はじめてベルリーンに旅したのは、もう20年も前になってしまった。ミーハー旅行者だから、とうぜん、名物「ベルリーナー・ヴァイセ」を飲んだ。「ベルリーナー・キンドル」ブランドが、つとに名高い。
大の男がのむもんじゃあないけどな──というのが、その後に出会ったドイツ人たちの、おきまりの言だった。
甘酸っぱくて、低アルコール。ちっちゃな脚つきのグラス──たしかにそうかもしれない。
しかし、ほうぼうに建ったマイクロブルワリーと、そのクラフトビール製品の情報が世界中でシェアされる時代になると、あちらこちらで見かけるようになった。そして、大の男がのんでいるのも、けっこう見かけるようにもなった。
- 名称:Berliner Frucht Weisse - Himbeere
- ビアスタイル:ベルリナー=スタイル・ヴァイセ
- 初期比重:11°
- アルコール:4%
- 醸造所:Berliner Berg Brauerei
- 所在地:ベルリーン、ドイツ
ナポレオン戦争の際、ベルリーナー・ヴァイセを味わったフランスの兵隊が「プロイセンのシャンパーニュ」と呼んだという逸話があるそうだ。先日の「Brut IPA」が「辛口シャンパーニュ」だとするならば、こちらは「甘口シャンパーニュ」といったところ。この名物に、定番のフレイヴァーでもある、ラズベリーの風味がつけてあるヴァリエイションが本品。
液色は、ばら色ないし、濃いピンク色。ルビー色とも言える。「ヴァイセ」というのはむろん、小麦麦芽を使用した上面発酵の酒を指しているとはいえ──白くはない。ビリビリ感は、このスタイルにしては、やや高めか。ボディは弱い。酸味は重厚にして複雑で、微生物のはたらきの神秘を感じる、といえば大げさだろうか。
風味全体の印象はなんといっても、ヒンベーレ。つまりラズベリー。神話によれば、ゼウスの養母が摘み取ろうとした際に指先を傷つけ、その血の色がついた木苺──ということらしいけれども、現代人にとっては、これはポリフェノールを連想させる色だ。いろいろのご利益があるかもしれない。