ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

『アルゴ』──威信の失墜

photo by Mohammad Shahhosseini 大山鳴動して、邦人たった1名を救出……みたいに貶した野党議員もあったけれども、のちアフガン市民の移送にも自衛隊は成功していたことが伝えられた。カーブル脱出作戦である。 しかし、7月はじめの米軍のバグラム空軍基地撤…

マルヒフェルトの戦い

8月26日は、1278年にマルヒフェルトの戦いがあった日づけである。 マルヒフェルトとは「マルヒ川(モラヴァ川)のほとりに広がる草原」を意味する地名であって、ウィーンの郊外に位置している。これでは漠とした印象も否めないためか、「デュルンクルート=イ…

サイゴン陥落?

photo by Mohammad Rahmani 小林源文の劇画作品がAmazonにて、月末までのバーゲン価格になっている。Kindle版のみ一冊55円からあって、数十年来の名作がまた手軽に読めるのがうれしい。むかし夢中になって読んだ作品群も、その後まとめて知人に譲ってしまっ…

リオで見た夢が東京で醒めるまで

photo by Davi Costa 『いつか深い穴に落ちるまで』は、2018年の文藝賞を受賞した中篇小説である。著者の山野辺太郎は、リオ五輪の閉会式に着想を得て起筆したのではあるまいか。日本からブラジルにむけて、地球をつらぬく穴を穿つ事業にかかわることになっ…

胡瓜の季節

photo by Pavel Timanov ひとたび夏の天候が大暴れすると、甚大な被害をもたらすことがある。 チェコ共和国では6月24日、南モラヴィア県の南部に竜巻が発生した。同日の夜から全土で荒天に見舞われており、まいとし降雹の被害がでる季節ではあるものの、竜巻…

夏の車内放置事故

photo by Raban Haajik 暑い。暑すぎる。気がつけばもう、夏至をすぎている。夏も折り返していたのだ。 この時節によく報じられるいたたましい事故に、「車内放置死」というのがある。単に遺棄致死とか、置き去り、置き忘れ事故……などとも呼ばれる。 せんじ…

苗字の「男女差解消」がチェコ語を滅ぼす?

photo by Denis Vdovin 1) 身分証明書の仕様変更 2) チェコ語における女性の苗字 3) チェコ語学からの反発 4) 文法上の問題──例文による愚察 5) 女性は苗字を変えるか 6) 氏名は誰のものか 1) 身分証明書の仕様変更 チェコ共和国ではこのほど、身分証明カー…

ミッドウェイを抱きしめて

もうすぐ記念日だからというわけではないけれど、ようやく最近になって、ローランド・エメリヒの映画『ミッドウェイ』(2019)を観た。監督がシュトゥットガルトの出身だからか、ドイツ語圏のメディアにも一時期、さかんにインタヴューがでていたが、もうだ…

新欧州のポピュリスト枢軸?

photo by Drazen Bajer ブダペシュト=ワルシャワ枢軸? 除かれたチェコ共和国 オルバーン政権と対中協力 ポーランドの法と正義 チェコ共和国の懸念 希望の緑? ブダペシュト=ワルシャワ枢軸? チェコスロヴァキアは欧州中心部に巣食う癌であり、外科的に除か…

「緑の党」と欧州の東西

photo by Alexander Dietzel e. K. 緑の盛衰 反核と緑 東西の緑 「緑の党」ということば 緑の盛衰 5月6日に行われたスコットランド議会選挙では、独立を唱導するスコットランド民族党(SNP)が64議席を獲得したものの、過半数に1議席だけとどかなかった。そ…

ベーアボックの「気候保護」

ドイツ連邦共和国で、緑の党のアナレーナ・ベーアボック共同代表が次期連邦宰相候補に選出されたことは、この4月、おおいに報じられた。アンゲラ・メルケル宰相の後継として、行政の長のポストに就く可能性も取り沙汰されている。といっても、すでに正月に、…

アンドレイ・バビシュの壺皿(3)

photo by Miloslav Hamřík 利益相反 アグロフェルト社 メディアの帝国 利益相反 承前。アンドレイ・バビシュ・チェコ共和国首相が批難されているもうひとつの廉は、利益相反である。この件は、長年にわたってEUから追及を受けている。それが、この4月下旬と…

アンドレイ・バビシュの壺皿(2)

photo by Lubos Houska 不可解なタイミング アンドレイ・バビシュとは StBの協力者 不可解なタイミング 5月3日の月曜日に『ポリティコ』に掲載された記事は、スロヴァキアの議員で元NATO大使のトマーシュ・ヴァラーシェクによるもので、チェコ共和国の外交的…

アンドレイ・バビシュの壺皿(1)

photo by husnerova チェコ共和国政府が4月17日、ロシアの外交官18名に退去を命じた。それは2014年に国内で起きた弾薬庫爆発に、ロシアの機関が関与したことを理由にしていた。どうして今になって6年半ほど前の事件の真相が判明したのか、という素朴な疑問に…

ヴルビェチツェ爆破工作

photo by Umut İzgi チェコ共和国政府は、ロシアの外交官18人を国外に追放すると発表した。2014年に国内で起きた弾薬庫の爆破事件への、ロシア連邦軍参謀本部情報総局・GRUの関与が明らかになったためとしている。これを受けて反発したロシア側も、チェコの…

