夏至は過ぎたとはいえ、日はながい。
アルプス以北のヨーロッパは、じつに北海道の北端より緯度が高く、廃止予定のサマータイムもことしはまだ健在だから、夜9時を過ぎてもなお明るい。──そこで10時まで開いているはずの、フィットネス・ジムに向かったわけだ。
だが、毎度のアレに阻まれた。ガラス戸が閉まっており、その前に貼り紙が出ている。
〔Z technických důvodů zavřeno〕
直訳で「技術的な諸事情……」、意訳すると「よんどころなき諸事情により閉館」とでもなろうか。
翌金曜日は、「スラヴの民への伝道者たるキリルとメトディオスの日」で、土曜日は「ヤン・フス火刑の日」だった。両日とも国の祝日、つまりは連休に突入するタイミングであって、こういう日には、チェコやスロヴァキアの人びとは病気になったり、他のよんどころない用事が発生したりする。商店、飲食店、公共施設は、なんの公式発表もなく、上述の文言がタイプされた紙きれ一枚貼り出して、臨時休業となるのだ。
緯度は高くとも、気候変動時代の夏は暑い。その足で、ピヴニツェ(ビーアシュトゥーベ、すなわち麦酒屋)に向かうしかなかった。
たいていはひとりふたり来ているものだが、やはり顔見知りがいた。
──ちくしょう。あれ、なんだろうな。"z technických důvodů..."ってな。
──はははー。そうだな、なんでもありだよな。
──まあ、連休だし。
──天気もいいしね。