ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

孔子学院とインド=太平洋のドイツ艦

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photo by heinzbltes

 トランプ政権に中国共産党の「スパイ機関」と指弾された孔子学院について、昨今ではウェブ上に、いろいろの「検証」記事が上がっている。しかしながら、スパイ機関が「スパイしています」などと口を割るわけがない以上、その真相が明らかになることはなかろう。また、バイデン政権の下では、この件がどのような扱いになるのかも不明である。

 そもそも、バイデン政権の対中政策がまだよく見えない。ウェブ上の報道には「対中強行路線」などという見出しがおどるいっぽう、「尖閣が占領されたとしても動かない」などと、真逆ともとれる観測も散見される。真っ向から対立する見解が、「新冷戦」における両陣営の角逐を浮き彫りにしているかのようである。

 1月下旬の報道も象徴的であった。ホワイトハウスの記者会見において、中国にたいする方針が俎上にあがり、サキ報道官が「戦略的忍耐」の言辞で応えたのである。ある放送局がこれを好意的にとらえていたようであったのは、市場への影響を考慮した結果であったと思われる。けれども、NHKなどは反対のニュアンスで伝えた。インタヴューに応じた佐々江賢一郎元駐米大使は、その「戦略的忍耐」という態度によって、けっきょく「北朝鮮の核開発を阻止できな」かったことを指摘し、「いまこの言葉を対中国の文脈で使う意味がよくわからない」と批判した。いずれにせよ、米国が「様子見」の態度であるかぎり、心もとないことはたしかである。

 昨年には香港が「陥落」し、いよいよ台湾有事の予感もささやかれるなか、ウイグル人にたいする弾圧が明るみにも出た。欧州勢もいよいよ傍観していられなくなってきたのであろう。EU脱退が決まるや「脱欧入亜」的な動きをみせる英国はもちろんであろう。が、フランスも昨今、攻撃型原潜を南シナ海に派遣し、それを高らかに発表してみせた。潜水艦のセールスの都合という指摘もあるにはあるが、近年、住民投票で独立が否決されたニュー・カレドニアなど、太平洋の領土や権益を守る態度を示す必要があったことが大きかったにちがいない。ところが、南洋の権益を百年も昔に失っているドイツですら、フリゲートハンブルク」を派遣して、英仏との合同訓練に供すると表明したのだ。

 歴史的にベルリンを蹂躙されているドイツが、とりわけロシア人を警戒するのは道理である。それを牽制するために中国との友誼をむすびたがるのもまた、地政学的には自然なことに思える。そのドイツでさえ、昨年9月に「インド=太平洋政策ガイドライン」を策定し、潜在的な火薬庫と化しつつある東の果てに関与する姿勢を示しているのは、いかなる底意によるものか。日本にとって、プロイセン憲法のむかしから、参照に値する種々の法令や政策を有してきたとはいえ、地政学上なかなか油断ならぬ国である。破局を招いたかつての軍事同盟も、国内外の特殊な諸事情が重なってはじめて成立した例外的な事象であった。そのことは、せんじつ亡くなった半藤一利の著作のなかでも、よく描写されていたものだった。

 とまれ、軍事を背景にした外交における緊張が昂まりつつあるなか、ソフト・パワーだけが用いられぬ理由もない。孔子学院が世界各地に浸透したのは、共産中国の経済的な擡頭と揆を一にしていた。

 中東欧における米中外交筋の綱引きは、なかんづく昨年に、最初の世界的なロックダウンが一巡した初夏の侯、熾烈をきわめた。チェコスロヴァキアをはじめ、この地域の国々とは、第一次大戦後にフランスなど西欧の都合で、ボルシェヴィズムに対する防波堤として設置された「緩衝国家」群であった。その意味では、東西の綱引きの対象になることは宿命づけられている。

 ハンガリーポーランドでは近年、反リベラル・ポピュリストによる政権が成立し、EUと対立することが多くなった。チェコ共和国では、親中・親露の方針を隠そうともしないゼマン大統領と実業界出身のアンドレイ・バビシュ首相によって、目先の実利を指向する対中関係がつづいている。

 そのチェコ共和国で、大学運営に関する法律が改正されたのは1998年のことであったから、ちょうど日本の国立大学が独立行政法人化されたのと同じ時代のことであった。しばらくのち現地で耳にしたのは、隣国ドイツの政党による「綱引き」である。ある大学で、ひとつの学部の図書館がキリスト教民主同盟(CDU)系の財団の補助を受けて改築されたといえば、対するドイツ社会民主党SPD)は向かいにある学部の図書館の整備を助成する、といった具合である。要するに、それが大国としての中国の興隆とともに、財布の主が交代したという話である。

 孔子学院は、中国が既存の大学に設置してくれるというのだから、大学や行政にとってはいわば渡りに船であって、それを断るというのは理屈が通らない。それだからこそ、プラハのカレル大学の学長が、同学院設置のオファーをつっぱねた際には大きな話題になったものだ。ゼマン大統領肝煎りの事業をあえて拒絶したのである。けっきょく学院は2019年、同市内にある私立の財務経営大学に置かれることになったが、この大学では以前、カレル・ハヴリーチェク副首相兼産業貿易大臣が学部長を務めていたこともあり、さまざまな憶測をよんだ。なお同国の孔子学院は、すでに2007年9月、オロモウツのパラツキー大学に開設されており、またオストラヴァの鉱業工科大学にも設置されているとも聞く(2018年3月)。首都プラハはともかく、地方の都市では拒絶するのはむずかしかったことであろう。なにしろ、地元の文教関係者らにとっては利権である。中国様様だ。

 たとえば先般のミャンマーにおけるクーデタにしても、地理的に「援習ルート」にあたっていると説明されれば、仔細は不明ながらも腑に落ちる。同様に、政権内や議会で、感染症対策が訳のわからない理由で紛糾する場合にも「ははあ、このひと中共毒饅頭くったのかな」などと想像すると、なんとなく筋が通ったりする。なんといっても、首相みずからが資本を握るなどしているチェコ国内の大手メディアでは、満足に報じられもしないテーマのひとつである。なにが起きているのか、じつのところ知る由もない。

 すくなくともドイツにしてみれば、徐々に構築しつつあった紐帯が、あるときを境に急激に中国の影響下に組み込まれていった末の現状を、これ以上みすみす指をくわえて眺めているのも癪であろう。ちょうど1年前、プラハにおけるチェコ元老院議長の急死に中共の関与が噂されるに及んで、よもや次はベルリンか、と態度を豹変させたようにも見えた。それでも、政権内にいぜん温度差はあるようにはみえるが。少なくとも、太平洋におけるコミットメントについて、クワッド陣営としてはそれこそ断る理由も見出せないのではないか。 

Hobbyboss 1:72 - Germany Navy(bundesmarine) Westland Lynx M

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  • メディア: おもちゃ&ホビー
 

 

*参照:

business.nikkei.com

vpoint.jp

bunshun.jp