアップしておいたデータを復旧させて、以前と変わらない作業が可能となる。が、修理代が嵩んだ以上、もっとお安い選択肢がないか知りたかったのだ。

 どうやら、この10年ほどでPCの単価は上がっていたらしい。思っていたほど安価な選択肢はなかった。これはもう、あのMacBook Airしかないのか……などと無駄な出費を諦めつつも諦めきれず、中古品の店も覗く。しかし、程度のよい中古品が都合よく棚に並ぶはずもなし。むしろ決断のほうを棚上げ、先送りにしてしまったのだった。

 ところが、代替機についてはけっきょく杞憂に終わった。2日後には早くも、修理が済んだMacBookが届いたからだ。月曜日は祝日だったが、クロネコさんは配達業務を黙々とこなしてくれていた。それ以前に、Appleの中の人々は日曜日に修理をしてくれて、梱包して出荷してくれたのだった。

  同梱された『修理報告書』によると、「液体による損傷」と「認識されない」という症状から、ロジックボードもディスプレイもトップケースも交換された由であった。これを要するに、旧式の機種をあらためて購入したに等しい。──ばかげた失敗にはじまり、費用を考えると修理すら最良の解決であったのかどうかも疑わしいが、それでもいろいろとウラシマ体験をすることができた、2020年の年初であった。

 

*追記:

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