ヴィエトナムで自動二輪車全般が「ホンダ」と呼ばれることは、よく知られている。ほかのメイカーをさしおいて、ホンダの製品がひろく親しまれてきた証左といえる。
チェコ語の口語表現には、"pentelka(ペンテルカ)"という語があって、ぺんてるの製品ないし、日本語でいう「シャープペンシル」のことを指している。学校教育ではふつう万年筆かボールペンが使用されることもあって、あまり普及しているようにも見えないが、それだからこそ、日本の製品が代名詞的な位置を占めるようになる余地もあったのだろう。
ちなみに競合品はといえば、たとえば、ヴェルサティルカ(versatilka)と呼ばれる、 共産チェコスロヴァキアが誇る筆記具がすでにあった。太めの鉛筆の芯の先を尖らせながら使用する「芯ホルダー」といえばわかり易い、素朴な形式のメカニカル・ペンシルで、もともと製図用として作られた。いまだに根づよいファンもいる。だからこそ、受け入れられる文化的な下地、つまり潜在的な市場もあったわけだ。
とはいえ一般的には、ぺんてるといえば、まず「サインペン」ではなかろうか。同社を代表する、いわばアイコン的な商品で、リンドン・ジョンソン米大統領の御眼鏡にかなって、それがきっかけとなって北米市場で大ヒットしたというエピソードもよく知られた話である。報道によれば、ぺんてる社の海外での売り上げは現在、売り上げ全体の約66%にも上っている。
いずれにしても、ぺんてる社が海外でのセールスに尽力してきた結果がいまの知名度やブランド力につながっている。いかにも独善的なコクヨ社のやり方は、そうした会社を尊重しているようにはおもえない。プライドの高いグローバル・プレイヤーからは、強い反発が起こって当然だろう。
ぺんてるの筆頭株主は東証1部に上場している投資会社のマーキュリアインベストメントが運営するファンド(37%を出資)だ。そのマーキュリアは2018年、ぺんてるの創業一族から保有株を譲り受け筆頭株主になった。
このファンドに同業のコクヨが5月10日に101億円を出資、間接的とはいえ事実上、ぺんてるの筆頭株主になった。これが和田社長の言う「一方的な行い」だ。
というのも、ぺんてる側にしてみれば「まったく寝耳に水の話で事前に知らされていなかった。当社が社外取締役も受け入れているマーキュリアから通告があったのは、情報開示のわずか1時間前。コクヨからは午後4時だった」(ぺんてる関係者)という事情があるからだ。
コクヨが突如ぺんてる筆頭株主に、文具業界で勃発した経営権問題 | Close-Up Enterprise | ダイヤモンド・オンライン
帳面などコクヨでなくともかまわないが、筆記具はぺんてるでなければ──という向きも多いとおもう。そこが商品の特性の違いで、両社のビジネスの違いでもあるのだろう。海外では無名のコクヨといえども、連結従業員数でいえばざっと、ぺんてるの倍、直近の連結売上高では8倍ちかい。おなじ文具業界といえども、社風もかなり異なりそうだ。うまい落としどころが見つかればよいが……。文具ファンとしては、祈るばかりである。
参考)
追記: