ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

ボヘミアン・ブリュト、プラハの辛口

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OP/ Cobolis Brut IPA

 隣接したり、先行する分野の用語を借用するのは、どのようなセクターでも、よくあることだろう。

 麦酒の業界では、ワインの用語がそれにあたる。ワイン醸造が、もっとも洗練された理論的なバックグラウンドを有している──と思われているからだと想像する。

  "Brut"(ブリュト)といえば、シャンパーニュのエティケットにみられるフランス語の表現で、リキュール添加の少ない製品の分類を意味し、「辛口」などと訳される。これが、比較的あたらしいクラフト・ビールのスタイルの名にも用いられている。 

 "Brut IPA"というスタイルは、2017年11月に生まれた。サン・フランスィスコはSocial Kitchen & Breweryで、Kim Sturdavant氏がはじめて醸造した。

 ニューイングランドIPAに似て、苦味に資するホッピングは控えめで、ホップの使用は、アロマを引き出す目的に傾注されている。さらに、アミログルコシダーゼなる酵素を用いて、アルコール発酵を徹底させることで、残留糖度をゼロにちかづけている。──これはなんのことはない、グルコアミラーゼ の別称で、日本酒にはふつうに用いられているのは周知のとおりだ。

 

  当該の製品は、そのプラハ版である。麦芽はBest Heidelbergで、小麦麦芽と米が副原料として1/4ほど使用されている。ホップは、Nelson Sauvin、Pacific JadeとPacificaが用いられている。酵母はLallemand BRY-97だそうだ。

 明色で、きょくたんにボディが軽い。副原料使用の目的がこれだろう。ホップの苦味もご案内のとおりで、無きにひとしく、ひかえめに柑橘系の香りがする程度の存在感におさえられてある。炭酸はつよめかもしれないが、のみやすいといえば、これ以上にのみやすいIPAがあろうか。──理想の地、シャンパーニュを目指して、それをイデアとして造られたスタイルにちがいない。

 中部ヨーロッパにもシャンペンに類似した発泡ワイン文化があって、ドイツ語で「ゼクト」という。ボヘミアでも「セクト」がおおいにのまれている。

 "Brut IPA" の意味するところが「辛口シャンペン風エイル」となるならば、これはさしずめ、「極辛ボヘミアセクト風エイル」ということになろうか。

 

*参照:

beerandbrewing.com