ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

トーマス・クックの破綻

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 先日、トーマス・クック航空の便が、コックピット内にてコーヒーがこぼれたために緊急着陸した旨のニュースに接したばかり。だが、グループ本体はもっと深刻なトラブルに見舞われていた……

 トーマス・クックの時刻表といえば、かつては欧州旅行のバイブルのごとく見なされていたから、初めての渡航に際しても持参したものである。赤い表紙で、電話帳の薄葉紙とまでいかないまでも、きれいめの藁半紙のような軽量紙のページに情報がびっしり──という、いかにも頼もしい一冊だった。

 ところが、ネットやモバイル機器が発達してしまうと、紙の書籍というのは、荷物をできるだけ減らしたい立場の旅行者にとって、邪魔な存在にもなった。抽象的にいえば、情報化の帰結である。この『時刻表』も2013年であったか、とうとう廃刊になってしまった。

 同様に、旅行代理店という業種も、ITの発達によって参入障壁がずいぶんと下がった。知り合いにもオンライン専業の旅行会社をやっているチェコ人がいる。対面販売をしないぶん、システムへの設備投資に資本を集中できるようだ。それかあらぬか、なかなか羽振りが良さげである。といっても、それもいまでは、ブッキング・コムやトリバゴといった新興にして業界大手の勢力とも、協力ないし妥協してやっていかないといけない時代になっているらしい。とまれ、消費者としては、こうしたウェブ・サーヴィスを利用すれば、旅行に際して誰かに「代理」でやってもらうことなど、ほとんどなくなってしまう。

 となると、昔ながらの旅行会社としては、飛行機でも飛ばすしかなくなるが、それもいまやLCC、格安航空会社が乱立してしのぎを削る状況とあっては、とても濡れ手で粟とはいかない。素人目には、小まわりが利かない大手はむしろ大変そうだ。いまどき中間層だって、LCCくらい利用するご時世だから、古参の旅行会社は限られた上客──小さなパイを取り合うような熾烈な競争に陥っているのではないか。報道記事のなかには、トーマス・クック破綻を受けて、競合のTUI社の株価が6%以上も上昇した、というくだりもある。

 日本では「てるみくらぶ」破綻の一件が記憶に新しいが、今回も利用者は旅先で難渋している。たとえば、ギリシアには約5万人、北欧には約3万5000人、トルコには2万人以上、全体で60万人に上るトーマス・クック利用者が各地に滞在、あるいは立ち往生しているとも報じられている。英国政府は何十機ものチャーター機を確保し、15万人を数えるという自国の利用者の帰国を図る「マッターホルン作戦」を発動したという。戦争か復員か、という規模の人員輸送事業で、さし詰め「平時のダンケルク」だが、英国ならば完遂するだろう──これにはしかし、やらざるを得ない事情もあるのかもしれない。EU離脱をめぐる混乱がどれだけ影響しているかは明らかになってはいないものの、さまざまな利害関係者たちの政府への批判が高まっているからだ。

 ちなみに、報道によると、トーマス・クックの創業は1841年にさかのぼり、ホテル、リゾート施設、航空会社を運営し、クルーズを開催。グループ全体で105機の航空機を保有するが、うち58機はドイツの子会社・コンドル航空の機材。従業員は、世界16か国に約2万1000人を擁し、そのうち約4500人がコンドル航空の所属となっている。

 

*トーマス・クック版時刻表の後継『ヨーロッパ鉄道時刻表』:

ヨーロッパ鉄道時刻表2019年夏ダイヤ号

ヨーロッパ鉄道時刻表2019年夏ダイヤ号

 

hirodas.com

*参考記事 

www.bbc.com

www.bloomberg.co.jp

www.tv-tokyo.co.jp

orf.at

*追記

www.afpbb.com

www.bbc.com