ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

だめだコリャ。

 チェコ語で「ズムルズレー・ラメノzmrzlé rameno」。ドイツ語では、英語からの借用で「フロウズン・ショールダーFrozen Shoulder」という。つまり、ヨーロッパ諸語ではたいてい「凍った肩」という謂いをするようだが、要は、日本語でいう五十肩、あるいは四十肩である。フィットネス・ジムで肩関節から不吉な音がひびいて、数年の潜伏期間を経てのち、昨年、突として発症したのだった。

 盥廻しにも似て、紹介というかたちで診療所をてんてんとさせられたのち、「理学療法およびリハビリテーション科」というようなところに通うことになった。そこでの話である。

 日本でいう作業療法士にあたるのか、理学療法士というのに相当するのか。指圧のような医療行為を施しながら、男が訊いた。

 「日本って、コレアと仲が悪いんだって?」

  どうやら、はじめて会ったというこの日本人に「コレア」の悪口をいわせたい、らしい。 

 とき折しも、ロシアにおいて、サッカーのワールドカップの開催が迫っていた。海外を飛び廻るような業界にいなくとも、世界のさまざまな国に関心が向かう時勢だったのかもしれない。

 しかし、どのような意図で発せられた質問なのか。

  チェコ共和国というのもおかしなところで、極端な例を挙げれば、プラハ=ルズィニェのヴァーツラフ・ハヴェル国際空港のコンコースに設置されている案内板などは、矢印につづいて英語で案内が書いてあり、さらに余地がある場合はチェコ語、それからキリル文字ハングルによる表記がつづく(ちなみに、パリのCDG空港なら「フランス語、英語、簡体字中文」だ)。「コレア」の投資抜きには存続できなかったような企業もあったわけだから、さもありなん。政治的・経済的「宗主国」へのご機嫌取りには高度に習熟した小国ではある。が、かの国の影響力が急激に伸長したということでもあろう。 

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 むかしは、大韓民国といっても、歴史や地理の文脈に出てきたこと以外は、キムチがうまい──くらいしか知らなかったし、興味もなかった。いまも、さほど興味はない。西日本の住人とは異なり、いわゆる在日のひとを意識することもなかった。人権調査のアルバイトなどに関連して勉強することは多々あったが、活きた知識になるほどでもなかった。大学院の日本語教育学のコースにはしかし、かの国から来た留学生も大勢いた。学習者の母語について知らねばならないからと、言語的な特徴も学んだ。「チューター」枠に応募し、学部や別科の留学生を個別に担当して、宿題や日常生活の相談にのるアルバイトもやった。お茶といわず、いっしょに鍋をつつく機会すらあった。だが、やがて欧州にいるのが長くなると、とくに意識することもなくなった(クールジャパンというのか、日本文化ビジネスに在日や帰化朝鮮人のひとが関わっているのが、そうとう目立つのにはすこし驚きはしたが)。日本と単純に文化を比較してしまうような、学術書と呼ぶにはあまりに乱暴な書物とたびたび出くわしては、辟易しながらも勉強させてもらうつもりで目を通すような機会はたびたびあったが……

 ところが、たまに帰国しては見る東京の景色は、2002年ワールドカップ日韓共催になったのを期に変わっていった。道案内を中心に、やたらハングルが目につくことが増えた。「韓流」──と母親がいうものだから、チョー・ヨンピルなんかが再ブレイクでもしているのか、へーすげえな、くらいに思っていた。じっさいには周知の通り、『冬のソナタ』という映像作品が、ばかみたいに売れていた。

 その後、世界中で接続環境が向上すると、さまざまな悪評を電子的に目にする機会が増えた。最近では、かの国はいろいろとおかしな国であり、国民であるという報告を、ネットで毎日のように目にするまでになった。それをもっぱら扱うブログやサイトもいまや、ごまんとある。

  個人的にも「コレア」に出自をもつ人間に厭な目に遭わされたこともないわけではない。しかし、ぞんざいな一般化は控えねばならない。出自やDNAとは関係なく、連中がたまたま全員サイコパスだっただけかもしれぬではないか。

  こんなの、あの国でなきゃあり得ない──などと、個人的な体験を粗雑に一般化しているひとがよくいるが、そういう人びとは、ほかの国ぐにをどれだけ知っているというのか。とくに、小国や途上国ないし後進国のことを。たとえば、チェコ共和国のような。端的にいって、チェコは、評判に聞く韓国にいろいろ似ていると思う。今回初めて、こんなにいいかげんで信用するに足らない内陸の小国が、いわゆる「ホワイト国」に指定されていることを知ったが、スロヴァキアが指定されていないことも併せて考えると、相当にいりくんだ政治的な背景があったのではないか(ちなみに北朝鮮とも国交がある)。 

 いずれにしても、言論の自由は守られねばならない。が、さりとてヘイト・スピーチまがいのことなど、できればいいたくもなければ、ききたくもないわけだ。

  ──ということを踏まえて、応えることにした。肩を揉まれながら。この間、約5秒……くらいかな。

  あのね、日本人はコレアが嫌いなんじゃなくて、無関心なんだ。半島の人間の気質っていうのがあるんじゃないか。プラハの観光地でも、イタリア人が大声でわめいていて、それを地元のひとがよく愚痴ってるだろ。関わりたくないね。

 ──けっきょく、地理的な環境の話題へと過剰に「一般化」して、お茶を濁したのだった。

   

参考)ノンフィクションながら、ミステリ小説として読んでも面白い、タイムリーな一冊:

北朝鮮 核の資金源―「国連捜査」秘録―

北朝鮮 核の資金源―「国連捜査」秘録―

www.mofa.go.jp

 

*四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)について:

ima.goo.ne.jp

www.nihonyakushido.com

takeda-kenko.jp