ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

ビールの資格3選──アドバイザー、ソムリエ、テイスター

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photo by Petra Solajova

 ビールに関わる認定資格について、3種類をとりあげてみた。ほかにもあるかもしれないが、独断と偏見にもとづく選択であり、比較であり、評価であることをお断りしておきたい。

 ──その3つとは、ビアアドバイザー、ビアソムリエ、ビアテイスター。

 テイスティングの資格──というイメージがあるかもしれない。たしかに、上記すべてにおいて、テイスティング、すなわち官能評価の理論と技術の習得が求められる。

 だが、資格の取得対象者や目的がそれぞれ異なるため、テイスティングの目的が異なっている。何のためにテイスティングをするのか、誰のためにテイスティングをするのか……。志願者としては、それによって、目指す資格もかわってくることもあろう。

 そもそも、それぞれの主催団体によってビール観ないし世界観が異なっていることにも注意が必要である。主催団体のいう「ビール」とは、いったい何を指しているのか……。 

1.〈ビアアドバイザー〉「もてなし」のためのテイスティング

  • 名称と公式URL:ビアアドバイザー
  • 主催団体:ビア&スピリッツアドバイザー協会(BSA)

 日本国内の飲食店、小売店、流通業界などで販売のエキスパートを目指すならば、まずこの講座および資格が推奨される。「もてなし」というキー概念に沿って、プロのサーヴィス提供者としての姿勢と技術を学ぶことができる。

 したがって、テイスティングの尺度は商品の「品質」と「個性」であり、目的は、もてなしのため、顧客のため、ということになる。すなわち、お客様に劣化した製品をお出ししないため、また、製品特性を見極めて、ふさわしい提供の仕方を考案するための官能評価。

 これについては、唎酒師資格の受講・受験経験があるので、公式サイトの情報から、わりあい想像がつく。主催するビア&スピリッツアドバイザー協会(BSA)は、同じNPO法人FBO(料飲専門家団体連合会)に加盟している団体である。

 筆記試験のうち、1科目はFBO共通のテキストから出題される共通のものである。このテキストの内容は、接客の心構えにはじまり、ワイン、日本酒、焼酎、ウィスキー等のスピリッツ類、リキュール類──さまざまな酒類にくわえ、コーヒーに茶、チーズ、シガーといった嗜好品や発酵食品に関する知識とその保存管理の方法のほか、現場で必要となる、年中行事や二十四節気といった日本文化と日本料理との関係、さらに世界の食文化、マネジメント、セールスプロモーション酒税法……と多岐にわたっていた(現行のテキストでは変更があるかもしれない)。

 このことから類推するに、当該団体のビール観とは「世界の食文化のなかにおける麦酒」、また「商材としての麦酒」という位置づけとなろう。

 ビールについてのみ学びたいという向きには「無駄」と映る部分もあるかもしれないが、そのぶん、ビールという狭い枠にとどまらない幅広い知識や技術が身につく。──年会費を納める必要はあるものの、FBO加盟団体による関連した講座や催しに際して、種々の特典もある。定期的に発送される充実した内容の会報とあわせて、資格取得後も知識をアップデートすることができる。実践的な内容から、業界によっては会社が自社従業員の取得費用を負担してくれることも期待しやすい。

 

2.〈ビアソムリエ〉ドイツを軸にビールを学ぶ

 これに関しては、歴史が浅く、また個人的な接点もないため、以下は公式サイトの情報にもとづく類推である。

 以下〈ジャパン・ビアソムリエ〉といったほうが、わかりやすいかもしれない(ビアソムリエ認定講座(ベーシック))。「日本・世界のビール事情」について学べる旨、「カリキュラム」に記されてはいる。だが、「後援」の欄に「ドイツ大使館、オーストリア大使館」とあり、上級資格におそらく相当する認定講座として、ミュンヒェン醸造学校と提携した〈ディプロム・ビアソムリエ〉が設けられている。

 このことから、この主催者団体にはビールを「ドイツ文化の一部」と規定する強固な世界観があることに疑う余地はない。ならば、そこには曖昧さがないぶん、誤解が生じにくく、好感がもてる。ドイツ圏の在外公館が後援者に名を連ねながら、主にアメリカの文化について学びましょう、などということは、社会通念上おこり得ない。

 〈ジャパン〉のほうの対象者としては、ひろく「生活に、ビジネスに、ビールに興味のある全ての方」となっている。〈ディプロム〉のほうは、前述〈アドバイザー〉と同様の業種にくわえ、「ブルワー」までも射程にいれた「多職種」を想定をしているようだ。いずれにしても、テイスティングの主な目的は、〈ディプロム〉のほうの公式サイトにもあるとおり、お客様のため、ということになる。となれば「ソムリエ」の名にもたがわない。

