陸上自衛隊の61式戦車が、ヨルダンに無償貸与されることになった。といっても、かの地の博物館に鄭重に展示される資料として。日本で野ざらしのままにされてしまう運命とあらば、渡りに船であろう。かつて湾岸戦争やイラク戦争で、米国からの参戦圧力が話題になると、かの地の砂漠を疾駆する90式戦車が夢想されたものだが、中東の地を踏む陸自戦車第1号は、戦後第一世代の戦車ということになった(61式戦車のヨルダン王立戦車博物館への無償貸付及びヨルダンからの装甲車の寄付の受領 | 外務省)。
61式といえば、つい20年前まではまだ現役で活躍しており、各地で見られたのだ。平成の初めのころには、よく駐屯地祭りのような機会に写真に撮っていた。その際のキヤノンEOSも今のようにデジタルではなく、銀塩カメラだった。──思い出される、独特な形状の砲口制退器、570馬力ディーゼル・エンジンの轟音、黒煙のごとき排気……。操縦の難しい戦車であったとも聞く。銀幕上のプロップとして、ゴジラにたいしては幾度となくその90mm砲の砲門を開いたが、じっさいに敵戦車を粉砕することはなかった。
ところで、この戦車を「ろくひとしき」と呼ばないのはふしぎである。いつも「ろくいちしき」であった。近年採用された16式機動戦闘車は「ひとろく」と読むのに、いったいいかなる理由であろうか。それとも正式にはやはり「ろくひと」と読むのだろうか。
行き先のヨルダンは、英語では「ハシェマイト・キングダム・オヴ・ジョーダン」とも称される、ハーシム家の統べる王国である。人口規模でほぼ互角のイスラエルとは、1990年代に平和条約を締結するも、その後首相が暗殺されたイスラエル側が政策を変更し、緊張がたかまったが、これはどこか、昨今の日韓関係にも似ている。条約で平和が確認されているものの、たがいの国民感情にはわだかまりがつよく残っているわけだ。というのも、ヨルダンはパレスティナ系が国民の大半を占めているのに、条約のためにヨルダン川西岸地区の領有権を放棄せねばならなかったためで、またそれだからこそ、パレスティナ支援に積極的だった日本という国のイメージはよいらしい。
現国王のキャラクターもまた強烈で、特殊部隊の司令官を務めたこともあり、2015年には、ISILによるムアーズ・カサースベ中尉殺害にたいする報復爆撃を、自ら操縦桿を執って行なったことも話題になった。というわけで、日本との関係においても、この王らしい交流の仕方で、なんとも微笑ましい(参:【世界最強元首グランプリ】アブドラ国王が濃いキャラすぎる!(追記、お詫びあり) - Togetter)。
しかし、兵器として使用できない状態にされた「博物館資料」ながら、「譲渡」や「寄贈」ではなく、「貸与」となっているのはなぜなのか。航空新聞社の記事では、防衛装備庁の話として、「所有権を日本が有することができるため」とされているが、これではトートロジー、同語反復であり、説明になっていない。防衛装備を移転すること自体は、すでにフィリピンに実施しているから、法令的には可能なはずだが、しかし、ことは不確定要素に満ちた火薬庫の中東だから、とりわけイスラエルの手前、万が一にも「武器供与にあたる」などということで政治利用されてはいけないと、書類上は「貸しているだけ」にしておきたいのだろう。
タミヤ 1/35 ミリタリーミニチュアシリーズ No.163 陸上自衛隊 61式戦車 プラモデル 35163
- 出版社/メーカー: タミヤ(TAMIYA)
- 発売日: 2006/10/04
- メディア: おもちゃ&ホビー
- 購入: 1人 クリック: 23回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
ファインモールド 1/35 陸上自衛隊 61式戦車 プラモデル FM43
- 出版社/メーカー: ファインモールド(FineMolds)
- 発売日: 2014/09/20
- メディア: おもちゃ&ホビー
- この商品を含むブログ (1件) を見る
参考記事)
*身近になるらしい……
*貸与先がサウディ・アラビアだったならば、あるいはこちらだったかもしれない:
UCHG 1/35 地球連邦軍61式戦車5型 セモベンテ隊 (機動戦士ガンダム MS IGLOO)
- 出版社/メーカー: BANDAI SPIRITS(バンダイ スピリッツ)
- 発売日: 2009/01/24
- メディア: おもちゃ&ホビー
- クリック: 35回
- この商品を含むブログ (10件) を見る
追記)