13時間

photo by Ahmed Almakhzanji アメリカ合衆国に関しては、ショッキングなニュースに触れたのち、何年も経ってから映画で事件の真相を垣間見ることはよくある。 ソマリアの一件がそうだった。たしかに特殊部隊・デルタの隊員の死骸がなぶられる映像は衝撃的だ…

デインジャー・クロウス──豪州の戦争映画

たまに戦争映画が観たくなる。 それも、戦争を背景としたコメディや恋愛ドラマではなくて、ちゃんとしたハードコアのドンパチがあるもの。いや、ドンパチだけのものがいい。 あらすじはお定まりで、戦場の平和な日常にいた部隊がある日とつぜん窮地に陥って…

ピストルとは何ぞや

先日、米コロラド州のスーパーで起きた発砲事件で、容疑者が使用したのがAR-556「ピストル」だとCNNで伝えられた。──コンパクトながら、どう見ても現代的なアソールト・ライフル(突撃銃)なのだが。誤記なのかとも思ったけれど、『ニューヨーク・タイムズ』…

チェコスロヴァキアの将星

〈Hoi4〉というゲーム セルゲイ・ヴォイツェホフスキー(1883-1951) リハルト・テサジーク(1915-1967) ヨゼフ・シュネイダーレク(1875-1945) ヴォイティェフ・ルジャ(1891-1944) 疫禍の春も3月にはいって早々、100万人あたりの死者数がベルギーを追い…

チェコ共和国と比例代表選挙

イタリアではひとあし早く「スーパーマリオ」政権が成立したけれど、今年はおおくの国で選挙を控えており、いっせいに国政の顔ぶれが様変わりすることもありうる。 ひと月ほどまえ、チェコ共和国の憲法裁判所が、平等な投票権と立候補の機会に反するとして、…

チェスカー・ズブロヨフカによるコルト買収

photo by Mike Gunner チェコ共和国の銃器メーカーである、チェスカー・ズブロヨフカ・グループ・SE(CZG)が、同業の老舗、米・コルト社(コルト・ホールディング・カンパニー・LLC)とそのカナダの子会社の全株式を取得すると報じられた。2億2000万ドル(…

プシェロフの虐殺

リモート劇『目撃者』 プシェロフの虐殺 その後 リモート劇『目撃者』 通話ソフトというのか、ウェブ会議アプリというのか、リモート勤務の普及にともなって、その手の仕組みを用いるひとは増えた。すっかり公演の減った演劇界でも、これを利用したプロダク…

鶏卵と動物の福祉

photo by Emiel Maters 鳥インフルエンザが猛威をふるっている。日本各地で感染が報告され、すみやかに殺処分の措置がとられている由である。 人間に感染する型もあるにせよ、そもそも鳥類のインフルエンザが変異してヒトに感染するインフルエンザが発生した…

冬のオロモウツと「民族の館」

モラヴィア辺境伯の記事を書いていて、オロモウツのことをおもいだした。はじめて訪れたのはもう、20年ほどまえの話である。つもった雪をみると、思い浮かぶ光景も多々あれども、どうしてゆくことになったことになったのかは、さだかではない。 当時オランダ…

モラヴィア辺境伯ヨープスト

photo by urashima-e いつぞやのブルノ市の広報誌の記事によると、モラヴィア辺境伯ヨープストが没してから、2021年は610周年になるようである。命日が1月18日だったというから、すでに幾日も経ってしまったが、とおいむかしの話であるからして、このくらい…

あいまいな私見の私

photo by Henning Sørby 各国でワクチンの接種も始まったというのに、終熄しそうでいてなかなかしないのが、パンデミックのパンデミックたる所以というところか。おなじコロナウイルスといっても、SARSは2002年に最初の感染例が報告された翌年に終熄宣言がで…

エピファニー

客席から手拍子がきこえぬ「ラデツキー行進曲」では、新年が明けた気がしない。 元日といえばウィーン・フィルハーモニー管弦楽団で、まいとしほろ酔いのあたまでノイヤールコンツェアトを聴くのが習慣である。といっても高価なチケットを入手して出かけるほ…

ゆく年のベートホーフン

photo by Taylor Deas-Melesh 2020年は、ベートーヴェン生誕250周年であった。この、せっかくの観光客万来の年だというのに、こうむったのは疫病さわぎの冷や水であった。「ベートーヴェンハウス」を擁するボンやウィーンの関係者はさぞや、ほぞを噛んだこと…

アルフォンス・ムハの彷徨える《スラヴ叙事詩》

モラフスキー・クルムロフへ、アルフォンス・ムハの《スラヴの叙事詩》を観に行ったのは、もう10年は前のことである。 ムハの生まれ故郷、イヴァンチツェから約10キロ。モラヴィア南西部を蛇行するロキトナー川がS字をえがく淵に位置することから、おそらく…

ケリーメク──チェコ共和国の次期連立政権?

photo by Robo Michalec アドヴェントも第三主日がすぎたというのに、いぜん疫禍の騒ぎはつづき、ヨーロッパではドイツ連邦共和国を中心に規制が強められている。いつも冷静なメルケル連邦宰相が悲憤慷慨しつつ国民に協力を訴える姿が報じられていたが、隣の…