ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

レバノン、イラク、横浜──令和2年の世界

f:id:urashima-e:20200108194711j:plain

photo by Raimund Andree

 新年早々、メディア産業は繁忙をきわめている。

 カルロス・ゴーン亡命の続報によって、同事件の当事者らによる国際的な広報合戦の火蓋がきっておとされた。ところで、スペイン・セアト社のトップたるルーカ・デ・メーオがその職を辞したニュースなども、この文脈に置かれるべきであろうか。というのも、このミラノ生まれの経営者がルノーの次期経営者に納まるのではないかと推測されているからだ。いうまでもなく、同社と日産との協働の行方が注目されている折りでもある。

 ソレイマニ司令官殺害を受けた、イランによる米国への報復も、ついに報じられた。イラン側が在イラクの米軍基地にミサイル攻撃を加えたという。アイン・アル=アサード基地と「第二のドバイ」ことアルビールが標的であったとの報であるが、犠牲者は報告されていない。国内世論を宥める必要にせまられたイランによる、示威をかねたガス抜き的な攻撃であった可能性もある。市場は順当に反応し、原油価格は上がり、株価や米ドルは下落した。

 関連して、ケニアでも米軍に絡んだ軍事衝突が起きた。露プーチン大統領はシリアやトルコを訪問。この間、トルコはリビアに派兵。いっぽう遠く濠州では昨年来の森林火災が鎮まる気配もない。沖縄の農場で豚コレラの感染が確認され、政界ではIRをめぐる贈収賄疑惑も解明が進む。ことしのゴールデン・グローブ賞が話題にのぼらないことに関しては、だれも責めることはできまい。──とりわけ国際面は、日頃の議題設定機能からすると、絢爛にすぎる紙面となっている。

 日本に目を転ずれば、横浜地方裁判所にて、三年前の津久井やまゆり事件の公判がはじまった。日本の司法が耳目を集めるなか、凄惨で異常な事件の刑事裁判が、異例づくしの様相で行われたのだった。報道によれば、被告の植松聖は殺害などの起訴内容について認め、謝罪の念を表明すらしたものの、その直後、右手の指を噛み切らんとする仕草をみせたために係官に制止され、裁判長が休廷を命じた。午後になって再開された審理は、被告不在のまま進行したという。

 被告の弁護士が述べた冒頭陳述の内容には、わりと納得がいく。「起訴された行為をしたことについて客観的事実は争わない。事件が誠に痛ましい事案であることも否定しない。ただ被告がなぜこうした行為をしたのかについてはふに落ちないので、責任能力について明らかにしていく」。夜陰に乗じて施設に侵入し、抵抗できぬ者を19人も刺殺したというならば、正常な人間の平常時の行為とは思いたくないのが人情であろう。

 しかし、検察官がよくいうせりふには、おかしなものも多い。とくに「遺族の処罰感情が大きいこと」「被告が反省していないこと」などというくだりがもっともひっかかる。当該事件についてはともかく、事実を争うケースについては推定無罪──すなわち、誰しも「有罪とされるまでは無罪」の筈なのだが、日本の検察はご存知ないらしい。そんなのは単なる建て前じゃないか、といわれればそうなのかもしれぬ。けれども、公明正大な手続きというのは総じて建て前そのものにみえるものだ。有罪判決が出る前からマスコミをも巻き込んだ社会的リンチが展開されてしまっては、カルロス・ゴーンでなくとも憤慨して当然である。

 ゴーンの記者会見がまもなく行われるというが、ほとんどの日本の報道機関は招待されていないらしい。ゴーンにとっては、非文明的な司法の共犯者なのだろうから、至当といえる。

 

*参考:

www.sankei.com

www3.nhk.or.jp

www.bbc.comauto.ihned.cz

www.bbc.com