ウラシマ・エフェクト

竜宮から帰って驚いたこと。雑感、雑想、雑記。

チェコスロヴァキア

ガンブリヌスとは誰だったのか。

ガンブリヌスといえば、ビールの王として名高い。鷗外森林太郎などは「麦酒神」と、その存在をまさに神格化してしまってすらいる。 南独逸の半ば以上を占め、ガンブリヌス(麦酒神)の恵みを受ける豊饒な国に九百三十万の民草を統治するバイエルン国王──十一…

ミラン・クンデラ──世評の耐えがたき軽さ

ミラン・クンデラに、剥奪された市民権がふたたび授与された、と報じられている。日本語では、国籍といったほうが通りが良いかもしれない。 チェコスロヴァキア最後の大物亡命作家は、同国ブルノ出身ながら、1970年代に亡命して以来、フランス在住である。日…

世界でもっともうつくしい女

100を超える博物館施設があるというウィーンに、日本からやってくるひとは多いが、ユダヤ博物館をふらり訪れる者は、むしろ稀だろう。けれども、ウィーン市立博物館で町の歴史を概観したあとなどにゆくと、意外な発見があって、ユダヤの艱難の道のりを知る以…

ミロスラフ・ティルシュの像

プラハの日本大使館に用事があって、なにも考えずに朝がた地方から出てゆくと、よりによって到着する時間帯が領事部の昼休みにあたっている──ということがよくあった。 そうなると、小規模な博物館やランチ営業で混み合う飲食店を除けば、時間をつぶす施設な…

ビロード革命30周年とマルチン・シュミートの謎

Photo by Kevin Maillefer 11月17日は「自由と民主政治をもとめた闘争の日」として、チェコ共和国の祝日となっている。ボヘミアとモラヴィアを保護領化したナツィのドイツ当局が、1939年にプラハの大学を閉鎖した日であり、また1989年の、世に言う「ビロード…

聖マルティヌスの日

明日は鴨たべるのか──と、時候の挨拶のつもりで訊いたが、ばかな間違いをしでかしたことに気づかなかった。 質問された友人は、なんのことかとしばらく思案したのち、「カモ(kachna)じゃなくて、ガチョウ(husa)だろ」といった。大笑いした。寒くなってき…

四半世紀とか30年とかのオスタルギー

令和元年11月10日、東京では、ひと月ほど延期されていた祝賀御列の儀が行われ、沿道にたくさんの人がつめかけたと報じられている。この光景は、1993年6月の御成婚のパレード以来であると伝えるメディアもあった。じつに四半世紀以上が経過している。 それに…

狡兎死してクルド烹らる──中欧ファストフード事情から

Photo by Nathalie Dulex ケバブ。いまや日本でもお馴染みになった、あのドネル・ケバブである── 大戦後の西ドイツでは、労働力不足からトルコ人移民が歓迎された。結果、ケバブといえば、カリーヴルストやポムス・ロート・ヴァイスなどのB級グルメとならぶ…

カレル・ゴット逝去。Gott ist tot...

10月1日の夜遅く、チェコ共和国の国民的歌手、カレル・ゴット(Karel Gott)が亡くなった。80歳だった。2016年から急性白血病を患っており、2019年9月に闘病を公表したばかりだった。 現代チェコ語会話で、人名「カレル Karel」にたいする定型の愛称たる「カ…

プラッツェン高地の歩き方

アウステルリッツ三帝会戦──とは、とくべつに歴史に興味がなくとも、トルストイの『戦争と平和』や世界史の教科書によって知るひとも多いはず。 この名称はしかし、ナポレオンがプロパガンダのためにひろめたものにすぎない。実際の戦場は、現在のチェコ語の…

レイモンドと井上の群馬音楽センター

数年前の秋、西ボヘミアはプルゼニュを訪れたとき、駅前のバス停に突として現れたのは、《高崎白衣大観音》であった。──それは日本の文化に焦点をあてた交流行事を知らせるポスターであったが、プルゼニュ市にとって日本といえばまず、いわゆる姉妹都市協定…

ドゥコヴァニの原発をめぐって

影響は許容できる──モラヴィアのドゥコヴァニ原発で計画されている新たなプラントの建設に関して、8月30日、チェコ共和国の環境省は、最終的な環境アセスメントを公開した。直接の建設許可には当たらないが、建設に肯定的な内容であったため、事実上のゴーサ…

ボヘミヤの伍長?

ボヘミアの伍長──というのは、ときのドイツ国大統領パウル・フォン・ヒンデンブルクが、アードルフ・ヒトラーをさしていった表現だという。久しく人口に膾炙した謂いであるものの、ヒトラーは伍長でもなければ、ボヘミア生まれでもなかった。 こういった場合…

スカイ・ハイ──香港から来た男

photo by Florian Wehde 2019年の春から初夏にかけて、逃亡犯引き渡し条例の改正をめぐり、百万人単位の参加者を擁する抗議活動が断続的につづくようになった。特別区行政長官・林鄭月娥の失脚は免れまい。選挙で選ばれながらも、民主主義を崩壊に導いている…

ザッハートルテ【麦酒】

Lucky Bastard/ Hellstrok Sacher dort ザッハートルテといえば、ささやかではあるにせよ、ウィーン観光の目玉のひとつで、これをアインシュペンナーやメローンジュと呼ばれるコーヒーといっしょに試食するのを、世界中からやってくる観光客がたのしみにして…

国名や外名、その表記について

外務省の国名表記の問題の記事がよく読まれているようなので、そのあたりのことで思いついた由無し事を、覚え書き程度に書き留めてみようとおもう。 合衆国か、合州国か 第三帝国? 中国か、支那か ボヘミア・モラヴィア・シレジア(ベーメン・メーレン・シ…

"ブレグホウク"?──チェコ軍次期汎用ヘリ機種選定の行方

photo by urashima-e 2019年末までに、Mi-24/35の後継として12機の双発汎用ヘリを取得する旨、チェコ共和国の国防省が発表した──とニュースにあったのは、数か月まえのことだった。 ところが、発表は曖昧すぎた。このMi-24、あるいはその後期輸出型のMi-35は…

令和前夜のチェコスロヴァキア

チェコ共和国にいて、地方の飲み屋で令和を迎えることになった。明くる5月1日はメーデーの祝日である。 平成が最後の数分をむかえるころ──といっても、むろん日本時間ではない。日本ではとっくに令和になっていて、宮内庁職員がおそらく徹夜で準備した儀式が…

グラマンがきたぞー!【麦酒】

3月10日は、東京大空襲の平和祈念日であった。その頃のんだ麦酒。 Matuška Hellcat──低温白濁は無い 「グラマン」の通称で、戦中は一般庶民にも恐れられた米海軍の艦上戦闘機、F6F ヘルキャット──それに由来する名の製品である。 もともと醸造所では、ノース…

パンドゥーアII

「武器輸出禁止三原則」が見直され、2014年に「防衛装備移転三原則」があらたに閣議決定されてから、日本でも兵器の輸出が構想されるようになった。しかし、日本の防衛産業に成功らしい成功はいまだにない。 川崎重工が、C-2輸送機をオセアニアに輸出しよう…

アエロ社、創業100周年

きょう、2019年2月25日、創業100周年を迎えた航空機メーカーがある。 アエロ・ヴォドホディ社がそれで、現行の名称を、AERO Vodochody AEROSPACE a.s.と称する。1919年2月25日、チェコスロヴァキアで設立された。プラハ近郊、人口6000人ほどの町、オドレナ・…