ウラシマ・エフェクト

竜宮城から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。日欧ブログ……?

オリンパスE-P1

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 「オリンパス、カメラ事業を売却へ」の報に接した。たまたま、イタリア語の文法をやさしく解説してくれている本を読んでいて、最初の例文が「ローマは永遠なり」を意味する《Roma è eterna.》だった。だが、永遠につづくものなどないのだ。

 思いかえしてみると、フィルムを用いないカメラには永らく懐疑的だったのだろう。そうして世間様にだいぶ遅れて、ようやく使い始めた所謂「コンデジ」には不満もあったが、しばらくは便利に使っていた。折しも、それに飽きたりなくなったころだった。オリンパスが世界初の「ミラーレス一眼」と銘打って新〈PEN〉シリーズ第一号となる「E-P1」を発売した。つい2009年のことだった。

 フィルムに取って替わったセンサーが捉えた映像を逐次みることができるならば、ファインダーは要らない。フィルムを感光させないために、光の向きをファインダーの方へ変えてやらなくともよいのだから、すでにカメラにミラーは不要になっていた。こういう理屈は成り立っていたが、あたかも「王様は裸だ」と最初に指摘した少年のごとく、一眼レフの小型化を図って商品化してしまったのがオリンパスだった。

 ちょうど必要が生じたこともあり、なんとなく飛びついたものであったが、すぐに気に入ったのはいうまでもない。半年と経たず後継として発売されたE-P2から、現状で最新のE-PL10やPEN-Fに至るまで、機能・性能やデザインは着実に洗練されていったが、なんといっても初代たるE-P1の簡素さが好きだ。とりわけ「ジャキンッ」と機械的にひびく独特のシャッター音には愛着がある。たまらなく硬質な音なのだ。

 おおよその構図と被写界深度とを思い浮かべておいて、シャッター速度と露出をてきとうに決めてジャッキン、ジャッキンと気軽に撮影しておく。基本的にファインダーが無い仕様なのだから、鷹揚に構えて、おおざっぱに撮ることが要求されるのだ。とりわけ晴れた日の屋外などでは、本体裏側の液晶画面が反射光でほとんど役に立たないから、なおのこと勘に頼ってシャッターを切るしかない。すでに消費者は携帯電話でこのスタイルに久しく慣れ親しんではいた。とはいえ、あとでMac の〈iPhoto〉や〈Aperture〉といったアプリで少しだけ調整してやる必要があった。が、これでウェブ媒体は無論のこと、ミニコミ誌向けの広報写真くらいならば、じゅうぶん間に合ってしまっていた。

 それでも比較的最近になって、諸事情からキヤノンEOSに乗り換えた。元写真部という来歴にも拘わらず、このときはじめて自前の「デジタル一眼レフ」を所有したのだ。ところが、センサー等々の性能では卓越していたものの、総合的に評価するとE-P1の使い勝手に軍配が上がる気がした。フラッシュすら内蔵されていない機種だったのに、どうしたわけであろう。なにより撮るのが愉しかった。それに近頃では、どうも一眼レフをもてあましてもいるのだ。

 今のご時世「重い一眼レフを持ち歩く代わりに……」という上の句には「スマフォでいいじゃん」という下の句がつづく。オリンパスの参画していたマイクロフォーサーズという規格も、もとは小型化のために考案されたものだったが、高性能を誇るカメラが搭載されたスマートな携帯電話の普及によって、小型の写真機そのものの存在意義が薄れてきた。まず「コンデジ」市場が衰亡して、いよいよ「ミラーレス」市場も陥落しつつある。オリンパスは新しい市場を創出したのだったが、けっきょく11年しかもたなかった。

 2009年当時つかっていた「iPhone 3G」の画質など大したことはなかったけれども、年々歳々あらたな機種が画質を向上させてゆき、いまや驚くべき水準に達している。しかも撮影専用のカメラ製品に引けを取らぬ完成度の高い画像を得るために、撮影後に調整することを前提としているような仕様になっている。昨2019年発売されたiPhone 11 Pro」に至ってはそのため、じつにみっつのレンズが搭載されて話題になった。ちょうど10年目にあたっているのが象徴的で、オリンパスのカメラ事業に引導を渡した電話器、と記憶されるのかも知れない。とはいえ、ほかのメイカーのミラーレス一眼の商売には、まだ延命策が考えられぬわけではないのだろうが……。

 なんのことはない。要するに、前述したE-P1の使い勝手というのは、昨今のスマートフォンの使い方にもそのまま当てはまる。最新の機種では撮影後におおくの項目で調整が効き、器用な向きは手のひらのうえでレタッチまで終えてしまうというだけのことである。さらに、そのままリアルタイムでSNSに投稿するような瞬時の消費に最適化されている。便利なものだ。E-P1にはあった、撮ることじたいの愉しみはもうそこにはないが。

 とまれ、新PENの10年とは典型的な過渡期であったようにも思えてきた。しかし過渡期の工業製品には、どうしてこうも哀愁がただようのか。まことに忌むべきは「スマフォをもった猿」なれども、iPhoneを手放せずにいるみずからを鑑みるに、もはや諦念しかわかない。この世に永遠のものなどないのだ。

OLYMPUS ミラーレス一眼カメラ PEN E-PL10 14-42mm EZレンズキット ホワイト

OLYMPUS ミラーレス一眼カメラ PEN E-PL10 14-42mm EZレンズキット ホワイト

  • 発売日: 2019/11/22
  • メディア: エレクトロニクス
 
オリンパス PEN-F

オリンパス PEN-F

  • 発売日: 2016/02/10
  • メディア: エレクトロニクス
 

 

*参照:

www3.nhk.or.jp

www.bbc.com

www.nikkei.com

www.nikkei.com

www.nikkei.com

 

*上掲画像はWikimedia.