ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

登戸事件

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photo by nick fisher

 先日、役所に用事があって出かけ、夕方のはやい時間に自宅へ歩いていると、飲み友達にでくわした。といっても、のんでいるとき以外に会うこともほぼなく、このところは一緒に飲むこと自体が、めっきり減っていた。

 ──その男の脚に、ちょろっと隠れたのである。ブロンドの少女が──恥ずかしがっているのか、おいおい、もう大きいのに、と父はいう。娘さんかい。可愛いな。いくつかな。あたし5さーい。そんなになるのか、早いなあ。……じゃあ、またな。ああ、また水曜の晩にでも。そうだな、ピヴニツェで会おう。

  小学校の低学年頃までならばとくに、欧州では親が学校の送り迎えをすることが多い。だから、日本の都会で小さな子がひとりで電車通学をする姿は、異様な光景として取り上げられたりしたものだ。だがそれも、過去の話になるかもしれない……

 

 プリウスなどの乗用車が突っ込んでくるならともかく、今般の登戸の刃傷事件のごときはしかし、どのようにしても防ぎようもない。日本でも子どもの送り迎えを──といっても、今回の「登戸事件」では、スクールバスまで見送りに来た父親も犠牲になったという報道であるから、けっきょく処方箋たり得ない。

 2019年5月28日朝7時45分頃、登戸駅からほど近い路上で、19人が襲われ、11歳の女児と39歳の男性が生命を落としたという。気の毒としか言いようがない。50歳台の被疑者も自ら首を刺し、のち死亡したと伝えられている。いまだ動機も不明だが、幸せな人生を歩んでいた人物ではあるはずがない。

 

 ほどなく、訪日中の米トランプ大統領からすら、お悔やみのことばがきかれた。それもそのはずで、事件は世界中の主要メディアで報じられていたのである。といっても、個人で確認したのは、英語、ドイツ語、チェコ語の記事のみにすぎないが。それでも、てのひらのスマートフォンでいろいろと閲覧できたのは、奇怪なほど便利な世の中になったおかげだ。

  たとえば、チェコの公共放送「チェスカー・テレヴィゼ」は、こうした日本の事件は、「BBCによると──」などと報じるのが通例で、要はパクリ記事である。BBCならば、さいきん話題の優秀な特派員が日本に駐在しているからまだ良いソースといえるが、たいていの場合は伝言ゲームのようになってしまって、日本の話題というと、ちぐはぐな伝聞情報と独自の解釈が並んだ、おかしな記事になっていることもおおい。英米流の日本文化の解釈を、さらに自分の文化で解釈するのだから、然もありなん。

 たまたま、同国のべつの放送局「Prima」のニュースをみてみたが、解説委員のような輩がでてきて、なにを言うのかと思えば──どうして刃物なんでしょう。──ええ、日本では武器の所持が厳しく規制されているため、もっともふつうに使用される凶器が刃物なのです。ここ数年でも同種の事件では主要な役割を演じていて──と、まったく的外れな枝葉末節についての珍説を開陳して、それで終わってしまった。地理的にも隔たった小国の水準ゆえ、致し方ない。東京に常駐の特派員を送る予算などないが、おおくの一般市民もまた、日本なんぞという遠い島とは関わることもなく一生を終えるのだ。

 

 そうしたなかで、Kawasakiと聞くと、ふしぎな気分になる。「川崎」とは、「多摩川の河口」を語源とし、市内の住人にとっては海に近い川崎区の方面を漠然と指す語──などということはこのさい措いておこう。むろん、登戸とて行政的には間違いなく川崎市であるし、たんにBBCの表現に倣っただけかもしれない。しかし……子どもの頃、付近に住んでいた者としては、あの辺も物騒になったものだと思う反面、なにか、その「カヴァサキ」が、どこか遠い世界の、未だ見知らぬ地であるかのようにも思えたのだった。

  

参考)

www.bbc.com

www.nikkei.com

www.sankei.com