 〈ジャパン〉のほうのサイトに「資格取得後、年会費や資格維持費用などは一切いただいておりません」とあるのが、ほかの二者と異なっている。そのぶん、気軽に取得することが可能だ。いっぽう〈ディプロム〉ともなると、受講費用だけで「47万円」となるが、それだけにプレミアム感もあり、漠然とあこがれる向きも多い資格ではないか。

 

3.〈ビアテイスター〉クラフトビールを評価する

 上記の二者とは、趣きを異にする資格である。というのは、接客や販売というものは考慮にはいっておらず、純粋にテイスティングのための資格といえるからである。したがって、テイスティングのためのテイスティングを身につけるものといえる。──たとえば「スタウト」と謳うビールが目の前にあって、それがほんとうに「スタウト」にふさわしい特徴を備えているのかどうか、見た目や風味や香りで判断し、各種の点数をつける。

 それというのも、上級資格として、クラフトビールの鑑評会「ビアカップ」審査員の資格たる〈ビアジャッジ〉が存在し、その入門編という位置づけとなっているためである。ここでは、ビアスタイルごとの理想的な完成形がまずイデアとして在って、それに照らしていわば「減点法」的な採点により出来の良し悪しを判定する。もって醸造者を評価し、表彰したりなどするわけだ。 

 この団体のビール観もはっきりしている。クラフトビール文化という英米流のビール観がまずあり、とくに米国の提携団体の想定を翻訳したものがこの団体のビール観の基底にある。いっぽうで、クラフトビールというものに一般の馴染みがなかった時代に「地ビール」という日本独自の視点も普及させており、これは1994年の酒税法改正と相まって、日本市場に異文化を根づかせる過程で歴史的な役割を果たした。

 上述のような理念型を成文化した、いわば「経典」として『ビアスタイル・ガイドライン』を作成し、数年に一度の頻度で改定を行なっている。そこでは、細分化されたビアスタイルの規定がいまや100を越えている。とはいえ、これは「ビアカップ」のためのいわば「ルールブック」にすぎない。醸造者は「ビアカップ」に出品する際にこそ参照せざるを得ないとはいえ、この『ガイドライン』に従って生産を行っているわけではない。すなわち、醸造家のイマジネイションにもとづき、『ガイド』に記載のない、あたらしいスタイルのクラフトビールが、世界の現場では日々うまれ、出荷されているのである。近年では「ニューイングランドIPA」や「Brut IPA」などがその好例であった。

 当該『ガイドライン』のなかでは、世界各地のビールが一律に、数値によってデジタル的に扱われているため、特定の地域のビール文化に思い入れがある向きには、ややもすると受け入れ難いかもしれない。ドイツの歴史的ビール文化に関しろ、ベルギーの修道院の現状にしろ、オーストリアの場末の酒場における日常の飲用シーンにしろ、クラフトビールにとってはひとつの参考情報でしかない。要するに、欧州のビールに関しては、醸造学の知見とアメリカ人の偏見とにもとづいてのみ分類および規定がなされており、各地に土着の文化やライフスタイルといったものはほとんど考慮されていない。

 けだし、その観点から、前出〈ビアソムリエ〉のような資格に存在意義があるのかもしれない。また、欧州各地の酒場で飲み助連から聞かれる「なにがクラフトビールだ、おれたちの『ふつうのビール』がいちばんなんだ」というような苛立ちにみちた主張も、そのあたりに原因がありそうである。そういうものだ、といわれればそれまでだが、クラフトビールのさらなる普及にとって、障害となっているように思えてならない。アメリカ流の牽強付会な「グローバルスタンダード」に、ヨーロッパ人は辟易してもいる。

 とまれ、ビールに関する基本的な知識が得られる講習はコンパクトで、取得費用もリーズナブルである。そのため、「ビール入門」には向く資格といえるかもしれない。特定の業界への就業を目的とせず、たんに「舌の肥えた消費者」を目指すならば、この資格がもっとも手っ取りばやい。──ただし、資格取得による実際的なメリットはほぼない。年会費がかかるうえ、主催団体による関連行事の割引きといった特典にも乏しい。会員証も安っぽい。ビアジャッジを目指すならばいざ知らず、日本のクラフトビール文化を盛り上げてゆくための賛助会員なのだと割り切ったほうがよい。

 

 さて、さいごはたんなる愚痴になってしまった観もあるが、身内のアラはよく目につくものだから、ご容赦いただきたい──三者三様、それぞれに特色のある資格であった。どれにしようか、迷ってしまうかもしれない。

 ──昨今では、ビールについての雑学を認定するような「検定」も盛んである。まずはそれを試してみて、そこで得た知識をもとに方向性を考える、というのもひとつの手だ(例:日本ビール検定)。

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photo by Elevate

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photo by Christian Birkholz

 *参考:

bsa.fbo.or.jp

www.beersom.com

beertaster.org

bsa.fbo.or.jp