ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

陸自の新拳銃

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photo by Timo Volz

 先だって発表された陸上自衛隊の新拳銃の選定について、ニュースに接しての雑感、あるいは備忘録も兼ねたまとめである。

 第一線で使用される89式小銃も、採用からすでに30年以上が経過したことになるが、「9mm拳銃」ことSIGザウアー・P220ともなると、1982年の制式採用であったからそれ以上で、さすがに旧式化した観は否めなかった。

 令和2年度概算要求に計上している陸上自衛隊の新小銃及び新拳銃については、これまで、それぞれ3品種を参考品として取得した上で性能等を評価してきたところですが、今般、その結果として、「HOWA5.56」(豊和工業製)を新小銃として、「SFP9」(HECKLER&KOCH製)を新拳銃として、それぞれ選定しましたので、お知らせします。

防衛省・自衛隊:新小銃・新拳銃の決定について 

 新小銃については、とくだんの反響はなかった。だいいち、実銃が詳らかされていない。くわえて、豊和工業により意匠登録された際のものという図がリークして、事前にネット上に出まわっていたため、すくなくとも同社による国産開発に内定されているものと受けとめられていたのであろう。いっぽう、少しく驚きをもって受け止められたのが新拳銃のほうで、異例の選定と感じた向きが多かったのだと思われる。製品ラインナップに該当するモデルがなかった玩具メーカー各社としても、慌てたことだろう。

 米軍が近年、M17/M18として採用したSIGザウアー・P320が候補に含まれてすらいなかったことは、意外にも感じた。が、拳銃に関しては米軍と必ずしも同一でなくてもかまわないことは理解できようし、そもそも現用の9mm拳銃とて同一ではなかった。

 候補として挙げられていた拳銃に、採用が決まったSFP9(独ヘックラー&コッホ社製)のほか、APX(伊ピエトロ・ベレッタ社製)とGlock17(墺グロック社製)があったと、事後ではあるが発表された。

 いわゆるポリマー・フレイム仕様という、樹脂が多用された製品で、なおかつ露出した撃鉄をもたないストライカー撃発式の拳銃が念頭におかれていたことがわかる。米軍も含めて、軍隊がこうした拳銃を採用するのも世界的に珍しくもなくなってきたので、これ自体に驚きはない。

 端的にいって、おおかたに意外に感ぜられたのは、Glockが選ばれずに、SFP9が選ばれたことであろう。APXが選ばれなかったことは、軍隊による採用実績がおそらくないことから、意外性はなかった。ところが、Glockといえば、世界じゅうで運用実績があり、すでに第五世代にまでアップデイトされている製品群である。この信頼性を採らなかったことが、少しく衝撃であったわけだ。

 ひるがえって新拳銃として採用が決まったSFP9については、これも軍隊による採用実績がいまだない型式であったことから訝られた。メリットなどは想像するしかないが、その命中精度の高さは注目されているようだ。自衛隊による命中精度へのこだわりは、これまでも指摘されてきたところで、有力な視点とはいえる。とまれ、採用された理由については、今後の続報に俟つしかあるまい。

 そもそも本土決戦を究極の任務とする陸上自衛隊は、装備の国産化に拘泥する傾向がある。そのじつ天下り先の確保というのが真の理由であったとしても、大義名分の前ではある程度までは許容されよう。としても、じっさいには特殊な分野の技術不足や開発費や単価の高騰、ひいては予算の逼迫といった理由で、十全には達成できない現状がある。拳銃もその例外ではなかった。

 実際のところ、拳銃を自国で開発するためには、アメリカ合衆国の民間市場でセールスに成功することが前提条件となろうし、そうなると、かなりハードルが高い。銃刀法によって銃器の所持や発砲が厳重に規制されている日本では、もとより開発の時点でハンディキャップがある。豊和やミネベア・ミツミ社による日頃の苦労は推して知るべし……。

 CQCとかCQBとかいわれる閉所での戦闘の要領が重視されている昨今では、小銃や拳銃もそれに応じた開発がなされており、相応の進化を遂げてきている。ヨーロッパでは、警官や兵士が携行しているのを、じっさいに街なかで目撃する機会も多い。そうして各国の事情を垣間見てしまうと、自衛隊はまだしも、日本の警察のあまりの貧弱な装備には不安を覚える。先般、兵庫県尼崎市で、特定なんとか団体どうしの抗争にAR-15系のカービンが用いられたという報道すらあったのだ。東京五輪を前に、テロ対策に万全を……とかなんとかいっても、警官などは2インチ・バレルに実包が五発きりの回転式拳銃ひとつで対処するつもりだろうか。正気だろうか。そういう不安である。

 ヨーロッパの国ぐにでは、そこを慮ってか、半自動の大型拳銃を量産して、軍隊から警察まで一律に配備しているケースがよくある。調達単価圧縮のためとはいえ、そうやって「市民のだれもが知るあのデザイン」をいわば「正義の意匠」として創造して抑止力を期し、さらに米国でのセールスにも巧みに利用しているようにもみえる。イタリアのベレッタ92F、オーストリアのGlock17などは代表例で、自国の軍や警察に配備されているほか、すでにハリウッド映画ではおなじみのプロップガンとして、開発国の情報とセットで、その姿かたちが世界じゅうの一般大衆にも刷り込まれている観さえある。

 新拳銃に決まったSFP9は、またの型番をVP9ともいう。これは「フォルクスピストーレ」──「国民拳銃」に由来する。といっても日本では、短銃身のリヴォルヴァーにとってかわる存在になることは、当面ないのだろう。

 

*参考:

www.mod.go.jp

bunshun.jp

 

* 追記:

防衛省によるプレスリリース(PDFファイル:2019/12/26)

2 取得方法の検討
 陸上自衛隊において、平成29年度予算により、要求性能(有効射程、命中精度等)を満たす3品種を参考品として取得し、令和元年度にその3品種について評価を実施。
 評価については、まず、第1段階評価として、有効射程や命中精度等の陸上自衛隊として必須とする性能を満たすかを実試験に基づき評価した上で、次に、第2段階評価として、「性能」、「後方支援」及び「経費」に係る比較を採点により実施。


3 検討結果
 第1段階評価においては、3品種全てが必須とする性能を満たしたため、第2段階評価として、3品種について、「性能」、「後方支援」、「経費」に係る採点を実施した。その結果、最も点数が高かった1品種(「SFP9」(HECKLER&KOCH 製))を令和2年度概算要求に計上している陸上自衛隊の新拳銃として選定した。
 なお、当該製品については、量産単価は1式当たり約7万円と3品種の中で最も安価であった。また、導入後に必要となる維持・運用に要する経費を含めたライフサイクルコストは、約27億円(1.4万式取得時)の見積りとなっている。 

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