レーバーケーゼ vs. エクストラヴルスト──という一席。
どのくらいまえだろう。かのニキ・ラウダの名を冠した、ニキ航空の便に乗る機会があった。
なにしろ、ミュンヒェンからウィーンまでという短距離だったし、いわゆる格安航空に乗るのもはじめてだったから、勝手もわからず、機内で軽食がでてくるとはおもっていなかった。
ところが、出た。──レーバーケーゼゼンメル。期待していなかったが故、ばかりではあるまい。素朴でありふれているとはいえ、ちょっとした名物ともいえようサンドウィッチの、なぜかふしぎに旨かったこと。
レーバーケーゼ。さしあたり、肝臓ぶんを強く感ずる、スムーズだが、こくのあるミートローフを想像されたい。それが、カイザーゼンメルに挟んである。南独圏に特有の文様がほどこされた、この白パン。ぱりっとした外皮(Kruste)とふわっとした中身(Krume)が味わえる賞味期限は、焼きたて4時間とも、2時間ともいわれている。地元の短距離の便ならでは、ではないか──
それが、先日、けちょんけちょんにおとしめられた事態をおもいだした。フィクションのなかにおいて、ではあるが。
20年ほどまえにあたる2000年前後、転換期ウィーンの懐かしい風景を拝むことができる刑事もののTVシリーズが『Kommissar Rex』で、のべつまくなし世界のどこかで放映されている。日本でも『REX ~ウィーン警察シェパード犬刑事~』として、放送されていたらしい。これについては、そのうち、稿をあらためて述べたい。
ある日、新入りの刑事が差し入れに、レーバーケーゼゼンメルを買ってきたのだ。レーバーケーゼ。そう、前述した、オストマルクやバイエルンの旨いやつだ。
だが、"REX"シリーズといえば──ヴルストゼンメル。スライスされたエクストラヴルストがゼンメルに挟んである、これもオーストリアのひとびとがこよなく愛するサンドウィッチ。出演者の多くがオーストリアないしウィーン訛りまるだしで("ゼンメル"を"センメル"と発音したりもする)せりふをいいながらほおばるのだ。
おなじみの小道具として、とくにシリーズの初期には、おそらく登場しない回はなかった。ウィーンの刑事警察、その殺人課の職場での、朝の出勤直後から、時間が惜しい昼食どき、徹夜の当直の際、張り込みのお供……。
それだから、主人公リヒャルト・モーザーとその犬、レクスまでもが──レーバーケーゼなんて買ってきやがって、わかっていないなあ、どうしてヴルストじゃないんだ──と小ばかにしたように……。職場の習慣に不案内でもあり、致し方なかろうに。それなのに、こういうときはヴルストゼンメルが常識だろう、というような勢いで、連中はなじった……ように記憶している。──あれか。日本の昔の警察ドラマのあんパンのような扱いなのか。あるいはカツ丼なのか。
というわけで、ひさしぶりにヴルストゼンメルをたべてみた次第。
こんなにうまかったっけ。なめらかなテクスチャーにして、ちゃんと赤身の肉を感じるし、それでいて臭みがなく、脂っこくもない。うむ。これだ。エクストラヴルストじゃないとね。