ウラシマ・エフェクト

竜宮城から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。日欧ブログ……?

インフォデミックとその境界

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photo by Eleni Trapp

 

 耳をかたむける者がいるからというので説明する連中がいる。彼らを抹殺せよ。残るのはダダのみである。 ──トリスタン・ツァラ

 いわゆるbotなのだろうが、たまたま目にしたダダイストによるつぶやきである。他意はない。ヴァイマル期のダダイズム研究には平井正という碩学があって、かつて夢中で読んだのを思い出した。

 

 広範な自粛要請とはそもそも、感染爆発のピークを遅らせて医療崩壊を防ぐための措置で、そのための緊急事態宣言──という理屈である。特効薬やワクチンの開発および量産体制の確立、あるいは集団免疫状態の獲得という救援が到着するまでの遅滞戦術である。要は、時間稼ぎにすぎないが、殲滅されるのを避けるためには必要な時間稼ぎである。では、どれだけの時をいかように稼げばよいのか、という問いにはしかし、はっきりした答えがなく、それで論争を招く。

 疫学者らは数理モデルにもとづいて「接触8割減」を呼びかけていたいっぽう、政府や自治体による自粛要請の仔細が発表されてみると、かなりの程度まで経済に配慮されたものという印象もあった。これは感染者の桁がちがう米国や欧州各国とは異なるのだという説明もあるが、検査数がそもそも比較にならぬほど低いのであるから、なんともいえない。とまれ「8割おじさん」を名のる北大の西浦博教授は、自説の解説に追われているようだが、これをアゴラなどは過大な数字であると批判している。まるで「感染者数をゼロにするために医療資源を破壊しろ」と言っているようなものだとし、「本末転倒」であると斬って捨てたのだ。

 いずれの方策を採るにせよ、決断する者が必要であって、それは政治家の仕事である。ところが、国民の目にはあたかも船頭の不在、あるいは戦略の欠如と映ったりもする。

 そもそも対策の指揮をとるのが、経済再生担当大臣という国もめずらしいが、そんなことよりも官邸と厚生労働省のぎくしゃくしたところがいっそう不吉である。このあたりの事情を、われらが『日経新聞』が記事にしてくれている。すこし官邸の肩を持ちすぎた嫌いはあるものの、わかりやすい。

 そのなかで気になったのは、官邸に反論する際に医系技官が根拠として挙げるのが、WHOの言であったという暴露だ。いまどき、WHOに不信を抱いているのは、ひとりドナルド・トランプだけではあるまい。事態の収束を待たず「戦犯」の謗りをうけることはおそらく免れない情勢なのだ。

 たほう、特効薬やワクチンの開発や臨床試験のニュースも、さかんに報じられている。

 BCG接種、つまり肺結核予防のためのワクチンは、早い段階から注目されていた。とくに日本株旧ソ連の系統のものが重症化を防ぐ効果があるのではないか、と言われていた。疫学的状況証拠とされたのが色分けされた世界地図で、ヨーロッパの旧東西陣営間で、とりわけ元の東西ドイツ間で感染者数に大きな開きが確認されたのがまた、根拠ともされていたのだった。

 「ファビピラビル」の製剤、アビガンの名も早くから取り沙汰されている。開発元の富士フイルム富山化学も注目されたが、原料となるマロン酸ジエチルを製造する国内唯一のメイカー・デンカ (4046.T) の株価もはねあがった。マスク外交への対抗というわけでもあるまいが、トップ同士の電話会談も駆使した「アビガン外交」が展開されてもいる。

 そのほか、豪モナシュ大は、イベルメクチンがコロナウィルスの抑制に効果があったと発表した。これは寄生虫感染症の治療薬で、HIVデング熱、インフルエンザなどのウイルスに対しても有効とされる。家畜用にも普及していることから、畜産業がさかんな国では原料も含めて相当数のストックがあるものと思われる。さらに、ほかのHIVの治療薬とかマラリアの薬なども、北米を中心にその名が報道にあがっていた。

 しかしながら、こうした報道はまた、当該の薬剤の品薄状態を招き、とりわけBCGなどは、もとの利用者が本来の目的で使用できなくなるという懸念も生んでいる。これとて一種の局所的な医療崩壊といえまいか。人類に希望を抱かせる報道が、結果的に否定的なインフォデミックの一種となってしまうのであれば皮肉である。

 

*参照:

www.nikkei.com

www.jiji.com

headlines.yahoo.co.jp

agora-web.jp
www.nikkei.com

 

www3.nhk.or.jp

www3.nhk.or.jp

www3.nhk.or.jp

www.sankei.com