ウラシマ・エフェクト

竜宮城から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。日欧ブログ……?

オリンピックとガラパゴス・ペイ

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 東京五輪まで、残すところ一年を切った。まるで興味がなかったが、各界それぞれの健気な取り組みが報道されるにおよんで、また、予期せぬ雨で東京の下水処理システムの欠陥が明らかになるなどして、注意を引かれることになった(水質悪くスイム中止 「手も見えない」 東京パラテスト大会 | NHKニュース)。

 

 すでに指摘されている大きな懸念は、まず暑さだろう。半世紀前の東京大会すら10月開催だったのに、温暖化が進行したこのご時世で、なぜ7月開幕となったのだろうか。メインの競技場は、設計よりもだいぶ地味になって、予定どおりには完成する見込みだそうだが、観客席に冷房設備などはないという。

 その国立競技場の設計コンペをめぐるゴタゴタも、当初はニュースになった。東京はザハ・ハディド建築を有する都市になり損ねたが、観光にとっては痛いところではある。むろん隈研吾とて、世界中にファンのある建築家にはちがいない。しかし、世界遺産に登録されたル・コルビュズィエすら上野に擁していながら、もったいないことをしたと思わずにはおれない。

 いずれにしても、ふだん来ないひとが観戦目的で押し寄せるという、ひじょうによい機会にはなることは間違いない。
 そういう人々にとっての、東京の不便な点を想像してみると、ごみ箱が見当たらないことをのぞけば、支払い・決済がうまくできぬことが、どうやら挙がりそうである。異国の通貨に慣れねばならぬのは旅人の宿命とはいえ、とりわけヨーロッパ人などは、EUという巨大な統合された市場で、平素、あらゆるサーヴィスを国境を越えて利用している。日本はよっぽど不便な社会だと感ずるにちがいない。むろん、観光業にとってはマイナスであろう。

 

 ──20年ほど前、ドイツでのこと。当時はまだ、海外渡航時には現地通貨のほか、トラヴェラーズ・チェックを準備して行くことが推奨されていた時代であった。片田舎で市電(シュトラーセンバーン)に乗った。乗車券は、あらかじめ購入しておくか、運転手に声をかけて売ってもらうのが基本だったが、車内には自動券売機も設置されていた。しかし、現金は使えない。デビットカード決済専用の券売機であった。銀行の発行するデビットカードがすでに普及していたのである。各行が自行のキャッシュカードにデビット機能を付与していたために、普及が早かったものと思われる。口座を開くと自動的にデビットカードが入手できるのだから。

 それから20年が経った先日、日本。某銀行の支店で訊いてみたが、デビットカードは申し込みに応じて発行しているが、キャッシュカードと一体にはなっていないという。周回遅れというか、トラック何周分の遅れをとっているのか。メガバンクの雄と目されてはいても、とてもメダルには手が届くまい。

 その遅れた原因のひとつには、Suicaの爆発的な普及があるだろう。2001年にSuicaが導入され、PASMO等とともに一気に普及したのだ。日本の都市部では鉄道利用者が多く、JR、その他私鉄に拘わらず、シームレスでスムーズに乗り換えができる利便性の高さで、駅構内や周辺地域での買い物にもつかえたから、これを利用しない手はなかった。これらにはソニーが開発したFeliCaという通信規格(NFC規格のType-Fともいう)が用いられている。たとえば、新宿駅の1日の乗降客数はギネスに載る多さで、ベルリーンの人口に匹敵し、すなわち、ざっと350万人を超える。Suicaではこれを捌く必要があった。こうした日本に特有の事情で、独自の高速規格が必要とされたのだろう。

 いっぽうヨーロッパの銀行系デビットカードもいまやほとんど非接触式となっているが、これはNFCの規格のうちでもFeliCaとは別の規格である。日本の銀行等が発行しているデビットカード(VISA、マスター、JCB、アメックス)と共通のものであろうから、技術的には問題なく利用できるはずだ。もっとも、この規格に対応した決済端末の小売店への普及が、どれだけ日本国内で進んでいるか、はなはだ疑問ではあるが。前述したように、日本の銀行にはあまりやる気が無いようにみえた。

 くわえて、可能性として、モバイル機器による決済時の混乱も心配されている(牧野武文氏の記事)。端的にはApple_PayとGoogle_Payが利用できるスマートフォンについてで、どの通信規格に対応している機種なのか、利用者おのおのが知っておく必要がある。日本市場向けのスマフォにはFelicaのチップが搭載されているため、とある駅の売店で買い物ができるとしても、海外で販売されている携帯端末ではできなかったりする。にも拘わらず、同じApple_PayやGoogle_Payといったサーヴィスのロゴによって、対応表示されていることから混乱を招くだろう、というわけだ。

 しかし、もっとおおきな問題は、小売りの現場、販売員がこうした決済に慣れていないことだろう。──おいそれと慣れることなどできるわけもない。というのも、周回遅れの現状を憂えた政府が、やみくもにキャッシュレス普及の音頭をとったせいか、QRコード決済のサーヴィスが乱立してしまったのである。たしかに、これならスマフォの機種には依存しないが。これもまた、欧米列強・南蛮紅毛に比して日本人は精神力が優れているのであるから、特攻精神を発揮し──などと乗り切らせるのだろう。最低賃金で。

 というわけで、観戦客にとっては競技会場だけがインフラにあらず。乱立した「何とかペイ」の山が、オリンピックに水をさす、インバウンドにとっての見えない陥穽にならねばよいけれども……という一席であった。

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*VISAによる非接触式決済の紹介:

www.visa.co.jp

ソニーによるNFCの解説:

www.sony.co.jp