ウラシマ・エフェクト

竜宮城から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。日欧ブログ……?

チェコ軍の次期装輪式自走砲〈CAESAR〉

https://pbs.twimg.com/media/EZrFbR-XgAEQZdD?format=jpg

 ことし令和2年度の富士総合火力演習は、疫禍の時世から招待客なしでとり行われ、かわりに5月23日、YouTubeでライヴ映像配信が実施された。そこには昨年につづいて、最新鋭〈19式装輪自走155mmりゅう弾砲〉の姿があった。国土の道路網の整備がすすんだ結果、陸上自衛隊では装備を装輪化する傾向がつづいているが、装輪式の自走砲じたいは世界的にも珍品というわけでもない。

 この種の装輪自走砲の嚆矢となったのは、チェコスロヴァキア製〈ShKH vz. 77〉通称“DANA”ではなかったか。1976年に設計され、翌年から同国に配備が開始されたと思しい。「DANA」とは「自動装填式自動車砲」とでも訳そうか、「Dělo automobilní nabíjené automaticky」のアクロニム、すなわち頭字語である。つまり「ダナ」と読めば、女性によくある名になっている。2008年現在の数字で、チェコ共和国軍には164門が配備されているという。2016年の時点で同国軍が装備する100mm以上の火砲は179門であると国防省のサイトにあるから、この〈DANA〉が砲兵火力の主力となっているとみられる。しかし、さすがに四十年選手ともなれば、更新が急務であることもまた明白であった。

 はたして数日前、この砲を更新する計画が発表された。後継として、フランス・ネクスター社の〈CAESAR〉がすでに選定されたという報道である。第13砲兵連隊向けの計52門の契約額は、付加価値税込みで59億5000万コルナ、1門あたりおよそ1億500万コルナ(ざっくり約5億円)になる旨、国防省は発表している。

 この「CAESAR」もまた「Le camion équipé d’un système d’artillerie」すなわち「砲システムを搭載した貨車」の頭字語である。かのユーリウス・カエサルになぞらえた、おそらくアプロニムであるとはいえ、フランス軍ではふつうに自国語で「セザール」と呼称されている。チェコ語では、あるいは文法どおりに「ツァエサル」とでも読まれるのかと思いきや、慣例でドイツ風に「ツェーザル」と呼ばれている。なお日本語のメディアでは、ほぼ例外なく「カエサル」とカタカナで表記されているものの、いかなる根拠で古代ローマの発音が採用されているのかは知らない。

 8種の候補からの選考を経て採用されたと伝えられているが、優先される事項はなんといってもNATO規格の装備であることで、東側の152mmの口径をもつ〈DANA〉が加盟後20年以上も運用されてきた不合理は、更新の動機として大きかったにちがいない。したがって、80の項目が審査されたともいうが、第一に挙がったのはやはり同盟国との共同交戦を可能にする、155mmの砲弾を40km先に撃ち出す性能とのことであった。

 これについて〈CAESAR〉は標準的な弾薬で42km、特殊な弾薬では55kmの射程を有すると説明されている。しかも2009年のアフガニスタンを皮切りに実戦に投入されてきており、いわゆるバトルプルーフを経ている。採用されてもふしぎはまったくない。くわえて、競合製品より50%も安価だったと報道にはあったが、ほんとうだろうか。

 といっても、そこは政府調達であるから、利権の匂いが漂うのも万国共通である。〈CAESAR〉の当初の設計では、砲を積む車体部分にルノーダイムラー製の6輪の車輛が使用されていた。ところが8輪化にともない、あらたにタトラ社のT815が採用され、すでにデンマークへの輸出にも成功している。チェコ共和国が自国産業への還流を最大限考慮したであろうこともまた、しぜんであった。

 このフランス・ネクスターとチェコ・タトラの協働は初めてではない。ちょうど1年ほどまえにチェコ共和国国防省は、MRAPと呼ばれるカテゴリーの装甲車輛を派生型もふくめて62輛購入する契約を結んでいる。これが両者の共同開発による〈ティテュス〉で、チェコ語では「ティトゥス」と呼ばれていた。ネクスターといえば、フランスの兵器廠が統合されて生まれた公社のようなコングロマリットであって、むしろチェコ側の鼻息の荒さが印象にのこっている。今回の自走砲も、最終的な組み立てが自国内で行われるよう、国防省が要求を出している。

 しかし、このコロナ不況のなかで、あたかも兵器ばかりが盛大かつ遅滞なく購入されているような報道には、批判も聞かれる。なにしろ、一連の装備の近代化プロジェクトにおいて、国産小銃の〈BREN 2〉や新型防弾ヴェスト、そのほかアンチ=ステルス性能を有すると噂される電子戦装備〈ヴィェラ=NG〉の導入などで、ざっと60億コルナがすでにかかっており、さらに年末までに700億コルナ以上の装備の刷新が計画されていると、かねてから伝わっていた。

 ちなみに12月末までに控えているものといえば、とりわけ次期歩兵戦闘車の選定が目玉であって、スウェーデンの〈CV-90〉、オーストリア・スペインの〈ASCOD〉、ドイツの〈リンクス〉が候補に挙がっている。しめて、軍の購入計画としては同国史上最高額にのぼると言われている。中道右派の市民民主党からは、国内産業への恩恵を多とし、決して無駄な投資ではないと擁護する声があがる一方、極右のオカムラ氏などは、どうやら自分のかかわる企業に利がまわってこないようで、西側の大企業の儲けになるだけだと、カメラの前で口を尖らせた。

 さてひるがえって、われらが自衛隊の〈19式装輪自走155mmりゅう弾砲〉である。外野の評判は芳しくないようだ。とりわけ、車体に採用されたのがドイツ・MAN製のタクティカル・トラックであったことが驚きをもって受け止められた。陸自が国産装備に拘泥してきた経緯もあって、これまで各種装備に流用されてきた三菱重工製〈重装輪回収車〉がもちいられるのが穏当と思われていたからである。かろうじて砲熕部分は国産とはいえ、各国の装輪式自走砲の代わり映えのしない諸元を比較してみるとなおさら、はなから実績のある〈CAESAR〉を輸入してもよかったのでは、と感ぜられても無理はなかろう。

 

*参照:

www.mocr.army.cz

trafficnews.jp

japan-indepth.jp