ウラシマ・エフェクト

竜宮城から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。日欧ブログ……?

欧州におけるコロナとの戦い

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 情勢は刻々と変わりつづけている。ヨーロッパがひと月まえの中国になったのだと、欧州各国政府はパニックに陥った。「西欧の没落」以来、文明の中心から転げ落ちて久しい大陸も、いまやパンデミックの中心地と認定され、世界の耳目を集めている。テクスタイルを扱う工場などではマスクを縫製しはじめ、自動車などの機械産業は人工呼吸器を製造すると表明するなど、総力戦の様相を呈してきた。

 マスクといえば、大衆が着用する習慣のない欧州では珍しい光景が映像にもあらわれるようになった。たとえばプラハなどでは、一般向けに販売されているところすら見たことがなかったが、今ではどうやら市民の外出時には義務化されたらしい。この人たちは、どこにも売っていないものをどうやって調達したのか──とよく見ると、土木や建設といった仕事で使用しているらしい、弁のついた防塵マスクや、お母さんが夜なべをして縫ってくれたと思しきカラフルな布製であったり、あるいはスカーフやバンダナを巻いている人もある。日本で花粉症対策などでも一般的な不織布製のマスクは、政治家か放送関係者を除けばあまりゆき渡っていない現状のようだ。ところが、いっぽうのパリの映像では、マルシェを行く者でマスクをするのは少数である。フランス人については、あのエマニュエル・トッドもどこかで述べていたかも知れないが、唯々諾々とお上に従うのを潔しとしない気風が根強い。お国柄といおうか、おなじ大陸といえども各国の間で、社会の同調圧力にしても差があることを窺い知る。とまれ、ムスリム難民排斥の口実ともなった、顔を隠す行為とて励行せざるを得なくなった旧大陸の人びとであった。

 こうした対応にしても、前夜に政府が記者会見で発表したばかりの対策を翌朝から実施──という慌ただしさだ。武漢市に相当するのがロンバルディア一帯で、とくに3月12日からの急激な感染者数の伸び以降、ヒステリックで極端な施策が矢継ぎ早に報じられるようになった。感染者数でいえば、ざっと中国8万に対し、イタリアではすでに3万5千を超えた。死者の数も、湖北省の3千人に迫っている。しかし、恢復した人の数は湖北省が5万の一方、イタリアではまだ、たったの4千である。

 コロナウィルス感染拡大の防止策として、各国が踏み切っているのが国境管理の強化と外出禁止で、経済への配慮を理由にこれまで渋ってきた国も、とうとう清水の舞台から飛び降りはじめた。ドイツでも16日から国境検問が始まったが、スペインも国境封鎖を実施。EUとて、数日前まで国境封鎖に批判的なコメントをしていたフォン・デア・ライエン自らが、大陸欧州を封鎖する措置を発表する事態となった。フランスではまた、17日正午から外出禁止令が発効した。マクロン仏大統領などはシェンゲン経済圏に引導を渡し、宣戦布告のていで疫病との闘いに注力する旨、高らかに宣言した。

 国境管理の強化、昂じて「封鎖」とした国もあるが、とまれその意図するところは多層的である。人の移動を禁ずることでウィルスを水際で阻止せんとする一方、自国民以外の患者流入による医療リソースの浪費を防ぐ意思もあるだろう。終息に2年はかかる、とも観測される戦いは始まったばかりなのだ。

  もちろんドイツの連邦宰相メルケルは、各国と緊密に連携している旨、国民向けの映像でも強調はしている。しかし──1月末の英国の離脱から時を経ずして、スコットランドの分離もなしに、これだけEUが形骸化することを予期した人もあるまい。けっきょくは各国間で異なるそれぞれの状況に応じて対応するしかないのだろうが、あまりにも足並みが揃わない。ポピュリズム全盛というのも相俟って、どこの政府も自国の医療を救うことに汲々としている。

 しかもこれがまた、なにやらすでに悲壮な雰囲気が漂っているのだ。ロンドン空襲を受けて、チャーチルが下院で行った演説を思い出してしまう。マクロンメルケルだけではない。どの国でも、元首や政府首班が今どきらしく映像メディアを駆使して、直に自国民にたいして協力や結束を呼びかけている。

  今や、この時期には世界中で緑色のビールなどを見るようになったわけだが、本場アイルランドですら、3月17日の聖パトリックの祝日(セイント・パトリックス・デイ)にパーティや集会ができなくなってしまった。最大級の祝祭がお流れの憂き目に遭ったことで、ここでは若い首相リーオ・ヴァラドカーがカメラの前に立った。人びとが互いに離れているようお願いすることで、逆にネイションとしてまとまろう、と呼びかけているわけです──旨の箇所が秀逸であった。

 

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 *上掲画像はWikimediaThe Blitz)